彼の望み
部隊を襲った集団は、ただの盗賊ではなくジェロノの部隊を狙い、襲ってきた戦闘集団だ。
この時点で領地の治安は関係なく、自分にはなんの責任もない。
それどころか、こんな所まで呼び出されて迷惑をしている等々、散々嫌味を言われてしまう。
予定ではアガメイに責任を取らせ、食料の調達をするというジェロノの思惑はだったが、領主を呼び出して無能ぶりを披露しただけに終わる。
アガメイが陣を去ると、ジェロノはかわりにグチンを呼ぶように言い、残った他の者には指示を出して退出を命じた。
程なくしてグチンが現れた。彼は今回の遠征に際し、ジェロノをサポートする為に派遣されているキビ財閥の商人だ。
「お呼びでしょうか?」
食料を奪われ、王都に泣きつくこともできず、領主にもあしらわれた事は既に聞き及んでいた。
恐らく彼の望みは食料の調達だろう。その件なら部隊襲撃の報告が入った時点で領主に話を通してある。
幕舎に入る前に聞いた話では、ジェロノの領主に対する態度が概ね予想通りだったようで、彼らが直接取引をすることは無さそうだ。
そうなると、あとは幾ら引き出せるか?
打算を弾く脳内の指先が激しく動き出す。どのらいの量を用意しよう?こちらから聞くべきか?いや、がっついているように見えるのもまずいな。
とりあえずは聞いてからだな。さぁ!言いなさい!
グチンの熱い眼差しがジェロノの唇を見つめると、それはゆっくりと開き、声を発する。
両耳は既に迎え入れる準備を整えており、発せられた言葉を包み込むように脳に伝えた。
「鏡演者を出してもらおう」
「はい、はい、もちろんですぅ…う?」
思わぬ要求に表情が揺れる。
彼の求めているのは食糧でなく、戦力だと?
しかも鏡演者といえば、財閥の中でも上位に入る戦闘力が売りの部隊だ。
戸惑うグチンの心を見透かしたようにジェロノが続けた。
「食糧の手配は先程終わったところだ。ただ、盗賊が領民に被害を及ぼすのではないかと心配でな」
領主とも話し合った結果、賊を討伐することに決まったのだという。
しかし残念だが軍はペリニシア派兵のために預かったもので、野盗ごときを相手に戦うことは出来ない。
かと言って自分直属の卦猿隊は別件に関わっていて、今回は随行していない。
やむなくグチンに声をかけたというのがジェロノの言い分だった。




