根回し
ジェロノは苛立っていた。
彼はソファーに座り、気を紛らわせるために肉割れした腹の皮を玩んでいた。
そこにようやく待ち人が現れる。
部屋に入ってきたのはソレアだ。
「おお!待っていたぞ!」
期待に満ちた表情で見つめる彼に微笑みを返し彼の隣に座る。
「先方の答えははジェロノ殿のご期待に沿えるものでした。ただ、私の夫とな…、なる方には然るべき功績を挙げて頂きたくて…」
話しながら彼の肩へしなだれかかるのだが、鼻を突く加齢臭が彼女の言葉を詰まらせていた。
気を取り直して嫌悪の表情を完全に押し殺し、さり気なくゆっくりと立ち上がって話を続ける。
「国境を越えて頂きたいのです」
これにはジェロノも驚いた、しかしソレアとペリニシアの宰相セラーゼとの間では、既に合意が得られているという。
彼は悩んだ。
たとえ出征先が自分と懇意にしているシートリフだったとしても、軍が国境を越えるなどあり得ない。
でももし本当に合意が得られているなら?
思えば十九年前、彼女に出会った日に一目惚れをしてから正室を持たず、側室だけに留めて待ちわびた日を迎えることができる。
二人が初めて出会ったのは彼が二十歳、彼女が五歳の時だった。
その当時、悪魔を祓った国レブメンでは自然災害が起こり、ソラロンタスにも多くの流民が流れ込んでいて、彼等の親たちは団結して対応していた。
そんななか、一時の気の迷いからかソレアとジェロノを結婚させようという話が持ち上がる。
さらにその二人の間に出来た子供を残った家老、ヌーカの子供と結婚させて強固な国造りの礎を築こうとした。
同調なのか?それとも共振だろうか、新婚で子供がいなかったヌーカも、ジェロノとソレアの仲の良さを見て賛同する。




