枷と縛
ラノアは自分を取り巻く今の状況に思わず溜息が出そうになる。
ことの発端は、あの日――。
衝撃音と共に身を潜めている場所の頭上が破壊され、破片が彼女達にパラパラと降り注ぐ。
回想を始めようとしたラノアの気分は削がれ、我慢していたため息も、ついこぼれてしまう。
一緒に身を潜めていたロジンが気持ちを察したように
「大丈夫、大丈夫だ」
と繰り返すが、彼自身は本当に大丈夫だとは思っていないのだろう、その言葉の中に真実が含まれているようには聞こえない。
それでもなお薄手の大丈夫を繰り返すロジンを見て、この人は後輩の不安を和らげようとする良い先輩なんだなあと感じていた。
ただ、そんな印象を受けるものの、これといった対応策や指示、行動が伴わないことで、実は頼りにならない先輩なんだということも解ってしまう。
先輩だから良かったけど、上司にはできないタイプだわ。
などと余計なことを考えていたせいで、再び敵の攻撃を受け、その包囲網は狭まったように見える。
ただそれを脅威に感じているのはロジンだけで、ラノアにとってこの状況は、本来の彼女なら本当に大丈夫。
と言えるレベルだったのだ。
が、今の彼女はちょっとした問題を抱えている。
それは任務の継続。今の「領警察の新人」という立場を捨てることができないということ。
これがなければ、この状況など秒で片付くのに…。
しかし愚痴っても仕方がない。任務という縛りと、ロジンという枷に自由を奪われ、これ以上動き辛くなる前に始めよう。
まずはロジンに一撃いれて意識を奪い、敵を秒殺。彼は後で敵の攻撃を受けたことにすれば良い。
単純明快、よしっ!
ロジンの意識を刈るためにラノアが動く、手刀が彼の首元を襲う寸前、その手はなぜか優しく肩へと添えられる。
ロジンは手刀に対して反応できず、肩に添えられた温もりを感じのと同時に、その頬にも似たような温かさを感じた。
ラノアが彼の頬に軽く口づけをしたのだ。
手刀を叩き込む寸前のラノアは、それまで察知できなかった敵の存在に気が付いた。
ラノアにとっては不幸中の幸いなのか?
敵にとって、彼らが包囲しているのは領警察だと思っているし、実際それは、間違っていない。
ただこの時のラノアの気配に反応する存在を感知した彼女は計画を変えた。
「唇震」
放つ言葉を振動に変え、骨伝導で相手に伝える術を使い、受信する対象者に印をつけるため軽く口づけをした。
そのあとは布切れを使い、口元を覆う。さっき感じた敵に唇を盗まれないようにしなければならない。
あ・あ・あ…。
目まぐるしく変化する眼前の状況に、ただ漠然と傍観し、唯一、認識したのはラノアが自分に口づけしたという事実、それをふまえてロジンの頬は少し赤くなっていた。
ラノアの目の前で頬を染めるロジンを見て、何となく考えていることは予想できた。
でも大丈夫、枷といっても場合によっては武器になるんだから。
彼女はもう、そう思うしかなかった。




