国境付近
国境まであと二日ほど。
偵察のために先行させている者たちの報告は、どれも同じ結果を告げている。
「国境付近に敵兵の姿なし」
極上の笑顔で報告を聞き、噛みしめるように何度も頷くジェロノのはえがおだった。
この遠征の出る前、いや、それ以前からか?
ソレアの自分に対する言動にほんの僅かだがモヤる自分がいた。
そこに愛はあるんか?
彼女への愛を一番に考えてきた自分に対する彼女の対応が
ツンマシマシデレヌキ
に思えていたのだが、それもすべて過去の事だ。
彼女は俺を求めている。
その気持ちに応えられていなかった自分を恥じよう。
いや、それだけではない。国境を越え、歴史にこのジェロノの名を刻むのだ。偉業を成し遂げた我が名は後世まで語り継がれるだろう。そして、その英雄が愛した女性としてソレアの名もまた長きに渡り語り継がれることになるだろう。
「…様、ジェロノ様!ご指示を」
っと。
つい自分の世界に入り込んでしまったようだ。
このまま自伝の執筆にかかりたい衝動をかろうじて抑えつつ、ジェロノは問いかけた。
「それで?プフル要塞の様子は?」
この問いに従者が少し表情を曇らせる。ほんの数秒前に質問をしたばかりなのに。
ジェロノの気持ちはもうここにはない。それがわかっていながら、こんなやりとりはこの後も数分続いた。
終始ご満悦のジェロノにどれほど情報が伝わっただろう?
うわの空としか思えない将軍の対応に、退出した彼は思わす言ってしまう。
「我々の情報は価値があるんですよね」
言葉と共に視線を振られた衛兵は
「…いや、まぁ…」
そう言って視線を逸らす。
「もちろん、我々の行動は貴殿らの情報によって左右されるぅぅ」
自信がなく消え入りそうな発言が対応力の無さを露呈した。
その日を境にジェロノ軍で報告者リカリの姿を見る者は無かった。
翌日、まだ日が昇ろうとしている頃、王都ソラロンタスにある寝室でソレアが祈りを捧げていた。
祈りを終え、少し肌寒さを感じたのか、ベッドの掛布を身に纏い侍従を呼ぶ。
軽い朝食に温かいミルク。
他愛もない話をしている間、不意に大きなくしゃみが部屋に響き渡った。
この音源、ソレアのベットに横たわる全裸のマバートに唯一反応できるのはソレアだけだ。
ソラロンタス三大家老ジェロノの婚約者ソレア。
「そろそろ夜が明けるわ」
彼女は寝ぼけ眼のマバートがいるベッドへと近づくと、従者の様子など気にも留めないように軽くキスをする。
その後、視線を感じた彼女は軽く手を振って退出を促し、今度は少し本域のキスを交わす。
ゆっくりと唇はなし、耳元に近づける彼女が、口内に残った二人の甘い空気と共に囁く。
「そろそろ起きた方がよさそうね」
それだけ言うと、汗を流すために浴室へと去っていった。




