意識
戦線離脱。
「バチョス村へ…」
フロイゾイがそう言いながら護符を数枚ヤクダイに渡す。
この護符は、初代ソラロンタスが封じた鬼神の力を操る。
俗にいう聖芒護法として受け継がれてきた。
これはペリニシアの万象総律やレブメンの普浄羅環のように、国の事情によって生まれた特殊な能力だが、新参のヤクダイはまだこの能力を意のままに操ることはできていない。
この場所で成果を出せないもどかしさを感じながら、彼女は林の中へと走っていく。
バチョス村へ。
それは思っていたほど簡単ではなかった。
おそらく敵の主力と思われる部隊は、ほぼ廃村に到達していただろう。
それでも後詰めの部隊を回避して目的地を目指すのは、今の彼女には高い難易度だといえるだろう。
現に今、気配を察知され包囲されようとしている。
「暴刃」
放たれた刃が四方を穿つ。
もしこれが集団戦闘で、敵に囲まれた時に使えば敵の被害は大きかっただろう。
しかし今回の成果は、木を穿ち、葉を落とす程度だ。
…いや、ほんの数名は、かすり傷程度だが負傷した者もいるようなので、まったくの無駄だとは言えないかもしれない。
ただ、彼女の行動が襲撃者の加虐性を増進させた。
彼の常識なら、こんな処で使う技ではない。これほど無知で無能な標的も珍しい。
今回は後詰めを任されて不満だったが、良いおもちゃを見つけた事に喚起した彼らが考えたのは、憂さ晴らしを兼ねてさんざん嬲ることだった。
背後に注意を引け。
ニ、いや三か所から圧力をかけろ。
振り向いた瞬間に進行方向を封鎖してやる。
追われる恐怖をさんざん味わった後に行く手を遮られた時の表情。
何度見てもゾクゾクする。
過去に、絶望の中で息絶える人々を思い出しす。
そして今回も…。
リーダーが素早く支持を送りその時を待つ。
サインによって組み立てられた包囲網が出来上がった時の部下たちの反応は、ああ、またいつもの病気が始まった、と思われていた。
やはり慣れない力では無理がある。
後方に迫る二つの敵。
そこにまた一つ、新たな気配が生まれた。
このままではいずれ…。
三つ目の気配が現れた時、後方に気を取られた。
ほんの一瞬だったが、前方にそれを上回る気配が生まれる。
危険を察知した彼女は、半ば無意識に「暴刃」を放つ。
「あっ!」
後悔した時にはすでに遅い。
放たれた刃は今までにない威力を発揮して木々をなぎ倒し、立ちはだかるはずの敵は原型を留めないほど凄惨な姿で倒れていく。
恐るべき威力だ、この光景が後方部隊の動きを止た。
膠着する時間でヤクダイは必至だった。
条件反射で放った力とはいえ、彼女は法力のほとんどを消費しており、意識はすでに朦朧としている。
いつ意識を失ってもおかしく無い、そんな状況でも震える手が回復薬を回復薬を掴もうとしていた。




