波芯の行方
覆いかぶさるように少年を包むミオラは彼と共に倒れこんだ時、既に異変を感じていた。
少年の体温の低下と異常な脂汗。生気と言うか、生物が持っている力を失ったような状況に危険を感じた彼女は、危険を承知で無防備な背中をミオラに晒し、サルハを抱えて距離をとる。
この時レグトナに援護を、と視線を向けたのだがその表情に微妙な含みを察して期待を捨てた。
少年が受けた体当たりとほぼ同時に放たれたのは、彼の生命力と言っても良いだろう。意志によって操作できる思考や行動などの生活に必要な力ではなく、心臓の鼓動や精神の抑制という生命の維持に必要な力を凝縮したものだ。
自分を覆う影を排除するにはこういった力をぶつけて排除するしかない。
狙いを定めて放った力はレグトナの影を霧散させ、同時に術者の精神にもダメージを与えるはずだった。
けれど結果は?
寸前に軌道をずらされた精神の矢はたわみ、ブレながらラノアの首筋を掠めて通り過ぎてゆく。
彼女にとって幸運だったのは、この波打つ矢が通過する時点である程度の影をこそげとってくれたことだ。
自由を取り戻した、部分を使って反撃に出る。標的は?
いきなり冷水を浴びたような感覚が彼を襲う。
影を循環させながら拘束しサポートに徹していたが、その一部を突然そぎ落とされた彼に襲いかかったのは、指を喉の奥にまで何度も突っ込まれたような嗚咽感だった。
ちょっと涙目。
そんな時でも一応はレグトナのアイコンタクトに気が付いてはいる。けれど今はこぼれる涙をこらえるのに精一杯で、援護できるほどの余裕はない。
それでも影の循環を活性化させ、より濃い影で再び抑え込もうとしていた。
術者の昏倒で制御を失った矢は大気を切り裂きながら暴走する。
その先には…。




