それでね 中編
世界を救う。
こういった伝説には必ず勇者や英雄が登場する。過去の物語などを調べても、悪者と呼ばれる者たちが体調不良で撤退したり、事故死によって世界が救われた話はあまり聞いたことが無く、概ね勇者とその一味が正義の名のもとに悪を滅ぼしていく。これらの物語で語られるのは道中の挫折や活躍なのだがその中には知られざる真実が隠されている。
ザレルがそのことに気づいたのは彼がまだ幼く、俺強え系勇者に憧れていた頃だった。
凡人や非力な少年少女がある日突然勇者となって悪を倒すお話は痛快で、彼の脳は次第に最強伝説に染められていく。新たな無双を求めて様々な土地を訪れては地方の物語をかき集めていた。
その成果は、やはりメジャーな物語りほど彼を満足させてくれるのだが、その刺激に満たされ続けたせいか、有名どころの話を聞いてもそれほど感情が盛り上がることは無かった。
しかしそういった話に興味を失ってしまったのではなく、いわば三流かそれ以下の名前を知られることなく語り継がれる者たちに興味を持つようになっていく。
名前も知らない三流の、と言えば大した力を持っていないように世間では思われがちだが、そのあたりは意外に力を持っている者たちがいて、現在の自分たちが使っている能力や魔法、神異力などのルーツではないかと思われる技や、メジャー伝説の勇者が模倣したのではないかと思うほどのインスパイア系法具も存在する。
「宬掌館、伝説の影、いや彼らこそが真の伝説なのか…」
関係者と思われる男がいるという宿に着くが、情報ではただの常連客らしいし、今回もそれほど大した話が聞けるとは思わない、が、万が一ということもあるし、場合によっては尋問や自白剤などを使っても。
思いを巡らせながら宿の扉を開けると、一階は飲み屋も兼業している食堂のようだ。
新たな来店者に数人は視線を向けるが、自分の知り合いでないとわかるとそれらは消えていった。
「いらっしゃい!」
恰幅のいいウエイターが入店したばかりの気の良さそうな老人に声をかける。
これに対してザレルは普段使いよりもいい笑顔で答えたのだった。




