追放系アーチャーは生き延びたい〜今更戻って来いとは言われない〜
騒々しいギルドの酒場、その一角で……
「お前はチキンすぎる、悪いがこの依頼を最後にパーティから抜けてもらう」
「え? 待ってよ、僕は今まで頑張ってきたじゃん、ほら、盗賊戦の時とか、トロール戦の時とか……」
慌てているのはブラスト、B級冒険者パーティ、レッドフォックスに所属するC級冒険者です。
「ごめんね……けどブラスト君のためでもあるの」
申し訳無さそうに謝るのはカルタ、異世界人です。つい先月パーティに加わりました。
「なあ、もっと簡単に言えば良くないか? オレ達はA級ファミリー、ドラゴンイーターに入ることになった、けれどお前はあまりに臆病すぎる、剣を使えばすぐ剣を落とし、盾を持っても盾を落とし、弓兵になったとしても単独行動ができない、これから魔境探索はいくには不器用すぎる」
そう言ったのはレオン、パーティリーダーのレオの弟です。
「あ、うん、え……」
困惑しているブラストに向かってレオが言います。
「幼馴染だからといって俺は優遇する訳にはいかない、その代わりと言ってはアレだがこの依頼の報酬の半分50万エルトをお前にやろう、この金で商売を始めたらどうだ?お前は冒険者には向かない」
レオはそう言いブラストにお金が入った袋を渡しました。
「ここがレッドフォックスでいい? 俺、ジャッチなんだけど」
「ああ、そうだ、前任のアーチャーに挨拶しとけ」
酒場に現れたのはジャッチと言う青年でした。
「キミがブラストクン? 思ったより小さいね、オレはジャッチ、キミの代わりのアーチャーだ」
「うん、じゃあもうこれで僕は用無しなの?」
「ああ、そうだ、キミはこれでレッドフォックスの一員ではない、しゃあね、キミに幸あれ!」
ジャッチに追い出されたブラストは宿屋に寄りました。
「うーん、これからどうすればいいかなぁ?」
ブラストの元へ一人青年がやってきました、肩甲骨あたりで束ねられた髪、伸びかけの髭、そして何より目立つのは左半身を覆う火傷痕です。
「おいブラスト、お前パーティを追い出されたんだってな」
「はい、スピリタスさん」
「おい、やめろ、リタスでいい、酒好きの親が付けた名なんて恥でしかない」
彼はスピリタス、Aランク冒険者です、火竜を一人で討伐する程の実力を持つ人物です。左半身の火傷はその際の物です。
「何故追い出されたんだ? お前致命的な問題はないじゃないか、強いて言うなら単独行動ができない事だがそれは大した問題じゃない」
「え? じゃあ何故僕は追い出されたの?」
「それはアレだろ、ただもっと強い奴を入れたいからだろ」
残酷なようですがそれが現実です。
「そうだ、俺とパーティを組まないか? お前、弱くはないんだし」
ブラストはこれでもCランク最上位、あと少し依頼を完了すると昇格試験を受けれます。
「お願いします」
「なら決定、明日日が登る頃集合な」
そしてブラストは宿屋で借りてある部屋に向かいました。
「そう言えば明日依頼何受けるんだろ?」
そして翌日。
「きたな、もう依頼は受けている、オークの集落が見つかったそうだからその偵察、できるならオークの殲滅だ」
「了解、野営するの? するなら準備するけど」
「場合によっては、一応着火用の魔石持っとけ」
魔石を使うと魔法の適正がなくても魔法を再現できます。
「じゃあ少し受付行ってきます」
