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天使の言語はやはり人には理解出来ないみたいだ

 アヤメの役に立てないCランクと聞かされて、目の前で嗤う松島の姿に目を取られ絶望にうちひしがれていた俺は、いきなりアヤメに抱きつかれて狼狽えてしまう。


「凄いです、とおるさん!」

「何がだよ……俺、Cランクなんだぞ。これじゃ……」

「でも、Sの可能性もあります!」


 興奮冷めやらぬアヤメに、俺は何の事だか気づかずにただ「凄い、凄い」と喜び体を摺り寄せられたまま、呆然としてしまっていた。


「ハハハ。まだ気づかないのか、しにがみくんは。いいか、確かにキミの可能性としてはCランクが一番高い。が、それと並んでS、A、Bも十分にあり得るのだ。そしてな、Sランク……それは、今まで誰も居ないということだ。正直これ程Sランクの可能性が高い者を私は見たことがない」


 ひじ掛けに肘を付いて顎を乗せたまま松島は、微笑んでいた。これ以上、不気味なものはない。

その態勢のまま、松島は椅子を回転させて卜部の方に向きを変えた。


「あとは卜部。お前次第だ。しにがみくんは、現状C。現場に連れていけないランクだ。だが、怪我の様子からもBランクの可能性も十分にある。そして、将来AにもSにも化ける可能性を持つ。どうする?」


 卜部の心の葛藤が聴こえたのだろう、松島は嫌らしくニヤニヤと笑ってみせた。


「……今回は仕方ない。けれど、四弐神くんが、実際はCランクだと判明した時点で、現場に出さず後方支援に回ってもらうからな!」


 卜部の判断により、俺の扱いは暫定Bランクとされる事となった。


「これから宜しくな、四弐神。俺は、松島局長の部下で上城(かみしろ)龍二(りゅうじ)ってんだ。担当は今日みたいに検査が中心だ」


 茶髪に染めたロン毛に胸元を開けたワイシャツからは、金色のネックレスが見える軽薄そうな男性が握手を求めて来て、俺はそれに応じた。

年齢は俺より年下っぽいが、いきなり呼び捨てにされて、あまり良い印象ではない。


「へへへぇ~、ウチは松島(ともえ)いうねん、よろしくなぁ」


 関西弁が特徴のオレンジに染めたショートヘアーの女性が両手を後ろに組ながら俺を覗き込むように下から見上げてくる。

しかし、それよりも気になることが。


「松島? って、まさか……」

「そうや、局長はな、ウチのオバ──」


 巴という女性は、眼鏡を光らせ威圧感剥き出しの松島に背後から頭を掴まれ持ち上げられた。


「オバサン?」

「痛い、痛い! でも、局長、ほんまに叔母さんやんか!」


 W松島は、多忙なようなので、俺は挨拶代わりに巴の手を取り握手しておく。


「シシシッ……巴殿は、主に武器担当でなす。僕は那須(なす)美十郎(びじゅうろう)なす。担当は、ピュアラバーの研究でなす」


 かなり面長な顔に、なすびのヘタのような髪型、丸眼鏡に、出っ歯と、特徴の渋滞を起こしている。

那須が差し出した子供のような小さな手を取り握手を交わすと、俺はまず気になった事を質問してみた。


「えっと……ピュア、なに? なんだっけ……」

「ピュアラバーの研究なす」


 なんだ、その朝の日曜にやっていそうな幼女向けアニメのようなものは。


「やめんか、那須! すまんな、しにがみくん。何度言っても聞かぬのだ。正確には“ヒトにおける純粋さによるダメージ予測並びに純粋さを想像と創造に置換したときの変化を及ぼし発揮する特異もしくは特殊な能力”だ」

「長っ! え、みんなそんな長ったらしいの覚えてるの!? なぁ、アヤメ!」


 俺がアヤメに話を振ると、明らかに困った表情をしており、はにかみながら「私は……ピュアラバーかな……」と、小声になり俯いていく。

俺が今度は卜部や上城を見ると、分かりやすく此方に振るなと睨んでくるし、那須と松島は、俺がどちらにするのかと、にじり寄ってくる。


「えーっと……お、大まかに言えば純粋さを何かに変化させるって能力だろ? 普通に“純化能力”とかじゃ駄目なのか?」


 静まりかえる部屋の中、反対しようとした松島と那須の声を掻き消すように、皆が一斉に拍手をする。


「おお、それはいい。四弐神くん、さすがだ。よし、これからは“純化能力”ということで」

「や、やるじゃないか、四弐神!」

「とおるさん、凄いです!」


 強引に褒め称え、反対意見を消す民主の闇。那須は不満そうな顔をしているが、問題は松島だ。

気のせいか血涙まで流しているように見えるほど、強く睨み付けてくる。

皆は俺を褒め称え続けるが、まるで松島の生け贄にさせられて祭り上げられている気分だった。



◇◇◇



 那須から“純化能力”について詳細が説明されるが、正直俺には科学的なものはサッパリとわからない。

隣で同じように説明を聞いていたアヤメも、細かいところはわからないという。


「まずは、百聞は一見に如かずでなす。アヤメ殿に見せてもらうといいなす」

「はい。とおるさん、見ていてくださいね」


 手のひらを上に向け集中するアヤメ。青白い光が手のひらの上に丸い球体となる。

徐々に収縮していく光。

やがて、それは一つの弾丸となって現れた。


「アヤメ殿のピュ……純化能力は、創造なす。アヤメ殿にはヒトが三種類に分けられるそうなす。それに合わせて効果的な弾丸を生み出す。これがアヤメ殿の純化能力なす」


 那須はそういうとアヤメから先ほど生み出した弾丸を貰う。すると、弾丸は音もなく霧散してしまった。


「このように、アヤメ殿が生み出す弾丸は他人の手に渡ると消えてしまうなす。他にも弾を入れた状態で拳銃を受け取っても、同じなんなす」

「そう言えば今言ったヒトの三種類ってのは、以前松島から聞いた三段階に変化するってやつか」


 那須は首を横に振り否定する。そして、その顔はどこか困っているようでもあった。


「違うなす。実はその事で僕も悩んでいるなすよ。アヤメ殿だけには、ヒトの中で三パターンの弱点のようなものがあるらしく、それが解明出来ればいいなすが、アヤメ殿の話がピンと来ないなす。一度、四弐神殿も聞いてみるといいなす」


 アヤメの方に振り向くと、アヤメは得意気に話を進め始めた。


「一つは、こう、パーッと明るい感じです」


 両手を目一杯上に向けて明るさを体現するアヤメ。

何となくだが、わからなくはない。


「次は、こうです。こう、ぐ~っと力を溜めている感じです」


 今度は両手を折り畳みながら、その場にしゃがみ小さくなる。プルプルと震える手が力を溜めているのだろう。

何となくだが、わからなくはない。


「最後はこうです!」


 両腕を真上に上げて体をくねらせるアヤメ。ゆらゆらと体を腰をその場で揺らし続ける。


「……ワカメ?」

「違います、とおるさん! こうです。ワカメはこう」


 違いを見せようとするアヤメだが、俺には全く同じに見える。那須も、頭を抱えていることから、これが悩んでいる原因なのだろう。


「アヤメ、もう一回」

「よく見ていてくださいね、とおるさん」


 再び、お遊戯会の劇でやる海藻やワカメになりきるアヤメだった。

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