思い出し笑い
ふふっ。
四笙の会合に訪れたイアスの口元に、思わず笑みが零れる。
彼女の瞳には、会場の入り口で戸惑っている青年が映っていた。
恐らく初めての参加だろう彼の様子を見て周囲の何人かは彼女と同ように笑みを浮かべている。
その中の幾人かは、彼女と同じように初めて会合に参加した頃の自分を思い出していたようだが、困惑する彼の姿を冷笑するものだった。
でも、こんな時に新人を送って来るなんて何処かしら?
ペリニシア侵攻を決め、進めてきた初期メンバーに変更があるなんて、予想外だわ。
退魔機関、魔物退治の使命を帯びたスペシャリスト。
神聖団体、魔物殲滅の大義を掲げるプロフェッショナル。
聖法協会、魔物征討に信念を燃やすエキスパート。
破邪連盟、魔物駆逐を願うエリート。
この世界を導く組織、四笙と称される彼らが進めている「䰠蝕」を目前に担当の変更とはいったい何を考えているのかしら?
まったく近頃は―。
微笑ましいひと時から一転、そっち系に意識が転換しようとした彼女に声をかける人物がいた。
「や、いやー、イアス様、ご無沙汰してます」
旧知の仲、ご存じ○○でございます。といった感じで声をかけてきた男。恐らく彼は過去に会ったことがあり、挨拶も交わしたような気がする、たぶん。
ん?っとぉ…誰、だっけ?
本来ならここで彼女は記憶を呼び覚ますべく全力を注ぐべきなのだろう。
でも、その前に一応。満面の笑みを見せながら右手を差し出してみた。
美しい女性から差し出された、白くしなやかな右手は名も知らぬ、いや、過去に紹介を受けたけれど忘れてしまった男性によって瞬時に、しかも強く握られていた。左手付きで。
しかしさすがに左手までついて包み込まれると、彼女の心の天秤が嫌悪と平静で揺れ動き、バランスをとるのが難しくなっていく。そんなとき。
「ところで、お聞きになりましたか?」
唐突な彼の言葉に、握手のハガシを考えていた彼女の動きが止まる。
彼の視線の先には先ほどの青年がいるのがわかった。そして顔には自分とは違う嘲笑が含まれているのも感じ、先ほどの含みを持たせた言い回しに少し興味が湧いてくる。
そこで彼女は若干手汗のにじみ出てきた彼の手を放し、何があったのかを聞いてみた。