受付で魔石を買えます。
「すみません、Eランクの火属性の魔石三つください」
「はい、一つ200エルトで三つ600エルトです」
そしてブラストが戻りました。
「買ってきました、ミーティング始めましょう」
「却下だ、ミーティングは移動しながらするぞ」
そして移動中。
「まずこの依頼の報酬は山分けでいいか?」
「はい、あとは確認されているオークの被害、上位個体等の情報はありますか?」
「近くの村の狩人が一人死亡、共にいた狩人曰く一体肌が黒い奴がいたそうだ」
「最低でもハイオーク一体、いや、他にも三体程度進化してる個体がいると考えた方が現実的ですね」
オークは基本的に黄色が肌色の肌を持ちますが進化しハイオークとなると黒く、特異な個体だと赤や青になります。
「今回のお前の役回りは目と槍だ、今はわかるよな?」
「はい、弓兵特有の視力での目、そして槍ですか?」
「ああ、今回接敵した場合、俺は前衛、お前は前のパーティなら斥候と共に狙撃したらしいが今回は俺の五メートルほど後ろで相手を突いて欲しい」
「了解です、少し待って、嫌な予感がする」
現在オークが確認された森ですが集落があると予想されているエリアとはだいぶ離れています。
「ここまでオークが来たのか?」
「いえ、何も敵は見えませんがなんとなく、怖いんです」
「ほう、来たぞ、上だ、猿だな」
現れたのは大猿、毛の色が白に近い程強力とされる魔物です、背丈は三メートル程度、
腕の長さは一メートル半程度です。
「毛の色は灰色、Bランク相当だな、おい、何故腰を抜かす?」
「やばいやばいやばい、勝てない、引き返しましょう!」
「お前は馬鹿か?俺がいる、余裕に決まっているだろう、ついでだ、戦いの基本を教えよう、弓兵にも通じる物があるだろう」
大猿が飛びかかりました、木を蹴り不規則に移動しながらの踏み込みです。
「まずは相手の顔を見ろ、それに慣れたら足を、最後に腕を見ろ」
スピリタスは半歩下がり大猿の拳を避けました。
「お前ならきっと恐怖という形で相手の攻撃の予兆を察知できるだろう、なら怯える事はない、危険な時だけ下がればいい」
スピリタスは大猿に拳を叩き込みました。
「魔物の大半は鼻で遠くを感じている、だからか鼻への打撃は隙を作るのに十分だ」
大猿が怯んでる間にスピリタスは大鉈を手に持ち大猿の首を刎ねました。
「鉈はいい、丈夫だ、お前も金に余裕があるなら買っておけ、武器以外としても役に立つ」
大猿の解体をしながらスピリタスは言いました。
「大猿は魔石だけではなく両腕の骨も高く売れる、知っておくと得だぞ?」
ブラスト達は移動を再開しました。
「何故お前は怯える、自分の力を過信するのも毒だが怯えるだけなのは完全に無能だぞ?」
「実は僕、子供の頃に魔物に襲われて大怪我を負ったことがあって」
「トラウマと言うやつか、実は俺もお前程ではないが臆病だったんだ、気持ちはわかる」
「あの、どうしたら恐怖を克服できますか?」
スピリタスは目を丸くしました。
「フハハハハ、お前が恐怖を克服? 笑わせるな、する必要はないだろ、恐怖は正しい感覚だ、重要なのは恐怖の中で動くことだ」
「恐怖の中で動く?」
「ああ、よくある手段では勇気や希望と言った物だろうか、しかしもっと楽な方法がある、それは恐怖だ」
「恐怖?」
