だいなし
立ち上がるジャステイウスの両手には彼の仕込んだ香具が数本。
左右の手が軽く握ると、棒状だった香具がワイヤーフレーム球体のような形状に変化する。その数は、左右合わせて六つ。
それらは左右の手、指と指の間に挟まれ、時を待つ。クフェナ達の視線を誘導する瞬間まで。
ゼロコンマの一瞬。彼らの反応の速さに、仕掛けたジャスティウスの動きが遅れる。
この失態で残っていた部下の幾人かが離脱した。
しかしここで止めることは出来ない。
舞うような仕草で香具を放つ。警戒するクフェナ達の意識を奪う。
この時、ジャスティウスは新たな補助球を放っていた。
その間にも主は三人の周りを回り続ける。無臭を放ちながら…。
消臭ではない。存在する香りを強制的に塗りつぶし、標的は五感の一つを奪われる。と、同時にジャステイウスの新たな罠が発動した。
Y-1581。
視線誘導はこの為の布石。少なくとも自身はそう思っている。
ただ、この三人に対して不安があったのだろう、念のために二枚貼っておいた。
三人の中でクフェナだけはこの球体の球体の危険度を知っていた。
これはまだ陽動、ジャステイウスの真の狙いは?
嗅覚を奪われながらその動きに集中する。
「大いなる力!その片鱗を我に与えたまえ!」
突如として叫んだのはコゴトウ。
殴りかかるような仕草をした彼の手は握り拳ではなく、抜き手のような形をしている。
そしてその正面には、小さく連なった四つの魔法陣が形成されていた。
突然の呪文。
しかし今さらどうしようもない。
彼は世界はY-1581に包まれ、そして溶け込んだ。
この時最大限に警戒していたクフェナは背景の変化に高まった緊張を、一瞬だが抜かれてしまう。
他の二人は?
詠唱を終えていたコゴトウは眼前に現れた魔法陣に指を通し、消え去る寸前のジャスティウスに殴りかかっていく。が、魔法陣に確実な手ごたえは無く、残ったのは魔法陣に絡みついたY-1581だけだった。
一方、ジパムはクフェナの隙を突かれるように護衛を優先し、ジャスティウスへの対応はとれていない。
危機を乗り切った。つまり、部下に対して威厳を示した。
自分ではそう解釈しジャスティウスだが、結界がいつ破られるか?
という不安から、悠然と、と言うにはむりがあるほどの速度でその場を去っていく。
そしてその後には、彼の評価に対する保留組が数名ついていくのだった。




