予感
油断をしていたわけではない。
ただ、舐めてただけ。
地方の警察にそんな実力者がいるとは思っていない。それは、さっき勢いよく飛び出したお嬢さんが新人に容易く拘束されたのを見れば解ることだ。
後は簡単。彼女より格下だと思われるこの男を制圧して報告書を提出すれば今回の任務は終わる。
まぁ、地元警察とモメたことで少し文句を言われるかもしれないが、それほど問題にはならないだろう。
チラ見で新人達の様子を伺いながら、一応はロジンにも注意をはら…
ん?
エストの感じた違和感はほんの些細なものだった。
例えばそう、凡人が常人に変化したような、小さな変化。これは?
良くない。これはあまり良くないな。そんな予感が彼を襲う。
だが、能力で劣るとは思えない相手になぜそう感じるのかはわからない。ただ、念のため、密かに肉体の強化を行う。
「もうだめかも」
呟くような弱々しい声がロジンの心に響く。先輩として接してきたつもりだったが、最近は少し気になる存在となってしまった彼女のそんな呟きに心が揺れる。
ここは俺が何とか。
先輩として、後輩を守る為に決断する。
しかし、好機というのは早々に訪れることは無いようで、既に勝敗が決まった彼女達の様子を見ればここから逆転の、というのはどう考えても難しい。
だが、自分の行く手を阻む男を倒せれば、もしかしたら形成を五分に持ち込むことができるかもしれない。
後はそう、タイミングだけ。
いや、それも恐らく大丈夫。そんな予感がする。
現にいま、彼の意識は少し揺らいでいるようだ。このタイミングで彼女と俺の心が通じ合っていれば、奴の意識を奪ってくれるはず。その刹那。
俺の切り札が奴を!
既に勝敗が付いたのだが、経験の浅いサルハにはまだ理解できていないようだ。
さらに追い打ちをかけようとする少年の動きがエストの注意を引いた。
そんな彼の視界の片隅に現れた一筋の輝き。
これは危険だ。
理性が、経験が激しく警鐘を鳴らす輝きから目を逸らそうとするのだが、意識に反して視線は輝くへと吸い込まれていく。
その視線の先には…。
と同時に脇腹に激しい衝撃を受け、悶絶して崩れ落ちるエスト。
しかし、さっきの予感のから肉体の強化をしていたおかげで、かろうじて追撃を回避する。
思わず舌打ちが漏れてしまったのは、奥の手の自賛鏡を使っても相手を仕留められらかったからなのか、それとも予感通りに彼女と心が通じ合わなかったから?なのかはわからない。
ただ、今大事なのは目の前の敵をどうするか?
今ならまだ…。
一対一の場面なら何とかなる。敵が対策を立てないうちにもう一度。
自賛鏡を放って斃す。
今度は?いや、きっかけは必要ない。純粋に小細工なしの一撃で決着をつける。
この決意の後に起こる出来事は、この場にいる誰も予感することは無かった。




