いらない
コゾロナが入室してきたのを見たセラーゼの表情は、先ほどの訪問者に対するものとは全く違っていた。
一応はコゾロナに着席を促すのだが、腰を掛けるより早く言葉が出る。
「集まった?」
いきなりの問いかけに、コゾロナの視線は椅子からセラーゼへと移動し、質問の意味をもう一度頭の中で確認したあと、ゆっくりと頷いて答えた。
「ある程度は…」
お望みの答え、とはいかなかったのだろう。セラーゼの表情がほんの少し曇ったように見える。
「現状では少し手札が足りないようですが、アデイロにも何人か回してもらえれば…」
…無理か。
答えを聞くまでもなく、セラーゼの表情がそう言っている。
人間を魔物に変貌させることが出来て、かつ死んでも惜しくない者の選抜せよ。
人を魔物に変貌させる力を持つ者。この存在は、教会でかなり重要な地位を担う者が多い。
そのなかで失っても良い存在?長年育てた果樹を一度の収穫で切り捨てる?
しかし、迷ったのは一秒もなかっただろう。
「わかりました、明日には確実に」
返事を聞いて和いだセラーゼの表情に一応は安堵するが、本来なら切るつもりのなかった配下を切らされることで他の七光に後れをとるかもしれない、という苛立ちが沸き上がり心のバランスを抑制できないほど傾けてしまう。
その結果、つい余計な一言を呟く。
「コベセル様は何をなさっているのです?」
しまった!
だが思った時にはもう遅い。
不用意な言葉が耳に届いた瞬間、セラーゼから表情が失われ、その口からは感情の無い音が発せられた。
「不要だわ。いえ、今回の件で元帥には別件があるそうよ」
言いながら彼女がなにげに手元の書類を整える。縦に二度ほど、トン、トン。
音を聞いたコゾロナの二の腕には何故か大量の鳥肌が立っていた。
「で・では、わたくしはこれで…」
ここから離れなければ!
コゾロナの頭に浮かんだのはその事だけだ。
挨拶もそこそこに椅子から立ち上がると、その勢いで椅子が鳴り、慌てたコゾロナが椅子を抑える;
普段なら滑稽に見えたそんな姿にもセラーゼは微動だにしない。
背筋を流れる汗を感じながら愛想笑いを浮かべ、なんとか部屋を出る。
するとそこにはアデイロが待っていた。
彼はコゾロナを見ると、ご機嫌いかがですか?などと型通りの挨拶をしたのだが、彼女にはその余裕はなく、不満げな顔を向けるが、入室を許可されると素早く扉の前に赴く。
コゾロナはそんな彼の後ろ姿を見ながら、ご愁傷様。
そう心の中で呟くのだった。




