ころあい
撤収の合図を受けてその場を離脱しようとする新人たちだったが、ラノアの迫ってくるのが速い。
打ち合わせていたのだろう、三人はそれぞれ違った方向へ動き出す。
その中で一人、中途新人おじさん枠採用のレグトナの反応が少し遅れた。
ラノアが瞬時に反応し、レグトナに向かって加速をする。
それを見ていたサルハがレグトナの援護へ向かおうと動きを止めたが、気づいた彼が制止するような動きをした。
ここは俺に任せろ。
彼の姿がそんな雰囲気を醸し出し、さらに頼りになる中年先輩の威厳を見せようとしたのか、サルハに向かってニヒルな笑顔を向ける。
本人は口元から覗く歯がキラリと輝いているつもりだったのだが、少年には歯石に彩られた黄ばんだ歯しか見えなかった。
しかも余計なことをしたせいでバランスを崩すとその場に尻もちをつき、無防備な体制で座り込んでしまった。
これはちょっと…。
そう思ったサルハが駆け寄ろうとしたとき、レグトナが放つ。
❚影兵❚
この呼びかけに応じて五体の影兵召喚される。
彼が地面についた手、その指の隙間から影の兵士が生まれる様子を見て、ラノアは警戒し距離を詰めるのをやめた。
目の前にいる影は四体、現れたのが後になるほどその濃さは薄れている。
初めて見る術に警戒するが、あと二人もいる、それに後ろの先輩もいつまで持ちこたえられるかわからない状況では時間をかけた対応もできない。
とりあえず、最後の一体はようやく見える程度だし、これに濃い影の死角から攻撃されたら厄介だわ。
先にあれから…。
考えながら剣を抜き、素早く一閃した。
ところが何の手ごたえもなく、影やレグトナにもダメージがあるようには見えない。
なぜ?連撃を繰り出し、何度も切りつけるが特に変化が無いように見える。それどころか、ほかの濃い影が襲いかかって来た。
その襲撃を躱し、蹴りや拳で反撃した時はかなり良い手ごたえがあるのだが、剣で切りつけた時だけ反応が弱い。
そんなバカなことがあるのか?殺傷能力としては剣の方が格段に上のはず。
今ここで術者やほかの二人に来られたら打つ手がない、そうなったら?
「もうだめかも」
思わず心の声が漏れてしまう。
しかし、術者は影を操っていつ時は動けないのか、発動後の体制のまま動かない。
そしてほかの二人は?
今はまだ、距離をとったままのようだ。
影に干渉することで術者に影響が出るのかもしれない、もしそうなら、それはそれで好都合だが、いったいどんな影響が?
これはラノアの勝手な思い込みだったが、改めて影を見てみると、現れた時よりも若干色あせていた。
感覚としてでなく、濃さの変化は視覚的に見ても明らかだった。
ただ違うのはその濃さだけではなく、こちらの攻撃に対する耐性が上がっているようだ。蹴りを放って吹っ飛んでいた影が今はもう、よろめく程度でしかない。
そろそろ良いかな。
レグトナたちとの距離を詰めるためにサルハがゆっくりと動き出した。
彼の瞳に映るのは、ラノアの攻撃でその濃さを失いつつある四体の影と、攻撃で霧散した影を吸収することで力を得、敵を拘束する五体目の影だ。
あの濃さなら、もう自分のイメージ通りに動くことはできないだろう。
恐らくそんなことを考えてるんだろうな。
動き出したサルハに気が付いたレグトナが幼年を見てそう思っていた。
だが少年は
次は僕の見せ場
ってことだよね!
とかんがえてた。




