種火
王城の一室で行われているのは、昨日入ったソロランタスの情報の精査と、対策のための会議だった。
あの国は過去に何度も侵攻を試みているが、いつも国境となるイーシド川を越えることができずにいた。
「相手が来るんならどの道戦わなきゃなんねえ。そん時頑張るからそれまでゆっくりさせといてくれ」
元帥のコベセルが面倒臭そうに言い放つ。
「いや、まあ、簡単に戦うと言われても、被害が出れば国力が下がってしまうわけですから、そういう訳にもいきませんし、ねえ?」
内務大臣のイクセンが、貴族院の議長アデイロに同意を求める。
それを受けた彼の答えは
「どうせ、いつもと同じように辺境の小競り合い程度でしょう。我々、貴族師団が出るまでも無い。元帥にお任せすれば良いでしょう」
といった感じで、取り付く島もない。
これを聞いた外務大臣のキザルべが
「まぁまぁ皆さん、落ち着いてください。とりあえず、外交的な立場から、まずはソラロンタスに使者を送って…」
「そうそう!私もキザルべ殿に賛同いたしますわ。相手の真意を見極めずに動いては、無用な災いを招かないとも限りません!」
イクセンに遮られて多少の苛立ちを覚えたが、女性を相手に言い争うのもどうか?と思い次の発言を待った。
「では、こうしましょう。キザルべさんは早急にソラロンタスへ使者を送り、真意を確かめて下さる?」
セラーゼはそう言い、それ以外の問題にも対策を指示して、ひとまず解散を告げる。
ただしひとり、デルムにだけは留まるように指示をした。
国家保安省のデルムは国内外に密偵を放ち、情報を集めている。
セラーゼが彼を残したのは、自分と彼の知っている情報がどこまで一致するかを確認するためだ。
もちろん彼女にも独自の情報網があったが、それが真実として知り得たものなのか、それとも与えられたものか?それを知るために答え合わせが必要だった。
全員の前でそれをしなかったのは、他の者が知ることで情報が漏れ、デルムに迷惑がかからないようにという配慮からだ。
部屋を出たコベセルは自分の執務室へと向かう。
会議の後、彼はいつも不機嫌だった。原因は宰相のセラーゼだ。
彼女と自分は七光りのなかでも二つしかない煌の字を授かった一族だ。それなのにあちらには多くの取り巻きがいて、重要な事は全部決めてしまう。
今日だってそうだ、俺の素晴らしい提案を無視してキザルべ程度の小賢しい話に乗りやがって。
考えていたらどんどん腹が立ってきて、執務をする気が無くなってしまう。
こんな日は体を動かして、メシ食って、寝る!
そうして嫌なことを忘れるに限る。
「帰るぞ!」
それだけ言ってさっさと部屋を出ていってしまう。
残された補佐官は深いため息をつきながら、山積みの書類を見つめていた。




