第二話四月末の学校
『スクールカースト』それは、青春を謳歌せしリア充どもを揶揄する言葉だ。
語源はインドにある身分制度をもじったもので、聖職者、戦士、市民、労働者、不可触民の五階級が存在すると学校では習うが、実態はもっと複雑であるらしい。
それはスクールカーストも同じで、スポーツや容姿、話術に優れる一軍、一軍の下位互換あるいは反発勢力である二軍、特に個性のない三軍、そして好き好んで少数で集まっている陰キャの四軍、そしてその全てに属さない無キャの五軍。
コレを考えて何かに似ていると思った。政治家の勢力図だ。
このネット掲示板で生まれたスクールカーストと言う言葉は、きっと三軍か四軍の奴らが考えたのだろう、なるほど的を射ている。
福沢諭吉も主も、「人は平等」と言う旨の話をしている。
諭吉は「神様は人間を平等に作ってて、生まれながらにして上も下も無いと言うが、なんで頭のいい人もいればバカもいて、金持ちもいれば貧乏人もいるのだろうか? 頭いいヤツとバカの違いは、学んだか学んでないかという事だ」と世の不条理を嘆き、成り上がるには勉強だと言っている訳だ。
神は贈り物と言う贈り物を人々に与える。
ギフトを持った人は、それを社会に還元しなければならないと言うのが、アブラハムの宗教を信じる人々の共通的な見解だ。
しかし平等を理念とする理想論は、強権を持つ存在を産み、弱肉強食の競争社会を前に修正を余儀なくされた。
そんな歴史を経て俺達は、自己を確立し他者と自分を隔てて認識するために、自然と同じ人間に美醜や能力の有無で優劣を付け、見下し、差別し、分類しレッテルを張って自己防衛をする術を学んでいる。
否、学ぶしかないのだ。
それが学校と言う、社会の縮図で戦って行くのに必要な技能だからだ。
ペアや班決めをするときなど学校生活の場面の多くで、疎外感を味わう事が多い。
身体的特徴をからかわれたとしても、自分より上位のものは「それな!」とか愛想笑いを浮かべ事を荒立てず、精神を疲弊させながら生きていくしかない。
両者共に区別される痛みと、区別を楽しむ方法を学んで行くのだ。
もし自分が何かの理由でいないときに、さっきまで談笑していたクラスメイト達が、自分の悪口で盛り上がっているかもしれないと考えるだけで、胃がキリキリと痛む。
下に居るから苦しいのだろうか? 上から見下ろす側に回ってしまえば、随分と楽なのかもしれない。
少なくとも下から見ている光景は、随分と自分勝手に振る舞っていて楽しそうだ。
万引きをはじめとする軽犯罪やテストの赤点、停学でさえも自慢げに話し輝かしい青春の一ページにしてしまうのはこう何とも羨ましい事だ。
そんな事を考えながら、中肉中背の加藤光太郎は何時ものように席でライトノベルを読んでいると、ガラガラと鳴る教室の引き戸が開き、自信に満ちた元気よい挨拶の声が聞こえた。
「おはよー!」
陽キャの風格を纏っているクラスカースト上位の生徒――――芸能人とまではいかないもののそこそこ整った顔立ち、整えた毛先をワックスでふわっと遊ばせた高身長で筋肉質な少年――――がそこに立っていた。
少年が挨拶するだけで、男女問わずクラスの半分ぐらいが挨拶を返す。少年はニコニコと太陽のように微笑みながら、「おはよう、吉岡さん髪切った?」「今日朝メシ食べ損ねちゃって……」などと軽い談笑をしながら、机の間をすり抜けて、自分の席を目指して進んでいく……
すると光太郎の席の付近を通り、目が合う。
「お、おはよう」
「おはよう」
少々目を伏せ礼儀として挨拶をする。
彼はオタクで陰キャ気味な光太郎にもしっかりと挨拶を返してくれる。
流石は学年有数のモテ男、鴨志田隼人だ。
彼が席に着くと、クラスのカースト上位勢メンバーが集まって来る。
中心はもちろん、鴨志田隼人。彼はサッカー部の次期エースと言われている、元Jrユースメンバーでもある。
野球部の期待の新人で坊主頭の多田野勇人。
バスケ部で長身の大場など、男子を始めとする陽キャメンバーがぞろぞろと集まって来る。
「加藤君、顔色悪いみたいだけど大丈夫?」
そう言ったのは誰だろうか? 多分近くにいた一軍メンバーの男子か準一軍メンバーの誰かだったと思う。
「あ、まぁうん。バイトが忙しくて……」
「え、この学校バイト禁止だけど何かあるのか?」
「えっと……まぁ……」
空気を悪くしたくないし……そんなことを考え、言葉を濁す。
この学校に入学してから1月と少し、そこまで深い関係を結んでない光太郎には「妹の病気のため」と言う、重い話題を出す理由は無かった。
妹の入院費は継続的に安くない金がかかる
治療には高価なダンジョン産の回復薬が必要になるオマケ付きだ。
それでも完治させるには至っていない。
陽キャ特有の短い距離感で、陰キャの広いパーソナルスペース内に背後から侵入し、覗き込みながらやや小馬鹿にした知ったか理論を話す。
「学生なら部活で青春しようぜ! バイトとか言って家で一人悲しくゲームしてないでさぁ~」
一軍かそれに連なる金魚のフンが、一人でいる事をまるで悪い事であるかのように語る。
「もしかして徹夜で一人寂しくエロゲでもしてんだろ?」
その流れで言った多田野の一言で、どっと教室が涌いた。
一体何が面白いのだろう? ゲラゲラと爆笑する一軍の男女達。
光太郎が『小馬鹿にされた』と感じたのは、単なる気のせいだったかも知れない。もしかしたらお節介な親切心のなせるものだったかもしれない。
だがあまりにも疲れが酷く、話すつもりがないことをつい喋ってしまった。
「君達と違って妹が入院してて、受験シーズンはほったらかしだったから、きっと寂しい思いをしていると思うんだ。だから妹のお見舞いに行くから、悪いけど平日に部活なんてしてる余裕はないんだ。
それに何か勘違いしてるみたいだけど、バイトは学校の許可を貰ってる。休日もほとんどはバイトして自分の小遣を自分で稼いでいるんだ。」
何とも言えない。ばつの悪い雰囲気が周囲を包む。
「そ、そうなんだ加藤は妹さんの事を考えられるしっかりモノだったんだな……」
鴨志田は、引きつった顔を根性で押さえつけ、ニッコリとした笑みを浮かべこの空気をフォローを入れてくれる。
光太郎はこの一言のせいで触れづらい存在と認識され、雑談をする程度の関係は築けたが高校生活のスタートダッシュには失敗した。
これが四月末の事だった。
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