意図せぬ効果
人中を押すことで今にも弾けそうだったくしゃみは抑えることができた。もしくしゃみをしていたら、それを切っ掛けに襲いかかられていたかもしれない。でもこの後は?
突破口や解決策が見つかる様子もない状況で、ヤクダイは再び香りの効果から意識の混濁へと誘われようとしていた。
「うわっ!」
複数の叫び声と共に彼女の瞳の端に映ったのは、兵士を襲う黒い物体だ。この襲撃に兵士達は投擲武器による損傷を警戒しする。それに伴ってヤクダイへの注意が薄れた。
ざわつく包囲網。しかしジャステイウスは周囲の動揺に惑わされることなく彼女を見ている。なぜなら彼女の先ほどの行動の効果が表れていないからだ。いま起こっている周囲への攻撃は、恐らく彼女の攻撃を最も効果的に発動するための陽動だろう。その証拠に彼女の目には生気が戻ったような気がする。惑わされずに対応すれば容易く制圧できるはずだ。
彼女をお持ち帰りする、という強い意志が溢れ、体が引き寄せられるように半歩すすむ。
周囲の混乱、ここしかない!
この機会を逃せば、次どころか命がある保証もない。覚悟を決め、意識を集中する。
それは幼いころに封印した力。はたしてそれが今でも使えるのか?迷っている時間は無い。失われた力が戻らない今、手段はこれしかないのだから。
覚悟を決めて封印を解く。
解き放たれた紋章は彼女の臀部にゆっくりとにじみ出るようにその姿を現す。だが、紋章が現れると同時に彼女の全身は蕁麻疹に覆われた。
紋章アレルギー。
かつて栄華を誇った紋章使いの一族がこの症状によってその地位を追われ集落した病。
一縷の望みを託した彼女だったが、今はまだ紋章を使うことが出来ず、断念した。
警戒をしなければならないはずなのに、思わず。不用意に近づき少しだけ後悔したジャステイウスが見たのは全身が蕁麻疹に侵されるヤクダイの姿だった。
もしかして、俺の接近が彼女に影響を与えたのだろうか?
もし、そうなら。自分は今までで一番理想の女性に出会ったことになる。肉体だけでなく、精神と心までも自分を受け入れてくれる存在なのかもしれない。
でも、蕁麻疹で決めつけて良いのだろうか?
過去に何度も裏切られた記憶が蘇った彼は積極的な一歩が踏み出せず、逆にほんの少しだけ後ずさりしてしまう。
するとどうだろう?
彼女の全身を覆っていた蕁麻疹が薄れていく。
その様子を見てかれは確信した。彼女こそが究極の伴侶だと。