「ああ、恐怖で思うように動けないなら、動かなければ死ぬ、とより強い恐怖で体を押す、すると体を縛っていた何かが消し飛ぶ、残るのは目的だけだ」
「分からない……」
「ああ、そりゃそうだ、恐怖を操るのは難しい、俺にもできん」
スピリタスは笑いました。
「見つけました、川の上流、そこから向かい側へ五十メートル程先」
「分かった、敵の数は?」
スピリタスが鉈を鞘から抜きながら言いました。
「敵の数は30体程度、そのうち2体がハイオークです」
「余裕だ、川岸に着いたら炸裂矢を放て、そしたら三秒数えてから煙矢を放て、その際川を渡り、最も近い奴から七メートル離れた者に攻撃しろ」
「了解ッ」
ブラストは川岸に着いた途端に炸裂矢を放ちました、炸裂矢とは矢尻に魔力を込める事により着弾した時爆発を起こす技術です、弓兵は特殊な矢を飛ばし、後方支援を行う役割です。
「あいよっ!」
スピリタスは着弾するのと同時に川の上を走り、向こう岸に着くと同時にオークの首を刎ねました、煙矢の着弾と同時です。
「このまま川を越えろ!浅い!」
そのままスピリタスは近くのオークの腕を切り飛ばしました。
「煙から出てきたオークに毒矢を放て!」
「了解、二体に毒矢を放つ!」
ブラストはオークの首を掠るように毒矢を放ちました、毒矢は一体を掠ったあと後ろの一体の肩に刺さりました、凄技です。
「毒ガス弾放ちます、リタスの十メートル奥!」
毒ガス弾は着弾した場所の周囲五メートル程に軽い痺れを起こす矢です。
「黒接敵、サポート頼む!」
「ググルァ! グガァァ!」
ハイオークがスピリタスに棍棒を振り下ろしました。
「遅いっ! しかし硬いな……関節を刎ねるしかないか?」
スピリタスは避けながら腕を切り飛ばそうとしましたが硬化してる肌に弾かれました。
「敵増加! 赤2、黒1!赤の片方の膝に攻撃、成功、膝破壊!」
赤とはフレイムオーク、Bランク中位の魔物で体に炎を纏う事ができます。
「ああめんどくさい! ブラスト、少しお前の方に魔物行くかも、気をつけろよ?」
「え?」
「名は体を表す、俺は酒だ、触れた者を酔わせ意識を飛ばす、炎だぁ?舐めんなこちとら竜殺しだぞ? 固有魔法、酒狂い」
スピリタスは魔力を解き放ちました、そしてそのままハイオークの目の前まで跳ね飛び、鉈を叩きつけました。
「やばいって、リタスさん我を失ってる、オーク三体、こっちに来てる、怖え!」
ブラストの嘆きを無視してスピリタスはフレイムオークに突っ込みました。
「火だるまだァ! コロスコロスコロスゥ!」
スピリタスは魔力をオークに吹きかけ、フレイムオークを焼きました、いくら炎に耐性があっても外部の魔力で強化された炎には耐えれませんでした。
「残り赤イチィ、殺す! 固有魔法、メタノール!」
スピリタスはフレイムオークの腹に鉈を刺し、そこから魔力を注入しました。
「殲滅ゥ、完了、解除」
その頃ブラストは…
「落ち着けぇ、僕よ、落ち着けぇ」
川を渡り逃げてました。
「グッガグッガホォブルゥ!」
「タイマンだったら勝てる、決して複数を相手にするな、ああ怖い! 死ぬ訳にいかない! 特殊付与、爆発、大爆発、消し飛べ!」
特殊付与はブラストの奥の手です、魔石を使い、通常付与より強い魔力を込め、複数の効果を矢に与える、Bランク中位クラスの技術です、ブラストは弱くないんです、比較的強いんです。
「まず一体、次ぃ、川の中か、膝を殺す!
