イグルの旅路(抜粋)
魔物となったアモックを見て愕然とする。
棒立ちのイグルに魔物の裏拳が直撃した。
魔物にしてみれば、目の前の邪魔者を払っただけだが、衝撃は強かった。
彼が地面に叩きつけられるまでの間に見た走馬灯は、裏切りや偽りに彩られていた。
イグルが生まれたのはラボラボットという小さな村で、5人兄妹の末っ子として生まれた。この村は貧しく、人々は助け合って生きていた。
ところが彼は、物心がついた頃から姉や兄、友人知人に甘えていつもサボってばかりいた。
それどころか、実入りが少なくなってしまうことには不満を持ち、やがてそれを村のせいにするようになる。
そんなある日、彼の村に王都から教補が説法をしに訪れた。
人生を変える出会い。
大袈裟かもしれないが、イグルにとって生まれてはじめての衝撃だった。
彼の瞳に映るもの。
普段は自分に偉そうな村人さえも、教補には平身低頭している姿。しかも、動かしているのは口だけなのに、沢山の報酬や貢物まで…。
今思えば転機なのだろう、彼の幼い心にはなんと素晴らしい職業だろう、という思いが刻まれた。
感情が行動を支配するのは、若さなのだろう。
あふれる思いを抑えきれず、彼はその日のうちに村を出た。
王都へ向かって。
中略
先日出会った爺様達のおかげで珠玉を手に入れることが出来たが、あの時仲間とは別れる結果となってしまった。
使える奴等だったが仕方がない。
そんなことよりも、教会で教補となる資格を得る為にあと少し頑張らなければ。
この時に出会ったのが、あの「はじまりの村」出身の三人組だった。
なんという幸運、彼等がいれば魔王城さえも攻略できるかも知れない。
迷うことなく三人と兄弟の契を交わし、自分から末弟を望んだのは言うまでもない。
安心感というのが一番しっくりくる。
彼らと共に町役場で登録を済ませてからは毎夜、街の盛場で豪遊するようになった。
魔王城さえ終われば大金が手に入るし、もしかしたら教補にすらならなくてもいい程の金が入るかもしれない。
そう考えたらもう、役場で留まることなどできなかった。
もちろんあたりまえだが、あの三人とはビジネス的な兄弟だったので、一緒には行動していない。
寧ろ攻略のために集中させておいたほうが良いだろう。
という配慮まである。
そして訪れる運命の日。
いつもと変わらない、馬鹿騒ぎして終わるだけの夜。
今思えば、その日は少し?違っていたような気がする。
運命の出会い。
それは以前に何度か会った、ような気がする笑顔が嘘臭い女と、連れの男が話しかけてきた事から始まる。
結論から言えば、仲間にいてほしい、それが彼女達の望みだった。
話を聞いてみると男のほうなのだが、昨日いきなり召喚状を受け取ったようだ。
途方に暮れた彼は死を覚悟するか?いや、そんなに簡単な話では無い。
少しでも生きて帰る可能性を求めるだろう。
そしてたどり着いたのが、俺の所。
彼女達にとって連日盛場にいる俺の姿は、魔王城攻略を前にして、飲み歩けるほど力を持った人物だと言う事らしい。
それを聞いて、つい
「役場に来たら俺に声をかけな」
後略
地面に叩きつけられた痛みで意識が覚醒する。
走馬灯の詳細は覚えていないが、言わなきゃ良かった。という思いだけはなぜか強く頭の中に残っていた。
アモックとイグルを引き合わせた日、ベリルは王都にいるエグラへと使いを送った。
予定通りモノを送りましたが、品質にはやや難があるかもしれません。
城でその報告を受けたエグラは、今回のモノの仕込みに対する期間の短さや、酒に混ぜた促進剤を吐いていた事など、完全とは行かない、そう思っていた。
この様子では少し不安が残るわね。
偽装、ということはないだろうけど、連盟からもう一人つけたほうが良いかもしれないわ。




