枷の目線
ロジンは自分を取り巻く今の状況に思わず溜息が出そうになる。
ことの発端は、あの日――。
派遣部隊が被害を受けた事件。
ザレルによって真実に包まれ、無事に解決したはずだった。
報告書には都合のいい証言だけが集がめられ、その要所にはザレル氏の調査によれば…、ザレル氏の見解は…、などの文字がちりばめられる。
それに対して、異議を唱える者など出てくるはずがない。
こうして、この件は過ぎ去った思い出となり、数年後か、もしくは遠い未来、記憶片隅にだけ現れるはずだったのだが。
報告書が受理されてから半日もたたない間に棄却され、再調査の指令が下る。
理由は報告書に記載されているザレルの見解に対して本人が関係を否定したから。
ロジンは上司から報告書を受け取る時にこの理由を聞いて、意味がわからなかった。
いまこの手の中にある報告書は、ザレルも同席していたあの場所で渡されたもので、提出しさえすればこの件は終わる。
その代わり、悪いようにはしない。
と聞いている。
正義の貫く為に警官になった、とは言わない彼でも、自分の知らない所で何かが動いているというのはわかった。
実際、この場には報告書に関する権限を持っている自分しか呼ばれていない。
いや、逆に言えば、新人で何もわからないラノアがここにいないのは、そういった汚い世界を見せずにすんで良かったのかもしれない。
正義を守り、平和を維持するために、時としてそういったことも必要だろう。
俺がこの申し出を断れば、次にこの話が彼女に行くだろう。
そうなればおそらく彼女を苦しめることになる。
阻止するためには自分が泥をかぶるしかない。今ここで彼女を守るために…。
後輩、いや、領民の平和を思い、断腸の思いで受け取り、精神を削って提出した。
その報告書がいま、手元に戻ってきた。
「あんまりそういう事をするのは感心しないな。ザレル様はご寛大な方だから、今回の件は不問にする。とおっしゃっている。が、それなりの覚悟をしておいたほうが良いよ」
冷静を装う上司の言葉は後半に行くほど、自分へのとばっちりを懸念する高さを維持していた。
こんな上司だって知ってたけどね…。
ここでロジンが新たな問題に気付く。
この回想、このペースじゃ大変なことになるんじゃないか?
刹那に映える回想のはずが、このままではまずい。
「大丈夫、大丈夫だ」
ラノアに?
いや、自分の回想に対してなのか?
思わず口から出た言葉がそれだった。
そしてそのあと、彼は回想の効率化に挑む。




