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久しぶりの自宅、なのに全然落ち着かない

 手放しで喜び、俺を褒めてくれるアヤメ。

しかし俺の内心は、この時少し複雑であった。

才能があると褒めてくれるのは嬉しいが、それはヒト殺しの才能。

ヒトは人の成れの果てだが、大きく括れば人である。

これは、俺がまだ何も経験していなから思えることなのだろう。

アヤメは何時ヒトが人ではないと吹っ切れたのだろうか。

俺もいつしか、それが当たり前になっているのだろうか。


「あー、アヤメくん。喜んでいるところ悪いが二系統持っていることなんてザラだ。世界でみたらな。偶然だが、アヤメくんの周囲には一系統の者しか居なかったから勘違いしていたのだな。四弐神くんも、悪いな。ぬか喜びさせて」


 卜部の言葉にアヤメは一瞬固まると、俺の首に回した腕がスルスルと抜けていき頭を深々と下げる。


「ご、ごめんなさい、とおるさん……私、知らなくて」


 謝らないで欲しい。むしろ一般的程度の才能はあるのだとわかったのだから。

俺を惨めにしないでくれ。


「落ち込まないでくれ、四弐神くん。むしろ戦略の幅が広がってアヤメの役に立つ、そう考えてくれないか」

「はい。俺は大丈夫ですよ。だから、アヤメも頭を上げてくれ。それより、まだまだ上手くイメージ出来ていないから、色々教えてくれると助かる」

「は、はいっ!」


 俺は、訓練所から出ていく松島と卜部を横目に見ながら、アヤメからイメージするコツを言葉にしてもらい教わる。

相変わらずというか、アヤメの言っている意味が殆んどわからず苦戦しながらも、俺は何とか理解しようとしていた。


 広い空間で二人きりで、イメージの特訓を行う俺達を、ガラス一枚隔てた廊下で卜部と松島が見ているとは気づかずに……。



◇◇◇



 ──松島視点──


「あの二人は一体何をやっているのだ!?」


 卜部は、ガラス越しに見守るように二人を眺めていたが、あまりにも二人の動きが気になりだして驚きの声を上げた。


「アヤメくんの言葉をしにがみくんが形にしようとしているのだろ。この間も同じことをしていたぞ」

「そうなのか……って、おいおい。遂に二人してステップ踏み出したぞ!」


 私がこの間見たワカメ踊りを説明していると、卜部がとうとうガラスに張り付いてマジマジと見始める。

気になった私も見てみたが、何故か二人は向かい合いながらボックスを踏んでいた。

駄目だ、わからん。


「さすがの私にも理解出来んさ。……それよりも卜部。見たか、あの透明感」


 私は気を取り直して真顔で卜部に尋ねると、卜部も訓練所を覗いていて驚愕していた顔から一変する。


「気づかないはずないだろう。アヤメくんの時の青白い光にも驚いたが、あれはそれ以上に透明だった。俺が現役の時から思い出しても、覚えがないくらいに」

「透明感であればあるほど精度が上がる。だからこそ、アヤメくんは、寸分違わぬ弾丸を作り出せる。しかもそれは訓練などでも変わらない。あれは才能だ。教えてやらないのか? アヤメくん、喜ぶぞ」


 そう、才能だ。目の前にあるガラスのような透明感。これに比べたらアヤメくんのがすりガラスのように思えるほどに。

しかも二系統とも、同じように。

つくづく私のモルモットにふさわしい。


「俺も責任者だ。教えて浮かれてもらっては困るからな」


 そう言う卜部だが、こいつも親バカだからな。アヤメくんが喜ぶなら教えたいと顔に書いてある。


「アヤメくんを超える才能……それでも、私達はアヤメくんを守らなくてはならない。たとえ、しにがみくんを犠牲にしてでも……」

「ああ、わかっている。たとえ、アヤメくんから恨まれても……」

「それが、大人としての立場というものだよ。卜部」


 そんな会話のやり取りをしていると、しにがみくんが知ることとなるのは、もっと、ずっと後になってからだった。



◇◇◇



 そんな二人の会話など知らずに俺とアヤメは、警視庁を出て帰りの電車へ乗った。

電車に乗るのも久しぶりな気がする。

ましてや隣には、アヤメが。

たった三駅程度だったが、以前は見ているだけだったアヤメが、俺の告白から一月足らずで隣にいることに幸せを感じていた。

普段の通学時に見せる物憂げな表情ではなく、じっと俺の方を見てくる。

目が合い、恥ずかしくなるも、視線を外したら負けたような気がして俺もずっとアヤメを見ていた。


 俺の家の最寄り駅に到着して電車を降りるとアヤメも降りてくる。

階段を登り改札に向かうと、アヤメまで降りようとしていた。


「ちょ、ちょっと待て。アヤメの家は二駅先だろ?」


 俺は改札をくぐる直前に振り返り、アヤメを止める。このまま家まで着いてくるつもりか。

アヤメはとても名残惜しそうな顔をしていた。

それは俺も同じなのだが、男の一人暮らしの家に入れる訳にはいかない。

俺の決意という防壁は脆いのだ。すぐに決壊してしまう。


「あの、とおるさん……ライーン」

「わかった。着いたらするよ」

「はい」


 俺が子供をあやすように軽く頭を叩いてやると、アヤメは目を細めて嬉しそうに笑う。

頭に置いた手をなかなか離せずに、俺はこのままアヤメの腕を引っ張り家へと連れて帰りたくなる衝動に駆られる。

だけど、違う。アヤメが望んでいるのは仲間だ。


「じゃあ、また」

「はい……」


 俺は改札を通ると、振り返ることなく階段へと向かった。


 久しぶりに着いた古びたマンションの前。俺は一階のポストを見ると溢れるほどの新聞紙が詰め込まれていた。


「今月、もう一回廃品回収があるはずだ」


 俺は新聞の束を抱えて、回収場所に置き風で飛ばされないように重しを置いた。


「縛るのは後でいいか」


 俺は、三人乗れば窮屈なエレベーターで登り、自宅前に到着する。

一呼吸置いて鍵を開けようとしたが、その時視線を感じた。


「あの……なにか?」


 隣に住まう女性が扉の隙間からこちらを伺っていた。


「さ、最近……その不審な人が来ていて。物とか取られていないか注意してください」

「それは、どうも親切にありがとうございます」


 心当たりは二つ、アヤメか松島。不審者と言ったところから、十中八九松島だろう。

俺は扉を開いて電気を点ける。

少し埃っぽいがいつもと変わらない風景。


 俺は玄関に荷物を放って奥の部屋へと入るなり、ベッドへゴロンと横になった。

天井のシミは、以前より、随分と、くっきりとしており、ジーっと俺を見ていた。落ち着かず、風呂でも入ろうかとお湯を浴槽に張りに行く。

浴室の天井の壁のシミも、くっきりとして此方と目が合う。

気のせいか、浴室のシミは女性っぽく見える。


 俺は風呂に入るの止めた。

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