今は時期じゃない
行使した力の効果が表れない事に呆然とする。
天空をたゆたいながら、眼下に蠢く矮小な人間たちの姿を眺めていた龍は、みたび力を使う。
けれど結果は変わらない。世界の平穏は守られている。
天を仰ぐ者たち。
伝説や物語の中だけの存在だった龍を目の当たりにして、身動きもできず見守るしかない。
それほど圧倒的な体験だった。それは悠然と空を駆け、意図を持ったような動きをした。それも一度ではなく、三度も。
二度目と三度目の間に少しだけ間隔があったのは何かの予兆なのか?見守る事しかできない自分達には判断することさえできなかった。
そして…。
四度目となる龍の動きに反応するように、雲間から小ぶりな雨が降り始めた。その範囲は徐々に広がっていく。
降りしきる雨。
ただ、範囲はそう広くない。龍が視認できる範囲よりもさらに狭く、限定的だ。
不思議な雨。
降り注ぐ雨は大地や草木に影響を与えない。
ん?
雨が降っている。それはわかる。
だが、周囲の草花に水滴や水たまりが出来ることは無いのだ。上から下へ雨が降りって消え去るのだ。
ただ、不思議なことに龍を視認できる者だけが影響を受けている。
乾いた大地や草葉のなかで限られた数名だけは全身に水を浴びたように濡れていた。
力を。
ほんの少し前まで絶対的な自信に満ち溢れていた。
その結果を思い知らされた龍が悟ったのは「今じゃない」という事だったのだろう。龍が再び動き出す。
自分が失われていた間に何が起こったのか?それを知るために、自らの意識を纏わせた雨を降らし始めた。
ごく少数ではあるが、この雨を受けた者たちと意識を共有して世界を知る。そして…。
一方その頃。




