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俺ってヒト殺しの才能あるの?

 先端の刃先に進むにつれ黒から赤くなっている俺の大鎌。

カーボンで出来ている分、軽量ではあるが刃先の鎌の部分には肝心の刃が無い。

隣で不満気な表情をしているアヤメのことも気になる。


「これを斬ってみな」


 だだっ広い空間の真ん中に置かれたサンドバッグみたいな形状の棒が、松島の隣に鎮座していた。

松島が離れるのを確認してから、俺は大鎌を真横に構えて振り抜いた。


 ガキンッと鈍い音と同時に俺の手から離れた大鎌が明後日の方向に飛んでいく。

ビリビリと痺れる手。

握りが甘過ぎたのか、そう思い俺は松島を見ると、松島は小踊りしながら歓喜していた。


「ハハハハハ。バカだな、しにがみくん。そんな刃も付いていない鎌で、その金属の棒が斬れるとでも? そんなわけ無いだろう」


 まだ両手の痺れが取れず、騙された俺は歯がゆい気持ちで松島を睨むと、眉をハの字にしたアヤメが歓喜している松島の所へ歩く姿が見えた。


「あの……松島さん。とおるさんの刀の方はどうなってるのですか?」


 松島に詰め寄っていくアヤメの迫力に、松島の顔がひきつる。


「うん、ああ。そっちはまだ何も……」

「もしかして、なにもしてないのですか?」

「あ、いや、それはだな……」


 追い詰められて言い淀む松島。アヤメが近づく度に後退していく。いいぞ、アヤメ。もっとやれと、俺は内心ほくそ笑む。


「そ、そうだ。刀はな、その新機能を考えていてな。何とか組み込めないか考慮中だ」

「新機能? どんなのですか?」


 アヤメの迫力に負け、新機能と(うそぶ)いたのであろう。

顔にはそんなのは無いと書いてある。


 だから松島は「髭剃り……」と意味不明な新機能を口走った。


「ふざけているのですか?」


 アヤメに冗談は通じない。しかし、さすがに、そろそろアヤメの暴走は止めなくては。

ついに懐から、愛用の拳銃を取り出す始末に俺と卜部が駆け寄る。


「待て待て、落ち着け! そうだ、刀は近日中に仕上げるのを約束しよう! それと、もう一つ、アヤメくんの喜びそうな情報をあげよう!!」

「本当ですね」


 さすがの松島もアヤメには勝てないのか、敗北を認めアヤメを連れて訓練所の隅へと移動する。

恐らくアヤメが喜ぶ情報を伝えているのだろうが、さっきから二人が俺の方をチラチラと見てくるのが気にかかる。


 近くに行きたいが、二人の様子からそう容易くは近づけないだろう。松島がアヤメに耳打ちすると、アヤメの顔がみるみる赤面していく。

変な事を伝えていなければいいが。


 戻って来たアヤメの顔はゆでダコのように真っ赤になり、身体が暑いのか、胸元を扇いで風を送る。


「アヤメ。何を教えられたんだ?」

「ひ、ひゃい!? ひ、秘密でしゅ」


 分かりやすく動揺するアヤメ。ニヤニヤとにやける松島をぶん殴ってやりたい。女性であることが悔やまれる。


 俺は、やれやれと頭をかきむしりながら、飛んでいった大鎌を取りに行く。


「しかし、これどうすれば?」


 刃の無い大鎌を拾い上げ、まじまじと見る。これで果たしてヒト相手に戦えるのだろうか。

俺は、初めて会ったヒトを思い出す。


 動きは緩慢で、まるでゾンビのように向かってくるだけ。

意外と、いけそうな気がしてきた。


「それは違うぞ、しにがみくん」


 俺の心を読み、松島が真剣な表情で話しかけてきた。


「だから、心を読むなよ」と文句を言ってみるが、簡単に無視されてしまう。


「キミに怪我を負わせたヒトは、なりたてのホヤホヤだ。ヒトとなり年月が経過すると慣れてくるのか、動きも俊敏になり、攻撃性も増す。だから、アヤメくんでも怪我を負うことがあるのだ」


 アヤメの武器は拳銃だし無理に接近する必要はない。

俺が出会ったヒトの動きは、決して速いとは言えず、俺の時みたいに不意を付かれない限り、怪我を負うことは考えにくい。


「それじゃあ、ますます刃がいるじゃないか」

「うむ。そこはキミ次第だ。おーい、松島。ちょっと来い!」


 松島が松島巴を呼ぶ。というか自分の姪を“松島”って呼ぶなよ、ややこしい。


「こっからはウチが説明するで。その大鎌はな、純化能力に反応しやくなってんのよ。しにがみくんの純化能力次第になってくるけど、創造系なら刃を作ればいいし、強化系なら鎌の刃の部分を強化したらええ、この時は実際刃は付けるけど、強化しないと斬れん程度のものやから──」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。その創造系とか強化系とか何のことだよ?」


 俺は慌てて巴の話を止めた。純化能力とは、というのは聞いていたが、純化能力自体どんなものかは聞いておらず俺は戸惑う。


「あー、ウチやなくて那須の担当やからなぁ。簡単に言うと何も無いところから作り出すのが創造系、アヤメちゃんがそうや。そして、何かを強くするのが強化系。他にも特能系もあるで。ちなみにオバ──局長の心の声が聞こえるというのも、特能系や」


 情報過多で頭がパンクしそうになる。

まとめると、アヤメの弾丸を作り出すのが創造系。

松島が人の心を読むのが特能系。

そして、この大鎌を使えるようにするのは、俺の純化能力の系統次第ってことか。


「それで、実際使うにはどうすれば……」

「それは私が教えますよ、とおるさん。どの系統も大事なのはイメージです。自分の身体から大鎌を通していくようなイメージをして下さい。そしてどんな刃でも良いので、強くイメージを──えっ?」


 俺はアヤメに言われた通り、イメージするべく目を瞑り俺の手から大鎌の柄の部分を通り先端へ向かっていくイメージをして、最後に刃の無い鎌の部分に刃を想像してみた。


「とおるさん!」


 俺はアヤメの声で目を開くと、自分の持つ鎌の刃先に青白い光の刃が出来ているのが目に入ってきた。

しかし、その刃は、とても歪な形をしており、一目で未熟さがにじみ出ていた。


「一応出来たみたいだな」


 俺は安堵する。これで、アヤメを守れる第一歩を踏み出せたと。


「一応、強化系の方もしてみるか」


 俺は再び目を瞑る。アヤメが今一瞬俺の名前を呼んだ気がしたけど、集中するためにイメージを続ける。

柄全体から刃の無い刃先までを、包むようなイメージを。


 目を開けると大鎌全体をゆらゆらと揺れる青白い光が包んでいた。


「良かった、こっちも出来た──ん? アヤメ、どうした? そんなに驚いた顔をして」


 アヤメだけでなく、この場にいた卜部や巴、そしてあの松島さえ、唖然とした表情で口が開いていた。

誰も喋らないことに、俺は急に不安になってくる。

もしかして、全く駄目だったのだろうか……。


「凄い! 凄いです、とおるさん!!」

「う、うわっ! アヤメ?」


 アヤメが突然俺の首に抱きついて来て、俺は前のめりに倒れそうになる。


「二つの系統を使える人なんて初めて見ました! 凄いです! ね、卜部さん、凄いですよね!? ね、松島さんも!」


 アヤメはまるで自分の事のように喜び、二人に自慢するように俺を凄いと褒めてくれる。

もしかして俺ってヒト殺しの才能……あるのか?

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