名もなき村
部屋の扉を叩く音が聞こえた、ちょっと強めに。
しかし夢と現実の狭間を満喫していたナウゼは、その音に込められた来訪者の意図は伝わっていないようだ。
無音。
室内の反応に業を煮やしたのか、扉を開けて無理やり侵入してきたのは、一人の女性だった。
「ナウくん、いつまで寝てるの、はやく起きなさい1」
部屋に入って声をかけながら寝ているナウゼの体をゆするが、微睡に捕らわれた彼の意識は惰眠の束縛から逃れることは出来なかった。
起きなければならない気持ちと、現状に身を委ねたいという葛藤。
そんな彼の心の中に生まれた天秤が僅かに傾き、口から出た言葉は
「ママ。もうちょっと」
だった。
ママの顔色が変わる。
「あっ、あんた、いい年して何もしないで!」
布団を引っぺがし、臀部に強烈な平手打ちを入れ、さっさと起きろと声を荒げるママの勢いに押されて現実に呼び戻されたナウゼは、立て続けに浴びせられる暴言のシャワーにすっかり目が覚めてしまう。
そして愚かにも反撃を試みた。
俺はこの世界を救う勇者だから、いろいろやってる。そのうち結果が出るはずだと。
この屋外まで響き渡る母子の言い争いはいつもナウゼの敗北で終わる。
彼はこの状況になっていつも思う、やっぱりさっきの言葉は言わない方が、いや、言ってはいけない一言だったと。
いつもこれでママと言い争いになっているし、言っちゃだめだ。
これは後になっていつもそう思う、しかし一方では、夢現を彷徨っているときにそんな判断ができるのか?という思いもあり、難しい問題だという事だけが彼を苦しめ続けていく。
とりあえず、後悔と反省は後ですることにして、取り急ぎ身支度を整え、キッチンで朝食が出てくるのを待つことにする。
そこにナウゼの乱れた布団を整えたママがやってきて、朝食を用意した。
「早く食べなさい、外でお友達がまってるわよ」
「もすぐ出てくるな」
家の前ではサニールとフロロが顔を見合わせて頷く。
ナウゼとママの言い争いが一段落したのを感じた二人が待っていると、そこにようやくナウゼが現れた。
子分を前にして、待たせたなと軽く手を上げるナウゼが二人に声をかける。
ママが心配症でモメちゃってさ。
まぁ、子分にそんなことが言えるはずもない。
ナウゼが二人に言ったのは。




