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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夜の昔ばなし

カチカチ山への道

作者: ノイテ

『カチカチ山』



 むか〜しむかし

 あるところ、

 道無き先のその先に、

「カチカチ山」と呼ばれた山がありました。



 その山には、狸や兎や獣達が沢山住んでいました、

 その山の裏山に人が住みつくまでは…。



 その裏山に人が来て、山の幸や獣を獲り尽し、獲る獲物がなくなると、人は居なくなってしまった。

 野菜が出来ない畑を作った、爺さんと婆さんの二人以外は。


 山に残った最後の獣、その狸と子兎は、その畑に行った。

「やーい、ヨボヨボじじい。

 ヨボじじい、その畑に何にも出来んのだな、とっととこの山から去るんだな」

 と、言って狸は爺さんの気を引いているうちに、子兎が食べ物を海や遠くからとってくるのです。

 その山には食べるモノは、もうなにもありませんでした。


 爺さんは狸に、がまん出来なくなり、ワナをしかけて狸を捕まえました。

 そして狸を家の天井につるすと、

「婆さんや、こいつは性悪ダヌキだからな、決してナワをほどいてはならんぞ」

 と、言って、 そのまま畑に出かけたのです。

 爺さんがいなくなると、狸は婆さんに言いました。

「婆さん婆さん、おらはすっごく反省しているんだな。

 悪い事は決してしないんだな。

 つぐないに婆さんの肩をもんであげるんだな」

「そんな事を言って狸汁になりたくないから逃げるつもりなんだろうじゃろ?

 美味しい狸汁にして喰ってやるからの

 楽しみに待っておれ」

「いえいえ、そんなことはないんだな。

 では、狸秘伝のキビ団子を作ってあげるんだな」

「秘伝のキビ団子?

 あのキビ団子?」

「はい。

 とっても美味しいんだな、食べれば十年は生きられるんだな。

 きっと、爺さんが喜ぶんだな。

 もちろん作りおわったら、また天井にナワで、つるしてもかまわないんだな」

「そうかい。

 爺さんが長生き出来るのかい、それは困るのう。

 だからお前は狸汁じゃ」


 ああ、狸は、もはやこれまでと、親兄弟と同じように喰われるのと観念した。

 吊るされた高い天井から見た、逆さまの遠い景色に覚悟した。

 しかし、狸はその景色なかに子兎を捕まえたお爺さんが、こちらに向かってくる姿を見てしまった。



「婆さん婆さん! では、子兎さんから聞いた、秘伝の月のお餅を作ってあげるんだな」

「秘伝の月のお餅?

