思惑
女が執務室の扉をノックすると、中から侍従のエグラが出てきた。
女の顔を見ると一度中に戻り、セラーゼに告げる。
「ベリルが参りました」
名を聞いて、興味深げな表情をしたセラーゼは入室を許可する。
ザレルと同じ報告を受けたセラーゼは
「あの爺様のことだから、自分で動くでしょうね。それで、あっちはどうなっているの?」
彼女が聞いたのは、彼の甥ぜリンの事だ。彼の節操の無さに嫌悪感を抱いているのだろう、名前を出すことすら無かった。
「それについては、まだ。それなりのモノを探していますのでもう少し時間がかかると思われます」
エグラの答えに頷くと、思いついたように窓を開けて、と言った。
窓を開けると雨で洗われた空気が、風となって部屋を通り抜ける。
気分を良くしたセラーゼがもう少し外の空気を、とバルコニーへ出ていく。
深く息を吸い、心の浄化をする。そんな彼女の耳に、微かに聞こえてくる雑音。
城の何処かで警備達の出す騒音に、気分を悪くした彼女は部屋へと戻っていった。
雨で濡れた芝生で模擬戦をしていたのは、ベシカ班のボースとラルファ班のノルバだった、この勝負はどうやらボースが勝ったらしい。
次はいよいよ班長ラルファの出番とあって、他の班員の声援もひと際大きくなっていく。
注目のなかで対峙するボースとラルファ。
木剣を抜き、大きく振りかぶったボースが気合いと共に距離を詰める。
対するラルファは剣も抜かず後ろ回し蹴りを放った。
刺すような蹴りで胸を突かれたボースは、よろめきながら後退し、膝を折る。
終わりか?と思われたが、彼はその低い態勢のまま飛び出すと鋭い突きを繰り出した。
辛うじて避けたラルファ。
その横を通り抜けたボースが急停止し、反動を使って地面を蹴った。
はずだった。
伸びきる前の足を払ったラルファが、中を舞うボースを見ながら抜剣し、倒れた彼の首元へと剣先を添える。
ボースは負けを認め、次はいよいよ班長戦。という時に邪魔が入った。
「ようやく見つけた。相変わらず、いいザマだな」
ラルファ達の様子を嘲笑ったのは城内警備のユトウ班の一人、ジンキガンだ。
彼はラルファ達の様子を見るのが好きだった。
平民が泥にまみれて守っているのはただの建物で、自分がお守りしているのは陛下だ。
そう考えると、いつもニヤニヤが止まらなくなる。だから落ち込んだ時には彼らを探すようにしている。
ただ、今日の苛立ちはいつも以上だったようで、見て嘲笑っているだけでは物足りなく感じていた。
この心を満たす方法は無いか?
そこである妙案が浮かんだジンキガンは、笑顔になって彼らの所へと歩いていくのだった。




