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俺の周囲の人がおかしいのか、俺がおかしいのか?

 俺が目を覚ましてから、しばらくして呼吸器など外されてようやく喋れるようになった。

絶対安静なのは変わらないが、手は動かせるようになるのは有り難かった。


 俺はすぐにアヤメの手を握り返して、何度もお礼を言うと、彼女は、はにかみながらも、ずっと俺の手を握り離さない。


 アヤメは、それからも俺に寄り添ってくれていた。

朝、少し帰宅して着替えてくるが昼前には戻ってくる生活。

話せるようになり、学校の事を聞くと、やはり行っていないみたいだったが、彼女自身は気にする様子がなかった。

だから、俺は少し強めの口調で学校には行くようにと伝えた。

彼女もわかってくれたみたいで、次の日から、始発に合わせて病室を出ていくと、夕方近くに顔を出して、また早朝までいるサイクルに変わる。

ありがたいが、何だか彼女の時間を奪っているようで申し訳ない気持ちになった。


 アヤメが居ない昼間は、かなり暇になった。

スマホで会社に仕事の進捗状況を聞きたいが、アヤメが俺にスマホを渡してくれない。

会社には、あの卜部という男性から休むと連絡を入れてくれているそうだが、戻った時に自分の椅子が無くなっていそうで不安になる。


「それにしても、誰も見舞いに来ないってどういうことだ!?」


 決して親友と呼べるほど仲良しこよしの間柄ではないが、たまに飲みに行く程度の同僚はいる。

同僚も、少し遠いが実家の両親達すら、誰も見舞いに来ないのも、俺が暇をもて余している理由の一つだった。


 入院中、幾つか不可解な話があった。

 まずは、俺の怪我。背骨が折れる大怪我にも関わらず、医者の口から言われた入院期間は、わずか三週間だった。

「君は、治りが早いね」と先生は笑って言うが、果たして普通そんなに短い時間で治るものなのだろうか。


 あとは治療費に関してもそうだ。

いつまで経っても治療費に関して話が出ないので、俺が看護師に聞くと、治療費は全て払われているという。

誰が払ってくれたのか尋ねても、知らぬ存ぜぬを通される。


「どうなっているんだ?」


 俺の言葉に夕方制服から着替えてやって来たアヤメが反応する。今日は無地でシックなねずみ色のニットのセーターに黒色のフレアのミニスカートと、外が寒くなってきているのだろう。

退屈な入院生活で、アヤメのファッションを見るのが楽しみの一つとなっていた。


「どうかしたの、とおるさん?」


 今、この部屋には俺とアヤメ、そして検温に来た看護師がいる。俺のベッドの隣に座って、拳銃をバラしてメンテナンスをしているアヤメ。その隣にいる看護師はカルテを見ており、アヤメのやっている事をツッコミも入れずにスルーしていた。


「アヤメは一体何をしているんだ?」

「何って……銃のメンテナンス」


 看護師が居なくなってから聞いてみたが、アヤメは可愛く小首を傾げるだけ。俺がおかしなことでも言っているのだろうか。

それとも、俺が意識がなかった間に、世間の常識が改変したのか。


 コンコンと扉をノックする音がして、アヤメはメンテナンス途中の拳銃を置いて、俺の代わりに出てくれる。

部屋に入ってきたのは、あの卜部という男性であった。


「容態はどうだい? 四弐神くん」


 俺の見舞いに来る人物と言ったら、この卜部という男性と、あの松島という女性くらいだ。

本日は、当たりの日のようだ。


「そう言ってくれると、私も嬉しいな。しにがみくん」

四弐神(よつのがみ)だって、言っているでしょ。松島さん」


 わかって言っているのだろう。笑いながら松島は、中指一本で、ずれた眼鏡を上げるとキラリとレンズが光らせる。

二人揃ってやって来るのは、珍しい。

気のせいか、あの松島も今は真剣な表情で病室は重苦しい空気へと変わる。


「失敬な! 私はいつも真剣だぞ、しにがみくん」

「一番質が悪いわ、それは」


 ここ最近の軽快なやり取りをしても、重苦しい空気は取り除けない。一体何が始まるのかと思いきや、アヤメがいきなり立ち上がる。


「私は、席を外しますね」

「それが良いだろう、アヤメくん。松島、お前の話は後で構わないだろう。すまないが、アヤメくんと共に部屋から出てくれ。二人きりで話がしたい」

「なるほど。しにがみくん、卜部が襲って来たら潔く諦めろ。腕力では勝てないぞ。あぁ、もちろん襲うというのは卜部の趣味の話だ」

「待て、松島! 俺にそんな趣味はないぞ!」


 松島は、アヤメの背中を押して部屋を出ていく。引き留めようと卜部の伸ばした右手が虚しく残る。

俺は今、抵抗出来ない。重苦しい空気は、その為か。


「ゴホン! 四弐神くん。その諦めた顔して目を瞑らないでくれないか。誤解なのは、松島の性格からわかっているだろう」

「それで、話って?」

「普通に進めるのだな。肝が据わっている。んんっ、話というのは、君がここに送られた原因とアヤメくんの事だ。知りたいだろう?」


 そう来るだろうとは、予測は出来た。彼女とのデート中に起こった出来事はもちろんのこと、この入院中にあった不可解な事も直結しているだろう。


 俺は一言「もちろんだ」と答えた。


 卜部は頷き、灰色の背広の懐から一枚の名刺を差し出してきた。そして、同時に出した二つ折りになったバッジケース状のものを開いて見せた。


 実物を見るのは生まれて初めてだが、俺はそれがすぐに何かと理解できた。卜部の身分を証す写真と、旭日章(きょくじつしょう)

いわゆる警察手帳である。


 卜部は予想通り警察関係者であったが、俺のベッドの上に置かれた分解されたアヤメの拳銃に関して何も触れないところから、容認しているのかと心底驚く。


 ただ、見せられた警察手帳には、警視庁三課と書かれているのに、渡された名刺には捜査一課第三特殊犯捜査となっていた。


 俺の記憶違いだろうか、確かドラマとかでも一課と三課じゃ扱う事件が、随分と違う気がする。


「この三課は、いわゆるフェイクだ。名刺に書いてある方が本当だよ。第二までしか表に出ない裏の第三特殊犯捜査。それが俺や松島、そしてアヤメくんの所属だ」

「アヤメが警察関係者? 彼女は未成年ですよ。それもまだ、高校生だ」

「言ったろ。表に出ないって。代々日本をあるものから守る役目を担って来た。陰陽師……お庭番、名前は変えていったがやっていること、それは──ヒトの排除だ」

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