特殊付与、小爆発、二発!」
ブラストは弱くはないんですが近距離戦にはめっぽう弱いです。
「クグクグブフゥ?」
このように近くに寄られると完全に無力です。
「あ、やべ詰んだ」
『フハハハハ、お前が恐怖を克服? 笑わせるな、する必要はないだろ、恐怖は正しい感覚だ、重要なのは恐怖の中で動くことだ。』
「走馬灯か、ってだからぁ、死にたくないんだよ、あああ、怖え、死にたかねえ」
ブラストはオークの棍棒に殴られ、矢筒を落としました。
「いてぇ、やるしかねぇ、二発目かよぉ、どーする? 考えろ、僕に出来る事は?」
「ルゥゥゥゥクフゥ!」
その時ブラストの視界が一面白に染まりました。
「ここは? そういえば僕、あ、死んだんだね、リタスさんは生きてるかな? あの人いい人だから生きてて欲しいな」
『おーい聞こえるのか? 聞こえるなら答えよ!』
「今頃レオ達はドラゴンイーターに入ったのかな?」
『おい! 答えよ! お主はまだ死んでない、ここはあれだ!えーと、えーと……』
「冥界神様? え、まだ僕死んでないの?」
『ああ、我は炎神だ! ホムラ様とでも呼べ! 思い出した、ここはお主の意識が生み出した幻想世界だ、何故妾は呼び出されたのだ?』
この神ホムラは、人間でありながら神の座へ至った最後の神です。そして名を持つ特異的な神です。
『そうだ! 妾がお主に力を与えよう! この世界はお主の恐怖によって構築された世界らしい! ならお前が恐怖を克服すれば妾も解き放たれるだろう!』
「え、嫌ですよ、神様の力なんて畏れ多い」
『おい、お主! 妾を解放しろ! 何故か妾ここからでられないのじゃ…ってお主風読みの民じゃないか! 名は?』
「風読みの民? 名前はブラストです、ブラスト ウインドです」
『やはりそうか! にしてもお主養子か?風読みの民は恐れを知らぬ者たちだ』
「そんな話を聞いたことないです」
『そうか、お主は風読みの民か、ならば良い、懐かしいのう、そうだ! 例だ、我も風読みの民の出でのう、少し技を教えてやろう、妾の場合にはこれに炎を混ぜる事によって……』
長い時が立ったような気がしました。
『そうじゃそうじゃ、とあれ? この世界が曖昧になっているぞ? そろそろ別れの時のようじゃな、神々の座へ至るならまた会おう』
ブラストの視界が元に戻りました。
「ググルァードフゥォ!」
「痛いなぁ、まあ向こう側の訓練程ではないが、今の僕は強さ三割増しだよ? 血脈魔法 風見鶏」
『そうじゃ! そうこの風見鶏が全ての基本じゃ、あとは風を読み、風を統べろ』
「名は体を表す、あの人に与えられた僕の矢だ、血脈魔法発展、固有魔法爆風弾け飛べ」
『お主の名の意味は突風、又は爆風じゃ』
『ばくふう?』
『ああ、爆風に伴い吹き抜ける風、お主はそれじゃ、なら爆発とは? それもお主じゃ、お主と言う名の爆発により、周りの者たちを通じ、お主と言う名の風が吹き抜ける、どうだ、いい景色だろう?』
「ああ、怖いや…あの人に与えられた力を無駄にしたくない、腐らせたくない、もう死の恐怖なんて大した者じゃないや、おまけだよ、血脈魔法、信仰魔法、融合塵旋風焔」
騒がしいギルドの酒場、その一角で…
「ほら飲め! それにしてもお前の技、なんだったんだ?」
「僕にもよくわからない、よくわからないまま教えられてよくわからないまま使ったからね、ただ一つわかるのはこれを教えてくれた人はとてもいい人だって事」
レオ達がやってきました。
「あ、レオじゃん、ドラゴンイーター入り、おめでとう、飲む? あれ、ジャックは?」
ブラストは酒瓶をレオ達に渡しました。
「それがね、実はジャッチは悪魔族だったらしくて、ドラゴンイーターの皆さんに殺されたんだ……」
カルタが言いました。
「ふーん、戻って来いとは言わないでね」
「ああ、ドラゴンイーターにはソロの弓兵も多い、そっちを頼るさ」
レオが言いました。
「お前、目が変わったよな、今まで恐怖に駆られていた目が、何か見つけたような目に」
レオンが言いました。
「うん、僕王都目指す事に決めたんだ」
「まじかよ、ならこのコンビ解散だな、まあいい、相性そんなに良くなかったしな、攻めすぎる前衛と攻撃範囲の広い後衛ならこうなると見抜けたはずなんだが……」
「うん、じゃあ! 飲もう!」
騒々しいギルドの酒場、その一角で今日も何かが起きたようです。
ブラストは魔術と冒険と時々逃走にもメインキャラクターとして登場予定です。お次は王都で?