悲しき過去 後編
「考えていただけましたか?」
傀が敗れた日、ワンテイエのもとに魔王ベゼルの使者と名乗る者が現れた。
我らの仲間になれば、あなた達の種の繁栄を約束しよう。
そう言った使者の言葉は何故か耳障りだった。その理由は使者の目にあったのかもしれない。その瞳はまるで製品の良・不良を選別するだけように見えたからだ。
あれから数日、再び会った使者の瞳は相変わらずで、情や絆などが入り込む余地が無いようにみえた。
しかしこちらとしても選択の余地がない。交渉できるるほどの手札を持っていない以上、逆らえば待っているのは破滅だけ。
そんな我々に猶予を与えてまで交渉を持ち掛けた理由は何だろう?
魔物にとって何か不都合があるのだろうか?それとも、ただ嬲っているだけか?
あるいは周囲の村に対する見せしめなのかもしれない。
どんな理由があるにせよ、自分の答えは提案された時から変わっていない。
「もちろん、喜んでお受けいたします」
連合の仲間だった者たちには悪いが、自分が生き残ることができれば、再び平和を取り戻した時にはきっと、必ず彼らの供養をする。それでで許してもらおう。そして彼らの死が無駄でなかったと後世に伝えよう。
しんみりとした表情のワンテイエを見ながら使者がベゼルとの契約の日時を伝える。
それを聞いた彼は、その時、自分は仲間を裏切るのだと深くため息をつくのだった。
約束の日時。
遅れないように、そう思って少し早めに出てきたのだが既に誰かが待っていた。
この裏切り、失敗するわけにはいかない。ここは下でに出て様子を伺うしかない。
覚悟を決めて姿勢を低くし、頭を下げながら余所行きの声で挨拶をする。
「イャー、遅くなって申し訳ありません、流石はベゼル殿のご使者!感服いたしました!」
「は?」
「いゃ、えっ?」
予想外の反応に顔を上げるとそこにいたのはケロフだ。
「あっ!おまっ!ここで何やって!?まさか!」
こいつ裏切りやがった!?
ワンテイエが裏切り者を激しく非難しようと口を開いたとき。
「やー、お待たせ、ってお前ら何やってるの?」
ロデルとゾンレンが現れてワンテイエたちの事を呆れたように見ている。
そんな彼らはつい昨日、集会を行いこれからも決死の覚悟で抵抗しよう、と絆を深め会ったばかりだった。
「おまえら昨日、あれだけそれっぽい事言ってたじゃないか!」
ガチギレのワンテイエに対して三人が一斉に、そういうお前は何なんだとハモりで応戦する。
これが予想以上に響いたのか、言葉を失って黙ってしまうと
「いや、まあ、みんなの気持ちはわかりました。ある意味、我々の心は一つだったようです」
集まった四人の頭上からいきなり声がし、エチアンが木の上から降りてきた。
最初から見てましたよ。と言いながら順番にハグする。これからもよろしく、という言葉を添えて。
複雑な思いで抱擁を受けた四人が何かを言い出す前に、約束の時間が訪れ、使者が現れた。
そして言う。
「では、これからの事をお話ししましょう」




