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クリスマスプレゼントは金額よりセンス派

 俺は、ブラッディオブサイスこと、ブラちゃんを鞄にしまうと何をするわけでもなく、ベンチに座り天井の照明を只眺めていた。

今は、アヤメ待ちである。

この訓練所にはシャワーも完備されており、俺はカラスの行水並みの早さで浴びてきていた。


「すいません、とおるさん。お待たせしました」


 俺は声のした方に一度目を向けるがすぐに逸らしてしまう。シャワーを浴びてきたアヤメは、仄かに湯気が立ち上ぼり、白い肌にほんのり赤みが差している。

何より長い金色の髪の毛を一つに束ねアップしており、普段は見えないうなじが見えた。

それがとても色っぽく、俺はたまらず視線を逸らしてしまったのだ。


「帰ろうか」


 俺はぶっきらぼうにそう言うと通勤鞄を手に取り先に出入口へ向かうと、アヤメも同じく茶系統の飾り気のない通学鞄を持ち俺の隣まで駆け足でやって来た。

照明を消して、真っ暗になった訓練所をあとにすると、俺達は第三特殊犯捜査課の部署に寄り、卜部に帰りの挨拶だけする。

禁煙パイポを咥えた卜部は、右手を挙げてヒラヒラと振るのみ。


 エレベーターに乗り地上へと上がって行く中、ふと俺は何かを忘れているような気がした。

大切な何かを。


 警視庁を出ると、二人並んで駅へ向かう。空はすっかり日が落ちているにも関わらず道はクリスマスのイルミネーションに彩られ、明るく照らされている。


(そうだ、クリスマスプレゼント!)


 しまった。買う時間がない。今日から会社終わったあとは、訓練に向かう必要がある。つまり、ほぼほぼアヤメとずっと一緒なのだ。

内緒にしたいし、何を買うのか選ぶ時間も必要になってくる。


「ん? アヤメ?」


 考え事していた俺は、隣にアヤメが居ないことに気づき振り返ってみると、ショーウィンドウの前に立つアヤメの姿が。確か、このショーウィンドウ……。


 俺がまだ入院していた頃に警視庁からの帰りに同じように釘付けになっていた、あのショーウィンドウ。

俺はアヤメに近づき、同じようにショーウィンドウに飾られた一つのコートに目をやる。

高価そうなコートだ。値札に目を移すと一、十、百……万、十万!

税抜きで三十万近い値段。


(いくらなんでも無理だ。大体、彼氏でもない男からこんな高価なもの贈られてもアヤメも困るだろう)


「このコートが気になったの?」と夢中になっているアヤメに声をかける。


(いや、でも、アヤメがこれ程欲しがっているのなら、清水の舞台から飛び降りる覚悟で!)


 俺は瞬時に財布の中身と銀行に幾ら貯金があるか計算する。しかし、アヤメからの返事は予想外のものだった。


「違いますよ、とおるさん。私が見てるのあれです」


 それはショーケースの中のクリスマス飾りの一つ。サンタのぬいぐるみ……サンタなのか、アレ。

アヤメが指差したのは、非常に顔色の悪いサンタ。顔が真緑なんですけど。


 顔色の悪さに相まって口から泡でも吹き出しそうなくらい、苦悶の表情のサンタさん。


「はぁ~、きも可愛いって言うんですよね、これ?」


 愛おしそうな目でサンタを見つめるアヤメ。端から見たら苦しんでいるサンタを、救いたいと願っているようにも見えるが。


 俺はスマホで然り気無く、この人形について調べる。市販のものなら、アーマーゾ~ンで買えるかもしれない。


(あった!)


 商品名を見て、思わず笑いを堪える。


商品名》サンタ・苦シミマース


 値段は、一万二千円ほど。結構高いな。俺はこっそりアヤメに気づかれないように、これをカートへと入れた。


「さ、帰ろう」

「はい」


 後ろ髪を引かれつつも、アヤメはショーウィンドウから離れる。

俺は、改めてサンタ・苦シミマースを一瞥して首を傾げるのだった。



◇◇◇



 明くる日から俺は勤務時間でありながら、屋上で過ごす事が増えた。

一つは筋トレ目的。自分の腕力不足を補うためだ。

もう一つが、純化能力の訓練だ。

強化系、創造系の両方を扱える俺は、ひとまずは強化系に絞ろうと思う。

鎌を鋭く強くすると非常にイメージしやすい。


 鞄から黒い棒を取り出し軽く振り大鎌にすると、大鎌全体を覆うイメージを作る。

鎌全体が青白い透明な光に包まれていく。


 俺は、そのまま大鎌──ブラちゃんを二度三度振るってみる。相手を想像しながら動き回る。


(持ち手の間をもっと開けるべきか)


 攻撃するときは構わないが、防御するときには持ち手の間で受け止めるのがベストだと感じた。

今度は俺が想像した相手に向かって大鎌を振ると、持ち手を広げた分、間合いが短くなる。


(攻撃の瞬間は、片手で持った方がいいかも)


 今度は片手で持って攻撃した分、リーチが伸びる。

その瞬間──俺の手から大鎌がすっぽ抜けた。


「やばっ!」


 ガラガラガラーンと、激しい金属音で俺は安堵する。

大鎌は屋上から落ちる直前に金属製の柵に引っ掛かっていた。

俺は大鎌を拾い、空へ掲げると日の光に照らされて刃が煌めく。


 手からすっぽ抜けた時、既に純化能力は解けていた。常に純化能力で強化するには慣れが必要だし、大鎌を振るにももっと慣れが必要だと俺は感じた。


「いきなり、扱ったことのない武器を上手く扱うなんて、マンガやアニメの世界の中の話か……」


 この日の晩、アーマーゾ~ンからサンタ・苦シミマースが届いた。

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