第四話7月15日庭にダンジョンが出来た……
「な、なんじゃこりゃぁぁあああああ!!」
7月15日、夏休み初日早朝。
加藤光太郎はそんな大きな叫び声で目が覚めた。
自宅から車で小一時間の場所にあるここ、豊川市は愛知県のやや外れに位置する。同県の政令指定都市『名古屋』文化圏からは微妙に離れ、なんなら隣県『浜松市』の方がアクセスが良い。
そんな豊川でも山側の、田畑に囲まれた父方の祖父母の家に来ていた。
「丹精込めて作ったワシの畑が! ワシのキュウリがあああぁぁ!」
与えられている部屋の窓を開け、家庭菜園のある庭の方を向く。
そこに居たのは家に背を向け、膝から崩れ落ちるようにして地面にへたり込んだ祖父の姿だった。
爺ちゃんは仕事を引退してから、趣味と呼ぶには本格的な規模で家庭菜園をしている。当然そのショックは押して計るべきだ。
「どしたの? 爺ちゃん? またカラスにでも食われた?」
俺はまだ眠い眼ををゴシゴシと擦り、目ヤニを取り除く。
昨日は夜遅くまでゲームをしてためか眼精疲労が凄い。
「阿呆! 地面に大穴が開いておるだろう!」
祖父の持っている鍬が差し示したのは、直径3メートルほどの大穴と言って差し支えないものだった。
穴と言うよりは亀裂と言った方が正しいような気がする。
「あーほんとうだ、確かに大穴開いてるね……ここって軟弱地盤って訳じゃないでしょ? もしかして気が付かない間に地震でもあった?」
「早朝に震度五の揺れはあったのに……まさか、お前気付かなかったのか?」
祖父は呆れ顔でそう言うと、首に巻いた手拭いで額の汗を拭った。
さんさんと太陽が照り付ける前ではあるが、既に動けば汗が滲むほど暑い
窓から乗り出した身を少し引っ込めると、エアコンの効いた冷涼な室内に癒される。
「あはははは。『でもFPSがやめられない』なんて言ってみたりして……」
気まずさを誤魔化すために冗談を言ってみたものの、友人がロクに居ない俺にはどうやらお笑いのセンスは無いようだ。
「ゲームに夢中で気が付かなかっただと、バカ者!危機感がなさすぎる!年数回大災害に襲われる昨今、果てはダンジョンとかいう原因不明の物まで出て来るようになった。
何が起こってもいいように枕元には、防災鞄とスニーカー、首には笛をかけて置けとあれほど言っているだろうに……」
全く戦中ギリギリに生まれた人は心配性だな……
「まぁ良い、ワシは役場に連絡するから今日はどこにもいくなよ?」
有無を言わさぬ気迫があった。
「念押しされなくても、出掛ける当てなんて初めからないよ……」
俺はポリポリと頭を掻いた。
友達のいないぼっち高校生の俺の行く先なんて、本屋か地元オタクショップぐらい、後は妹が入院している病院しかない。
「そうじゃったな。ワシと違って光太郎は、友達も居ないからな」
祖父は憐れむような視線を向けてそう言った。
「クソじじいめ……」
呪詛を込めて罵るが、祖父は何でもないと言いたげな表情を浮かべる。
「何とでも言うがいい。ワシは周囲の作物を収穫しておく……もしかしたらこの穴は《《ダンジョン》》かもしれんからな」
国産スマートフォンで役所に電話をかけた。
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