ココだけの話
複雑な感情が彼を襲う。
原因は、そう。
アデイロの撤退だ。
セラーゼの為なら命を落とすことも厭わない奴が、ここで撤退とは腑に落ちない。なにかがあるはずだ。
それはなんとなく想像ができたのだが貧困な想像力のせいで予測を立てることができないでいた。
来るべき事態に備えすらできそうもないコベセルにふと、ある思いが浮かぶ。まさか王都で何か?
もし、そうなら?
自分はどうすれば良いのだろう?
迂闊に動けば自分の本性を皿毛でしてしまうかもしれない。豪快に見せかけて実は矮小だという本性を…。
決断ができないまま時間が過ぎてゆく。
指示を待つ部下の視線は時間がたつほど期待度を増しているように感じる。
ところが、彼らに視線に反応して取り巻きの顔を見渡すと彼らは皆、顔を伏せ反応する部下はいない。
コベセルは、この時初めて自身の身の程を知ることになった。
今までの経歴は自分で積み上げたものではなかったのだと…。
後悔する彼の脳裏に浮かんだのは、今まの職務全てを丸投げにしていた人物の姿だった。
けれどその人物は今ここにはいない。
目の前にいるのは、彼の反対を押し切って迎え入れた者ばかりだ。彼らの口からは耳障りの良い言葉が絶えず奏でられ、苦言を呈する者などいない。
言われた事をそれなりに実行し、失敗してもこれと言った影響がなく自分の裁量で誤魔化せる程度の範囲だった。
だが今回は違う。
国境を越え、尋常ならざる力を行使する敵に対して彼は、いや、彼とその部下達は無力だったのだ。
出征前、言われた言葉が今更ながらに心を抉る。
「たまには人の意見も聞いた方が良いですよ…」
今の自分には心底身に染みた言葉なのだが、いざ求めてみると、そこには進言する者が一人もいない。悩む素振りや苦悩の表情はみせるものの、これといって発言するわけではない。
その様子はまるで、自分に責任が降りかかるのを避けているように思えた。
落胆するコベセルと複数回視線が交錯する者がいる。
残念ながら彼の部下ではない。出征前に押し付けられたあの女の手下だ。
このとき彼の脳裏に再び蘇ったのは、王都に残してきた腹心の言葉だった。
覚悟を決めた彼はゆっくりと息を、深く吸い言った。
「これより全軍で敵を駆逐する」