 あの月のお餅?」

「はい。

 とってもおいしいんだな、食べれば永遠に生きられるんだな。

 でも、出来る量は少ないから、爺さんの分は、ないんだな。

 もちろん作りおわったら、またナワで天井につるしてもかまわないんだな」

「それじゃ、いただくとするかの、その月のお餅を」


 婆さんは狸に言われるまま、杵と臼を用意して、しばっていたナワをほどいてしまいました。

 その途端、狸は婆さんにおそいかかって、杵と臼で婆さんを打ちかかったのです。

「これは父さんの分なんだな。

 これは母さんの分なんだな。

 これは兄弟達の分なんだな。

 これは子兎の家族の分なんだな。

 これは山のみんなの分なんだな」

 狸はそう言って、杵と臼で何度も何度も打ち、婆さんを肉団子にしてしまったのです。

「はあ、はあ、やってしまったんだな。

 この婆さんの肉団子を、この大なべに隠すんだな。

 この野菜をかぶせて、ミソでふさいで、隠すんだな」


 しばらくして帰ってきた爺さんは、大なべに入った具材が見て、

「婆さん婆さん、ああっ、なんて事だ、なべに火が入ってないぞ、これでは狸汁は食べれんぞ」

 爺さんが竈に火をくべていますと、そのすきに狸が子兎を捕まえていたナワを解いて山へ逃げ出そうとします。


「助かったぴょん狸さん」

「子兎さん逃げるんだな。

 ここから逃げれば、そのうち山から人がいなくなるんだな」

「なぜ、なんだぴょん?」

「おら婆さんを殺してしまたんだな。

 杵と臼で何度も打って肉団子にしてしまったんだな。

 その肉団子を大なべに入れて野菜とみそをかぶせて隠したんだな。

 だから、この山に人は爺さん一人だけなんだな。

 これで爺さんは山から出ていくんだな。

 山から人がいなくなるんだな」

「やったぴょん、やったぴょん。

 山から人がいなくなるぴょん。

 つるされて鍋にされないですむんだぴょん」

 ぴょんぴょん騒ぐ子兎のせいで、もう少しで逃げ出せるところで爺さんに見つかってしまいました。


「性悪ダヌキと子兎ども、どこに逃げるつもりだ。

 またワナで捕まえてやろうぞ」


 爺さんから必死で逃げる狸と子兎でしたが、人のワナにはかなわない。

 狸は爺さんのワナに捕まってしまったのです。


 ワナに捕まえられた狸は、子兎に言いました。

「子兎さんは、おらを置いて逃げるのだな。

 おらはこのワナから逃げられないんだな。

 でもここで、おらが騒げば爺さんは、こっちに来るんだな。

 そのスキに子兎さんは山へ逃げるんだな」

「そんな狸さん、わたし一人で生きられないぴょん」

「そんなことはないのだな子兎さん。

 人がいなくなれば山は平和になるんだな。

 食べ物もいっぱいなるんだな。

 子兎さんでも大丈夫なんだな」

「狸さんぴょん」

「これはおらが婆さんを殺してしまった、むくいなんだんな。

 ほら、爺さんがこっちに向かってるんだな。

 子兎さんは行くんだな」

 子兎は何度も何度も振返りながらも山へ逃げていきました。


 狸は子兎が見えなくなると、腹のタイコを高らかに叩いたのです。

 ポンポコポーン♪ 

 ポンポコポーン♪


 爺さんも、その腹タイコの音に気が付きました。

 ポンポコポーン♪ 

 ポンポコポーン♪


 狸は爺さんの気を引いて、子兎を逃がす時間を作る為に、腹タイコを叩きました。

 ポンポコポーン♪ 

 ポンポコポーン♪


 と、その腹タイコの音は、夜更けまで続きました。

 ポンポコポーン♪ 

 ポンポコポーン♪


 腹タイコを叩いていた狸は、いつしかワナが外れたことに気つきました。

 必死で騒いだからワナが外れたのでした。

「ワナが外れたんだな。

 山へ帰れるんだな。

 子兎さんとこに帰れるんだな」

 狸は山の子兎さんへ向かいました。




 ………

 ……

 …




 …ポンポコポーン♪ 

 …ポンポコポーン♪



 爺さんは、その腹タイコの音で狸がワナに捕らえられた事に気が付きました。

「性悪ダヌキはワナにかっかたか、つぎは子兎じゃやな」

 と、爺さんは、山へ向かいました。


 爺さんは山で子兎を捕まえ、家にかえりました。

 そして子兎を家の天井につるすと、

「婆さんや、こんどは子兎を捕まえてきたからな、決してこのナワをほどいてはならんぞ」

 と、言って、そのまま大なべに向かったのです。

「おや旨そうな狸汁が出来てるな、婆さんがいないが先に喰ってやろう」


 つるされていた子兎は、爺さんはムシャムシャと汁を美味しそうに食べる見て、狸が言った言葉を思い出しました。

「爺さんが肉団子になった婆さんを食べてるぴょん。

 婆汁を食べてるぴょん」

 爺さんは言いました、

「これは婆汁だったのか、なんてもんを食わせるんだ、あの性悪ダヌキめ」

「あの狸さんは、悪い狸さんですぴょん。

 爺さん、わたし婆さんのかたきをとってあげますぴょん。

 だから、ナワをほどいてほしいぴょん。

 もちろんおわったら、また天井につるしてもかまわないぴょん」

「そうかそうか、だったらナワをほどいてやろう、ついでに皮を剥いてやろう」

「ぴょん」

「婆汁で腹がふくれたんでな」

「ぴょん?」


 お爺さんは、体の皮を剥かれて泣いている子兎に、狸をやっつける方法を教えます。

「…ぴょん」




 山へ帰った子兎は狸を柴刈りに誘いました。

「子兎さん無事だったんだな、おら心配したんだな」

「…狸さん。

 柴刈りに行かないかぴょん?」

「それはいいんだな。

 よし、行くんだな」

 さて、その柴刈りの帰り道、兎は火打ち石で「カチカチ」と、狸の背負っている柴に火を付けました。

「おや? 

 子兎さん、今の「カチカチ」と言う音はなんなのだな?」

「ぴょん!

 この山は『カチカチ山』ぴょん。

 だから「カチカチ」というのぴょん!」


「ぽーん、

 そうだったんだな、この山は『カチカチ山』って言うんだな。

 住んでても知らないことばっかりなんだな」


 しばらくすると、狸の背負っている柴が「ボウボウ」と燃え始めました。

「おや?

 子兎さん、この「ボウボウ」と言う音はなんなのだな?」

「ぴょんぴょんぴょん!

