悪の組織
粗末な部屋のベッドにヤクダイはいた。意識が戻った彼女は辺りの様子を伺おうとするが、体は動かない。特に拘束されている訳でもなく、神異力も使えない所を見ると、部屋か体に何か制限をかけられているのかもしれない。諦めず、少しでも情報を得ようと、辺りを見渡していると、扉の開く音がした。
入って来たのは恰幅のいい女性で、手にはタオルを持っている。敵意は感じられない。彼女はヤクダイが起きているのに気がつくと
「目が覚めたみたいだね、明日には動けるようになるから、それまで我慢しておくれ」
ヤクダイの体を起こしながら話しかけ、そのまま服を脱がせると体を拭き始めた。この時女性に、簡単にだが自分の置かれている状況を教えてもらうことができた。
それは彼女にとって俄には信じ難く、体が動かないこともあって苛立ちが募る。それが伝わったかのように女性が
「ま、焦らずに明日まで待ちなさい」
と言い、片付けをして部屋を出ていく。
残されたヤクダイは女性の言葉に従うしかなく、諦めて思案を巡らせる。そのうちに彼女は眠りに落ちていた。
「いまさら?」
魔王が倒れたとき最後に聞いた言葉。ヤクダイは夢と現の間でその声を聞いたような気がした。
魔王最後の場所、そこには勇者と共に戦った7人の仲間が残っている。勇者は魔王退治の吉報を村人たちに届けよう、とその場を離れていた。
「まさか彼が禁忌を犯すなんて思わなかった」
魔王のなきがらを前にしても、まだ信じられないユリーが呟く。
もともと魔王を含む8人は神に使え、それぞれがこの世界の種を導く者として存在していた。
ところがある日、種の壁を超えた生物「魔物」が現れる。人間と他種との配合という禁を犯したとして、ベゼルは後に魔王と呼ばれることになる。
ベゼルは魔物化した人間を元に戻す方法を探すが、彼の仕える神の力でも叶わない。唯一の可能性は、自らが人間と融合して手に入れることが出来る魔力だ。
だがそれは、神の力を捨てる背信行為でもある。
そんな時、ベゼルが魔物に襲われた男に出会う。命を救うため融合した彼は魔力を手に入れた。しかし、手に入れた力は肉体を人型に留めるのが精一杯で、魔力まで封じる事はできなかった。
ベセルによって人の体を取り戻した者たちは、魔力を使い同じ境遇だったものたちを救うために各地へ散っていく。
勇者が魔王城へとやってくるのはまだ先の話だった。