レミエルの回想
この日レミエルは後悔していた。
後になって少々の嫌味を言われようと、断るべきだった。今回はたいした収入もなく帰ることになるな。
そんな思いを抱きながら、ぜリンの元へと挨拶に向う。
警備に通されたレミエルが宴会場に入ると、当たり前のように酔っ払っているぜリンがいた。通常営業のようだがいくぶん浮かない顔をしている。改めて彼の表情を見たレミエルは、王都で知った噂が真実だったと確信する。
ちなみに噂とは、奥方の機嫌をとるために貴金属や装飾品を贈らなければならない。その為には金が必要だと言うもの。元々はぜリンが新たな妾を迎えようとしたことが原因だから自業自得なのだろう。
とはいえこんな帰還率の高い作戦にまで出てくるようでは、よっぽど金に困っていると見える。ここは一つ、貸しを作っておいたほうが良いかもしれん。
そう考えたレミエルは今回に限って、作戦収入から実費のみを引いて提示する。おそらく誰も真似ができないはずだ。もし聖堂から他の教補が来ていても負けるはずがない。それほどの金額だった。
退出した彼が控えの部屋で冷めたお茶を啜っていると、ノックも無く男が一人入ってくる。うん?ぜリンの側近だったか?見た顔だ。どうも金にならんことを覚えるのは苦手だな。なんてことを考えながら立ち上がり目礼をする。
男は特に名乗ることもなく、レミエルに座るように言い、自分は机を挟んで対面に座った。
もちろん要件は作戦同行への依頼だったので、それに快諾し、自分の部屋へ戻るために腰を浮かした。
「それと…」
声に反応して座りなおすレミエル。
しかし男は黙っている。そこでレミエルは、内密にと言って促した。
すると男がおもむろに口を開く。簡単に言えば、魔物を倒したときに獲られる珠玉の一部を私物化する、というありふれた話で別に驚くことでは無い。
何をいまさら、とレミエルは拍子抜けしていると。その表情を察したように男が続ける。
「討伐隊の参加者を魔物に変貌させ、そこからも珠玉を回収する」
男は語る、魔物と戦っていると当然戦死者は出る。しかし、人型で死んでも魔物となって死んでも、死は死だ。だったら我々の役に立ったほうが、彼らも嬉しいだろうと。
この時レミエルは神に仕える者として、倫理的にも人道的にも許されないことだと感情を昂ぶらせる。強く握りしめた拳も微かに震えているようだ。だが今ここで心のままに行動して良いのだろうか?
「感情は人を惑わせる」
という。この教えを改めて深く、心の奥にまで染み渡らせた彼は、深く息をした。気持ちを抑え、新たに打算的思考からの結論を導き出す。
足取りも軽く部屋を出ていくレミエルはこの時、ようやく俺にも運が向いてきたと感じていた。そして結局、男の名前は思い出せなかったな考えながら自分の部屋へ入っていくのだった。