 この山は『ボウボウ山』ぴょん。だから「ボウボウ」というのだ、ぴょん!」

「ふーん、そうだったんだな、この山は『カチカチ山』とも『ボウボウ山』とも言うんだな。

 住んでても知らないことばっかりなんだな。

 子兎さんはもの知りなんだな」

 そのうちに、狸の背負った柴は大きく燃え出しました。

「なんだか、あついんだな子兎さん。あつい、あつい、助けてーなんだな!」

 狸は背中に、大やけどをおいました。



 子兎は爺さんに、この顛末を話しました。

「はっはっはっ、ゆかいゆかい性悪ダヌキめ、ざまあみろ」

「狸さんは大やけどぴょん、しっかり反省しているぴょん、だからもう許してほしいぴょん」

「まだだまだだ、つぎのやりかたをおしえてやろう、ついでにお前の皮を剥いてやろう」

「ぴょん!」

「まだ残ってた婆汁で腹がふくれたんでな」

「…ぴょん」


 お爺さんは、体の皮を剥かれて泣いている子兎に、つぎの狸をやっつける方法を教えます。

「…ぴょん…」




 次の日、子兎は、辛い辛いとうがらしをねって作った塗り薬を持って、狸の所へ行きました。

「…狸さん、

 やけどの薬を持ってきたぴょん…」

「子兎さんの薬とは、とてもとても、ありがたいのだな。

 さあ子さ兎さん、背中が痛くてたまらないんだな。

 はやくぬってほしいんだな」

「…いいぴょん。

 背中を出してぴょん…」

 子兎は狸の背中のやけどに、辛しの塗り薬をぬりました。

「うわーっ!

 痛い、痛いんだな子兎さん!

 この薬はとっても痛いだなー!」

「…がまんしてぴょん。

 よく効く薬は、痛いもんだぴょん…」

 そう言って子兎は、もっと、ぬりつけました。

「うぎゃーーーーだなっ!」

 狸は痛さのあまり、気絶してしまいました。




 子兎は爺さんに、この顛末を話しました。

「はっはっはっ、ゆかいゆかい性悪ダヌキめ、ざまあみろ」

「…狸さんもわたしも、もう許してほしいぴょん…」

「まだだまだだ、つぎのやりかたをおしえてやろう、ついでにお前の皮を剥いてやろう」

「…ぴょん…」

「最後に残っていた婆汁で腹がふくれたんでな」

「……ぴょん……」



 お爺さんは、体の皮を剥かれて泣いている子兎に、つぎの狸をやっつける方法を教えます。

「……ぴょん……」




 さて、子兎は狸を釣りに誘いました。

「……狸さん。

 舟をつくったから、海へ釣りに行こうぴょん……」

「それはいいんだな子兎さん。

 よし、行くんだな」

 海に行きますと、二せきの舟がありました。

「……狸さんのは茶色いから、こっちの舟だぴょん……」

 そう言って子兎は、木でつくった舟に乗りました。

 そして狸は、泥でつくった茶色い舟に乗りました。

 二せきの船は、どんどんと沖へ行きました。

「……狸さん、どうだぴょん?

 その舟の乗り心地はぴょん?」

「うん、

 いいんだな子兎さん、

 舟をつくってくれてありがとうなんだな。

 あれ、なんだか水がしみこんできたんだな」

 泥で出来た舟が、だんだん水に溶けてきたのです。


 溶けはじめた泥の船で、狸は子兎に言いました。

「おらののった船は沈んでしまうんだな。

 子兎さんは、おらを置いて山へ帰るんだな。

 おらは大やけどのせいで泳ぎきれないんだな。

 子兎さんの舟では、おらを乗せられないんだな」

「そんな狸さん、わたし一人で生きられないぴょん」

「そんなことはないのだな子兎さん。

 人がいなくった『カチカチ山』は平和になるんだな。

 食べ物もいっぱいの『ボウボウ山』になるんだな。

 子兎さんでも大丈夫なんだな」

「狸さんぴょん」

「これは、おらが婆さんを殺してしまったむくいなんだんな。

 でも、おら『カチカチ山』へ帰りたかったんだな、

 食べ物もいっぱいの『ボウボウ山』を見たかったんだな。

 子兎さんといっしょに生きたかったんだな。

 でも、子兎さんは行くんだな。

 子兎さんは、みんなのぶんまで生きるんだな〜

 おらの分まで生きるんだな〜」

「狸さんぴょん!

 狸さんぴょん!」

 子兎は何度も何度も沈んでいく狸に呼びかけました。



「……狸さんぴょん……。

 ……わたし、一人に、なっちゃたぴょん……。

 …でも帰っても爺さんに、天井につるされて、体の皮を剥かれて、兎汁にされるぴょん…

 ……

 …そうだ爺さんをやっつければいいぴょん…

 やっつける方法は爺さんに教えてもらったぴょん。

 肉団子の作りは狸さんに教えてもらったぴょん。

 爺汁をつくって喰ってやるぴょん。

 狸さんの分まで生きてやるぴょん」



 …

 ……

 ………



 山に住んでた狸と子兎、人を追い出すその顛末。

 吊るされ殺され喰われると、殺して返して罪狸。


 罪狸。

 騙し、放火し、沈めて、捨てて、そこに残るは、ただの罪。


 後に残るは、狸を殺した子兎と、手を汚さなかった爺が一人、

「カチカチ山」は、人と獣じゃ狭すぎる。


 一人殺せば、二人も同じ、

 さすればきっと最後まで。

 最後はどっちが生き残る?


 狸汁、婆汁、爺汁、兎汁。

 どれが一番、美味い汁。

 焼いて沈めて全部汁。

 肉の入った辛い汁



「カチカチ山」は、価値無き山。


 人の価値無き「カチカチ山」


 人の道無き「カチカチ山」





(おしまい)

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