私、アレがいいです! part2
リハビリの最中、散々ご年配の人達からからかわれて、俺はリハビリよりそっちの方が辛かった。
「田宮さん。ここの人達は、いつもこうですか?」
「そうだね。僕もよく“まだ彼女出来ないの?”と散々聞かれていますから」
爽やかな笑顔で返してくる田宮は、理学療法士としては、勝手なイメージではあるが、やや細身で頼りなく見える。
それでも、ここのご年配、特にお婆ちゃん連中には大変な人気で、常に近くに通る度に声をかけてくる。
そのせいもあり、ついでにと言わんばかりに俺にまでからかってくるのだから、たまったものではない。
「さ、休憩終わり。リハビリ続けようか」
俺は田宮に車椅子を押されて、今度は歩行器のある場所へと連れて行かれる。
初めは体を支えられて歩行器に掴まり、ゆっくり押す。
入院生活で鈍った足を動かしながら、背中に以前に無かった重さを感じる。
松島特製のボルトのせいなのだろうが、どれだけ重いボルトを俺は入れられたのだ。
不意に足がついていかず、歩行器を強く押してしまう。
転びそうになり、背中から妙な音が聴こえた瞬間、俺が強く押したと感じた以上に歩行器は物凄い勢いで壁に衝突してめり込む。
「痛たたたたっ……」
「大丈夫ですか、四弐神さん」
歩行器が進んだ床は軽く焦げ臭い匂いを出していた。
進行方向に他の人が居なくて安堵したが、問題は今聴こえた背中からの音。
明らかに機械的な駆動音だった。ギアが噛み合い動いた時のような。
決まっている。妙に重いボルト……松島……背中からの駆動音。一体俺の体に何を入れたのだ。
この後、リハビリステーションは騒ぎの人達で溢れ返り、リハビリは切り上げ俺は病室に戻ることになってしまった。
◇◇◇
「はい……はい。わかりました、それでは今から行きます」
トラブル続きの初めてのリハビリを中断という形で終えた俺は、病室の隅で卜部に電話をしているアヤメの姿を見ていた。
白いニットのワンピース、黒っぽい厚手のタイツに朱色のムートンブーツが映える。
学校から帰宅して病室に来て、すぐに卜部に連絡を入れていた。今から警視庁に行くからと。
電話を終えたアヤメは、俺の家から持ってきていた冬用のロングコートを俺に羽織らせて目の前に来てマフラーを巻くと、朝の時のように俺の脇の下に腕を回して車椅子へと移動させた。
「今から行って大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。目立たないように、裏口から入りますから」
アヤメは病室に来た時に脱いだ赤色のPコートを着ると、俺の後ろに回って車椅子を押していく。
既に手配していたタクシーに運転手と二人で抱えられて乗り込むと、警視庁へ向けて出発した。
タクシーの運転手は、バックミラーでこちらをチラチラと見てきているのがわかった。
気持ちも分からなくはないが、運転に集中して欲しい。
気にはなるだろうな、強面の車椅子の男性と、金髪の青い瞳の十代に見える女性の組み合わせ。しかも向かうは警視庁。
どうみても、運転手の中では俺が犯罪者に扱われているのだろうな。
警視庁に到着して再び車椅子に乗せられると、俺とアヤメは警視庁の裏口へと向かった。さすが警視庁、裏口にも二人警官が立っていた。
アヤメは何かを二人に見せると、警官はアヤメに対して敬礼して通行を許可する。
そして、俺の車椅子を押して警官の横を通るのだが、警官二人は俺を怪訝な表情で見てくる。
犯罪者扱いか、また。タクシーの運転手はともかく、警官が思い込みで決めつけては駄目だな。
エレベーターに乗りアヤメはキーケースから取り出した鍵を、エレベーターのボタンの下部にあった鍵穴に差し込むと、隠れた小窓が開きボタンが現れた。
ボタンを押すと、エレベーターは地下へと向かって降りていく。
「おお! 如何にも秘密結社って感じだな」
「警察ですよ、とおるさん」
秘密の組織というのは、地下にあるってのが定番だ。彼女はそれがわかっていない。
ジェネレーションギャップというやつに、ちょっと心が傷つく。
思っていた以上に地下深くへと降りていくエレベーター。
到着してみて、その意味がよくわかった。
エレベーターの扉が開いて視界が広がると、そこには十メートルは優に越える天井の高さのある空間。
廊下の壁の片側は、ガラスになっており真っ直ぐ廊下を進むと、扉の前に卜部の姿が見えた。
「よく来たな。ようこそ、我が捜査一課第三特殊犯捜査、通称ヒト殺しへ。歓迎するよ、四弐神くん」
俺は差し出された手を取り握手を交わす。
「早速、本題だが、今日来てもらったのは、キミの武器を決めようと思ってな。こっちに来てくれ」
卜部はガラスの向こう側の扉を開き中へと案内する。
「随分広い空間だな、このガラス張りの部屋は」
「ここ、訓練所なんです。元々」
ガラスの向こう側に広がる空間を眺めて呟いた俺に、アヤメが教えてくれる。体育館二つ分くらいあるし、確かに運動するには、十分な広さではあるが……。
「アヤメ一人なんだろ。広すぎないか」
「元々は、三十人近くいたのだよ。だが、一人また一人と減っていき、今じゃここを使う者は居ないからな。良かったな、ここは今からキミ専用の訓練所だ」
そう言いながら卜部は、隅の一角へ俺達を案内すると、そこの壁には警察に似つかわしくない武器の数々が陳列されていた。
武器の種類だけでも、刀や剣、槍や斧、弓、拳銃、ライフル、薙刀まである。
「さぁ、好きなのを選べばいい。決まったらそれを松島がキミ用に調整をしてくれる」
「そういえば、松島は? 俺は松島に呼び出されたってアヤメから聞いていたんだが」
「何処に行ったのやら……。人のお茶を得体の知れないものに入れ替えよって、全く……」
卜部は腕を組み不機嫌な表情に変わり怒っているが、松島が此処に居ないことにではなく、別の理由のようだった。
俺も松島には、是非背中のボルトについて問い質したい。
人を勝手に改造した理由を。
俺とアヤメは武器を選ぶため、端から端まで見ていくが、どれもこれも目移りしてしまう。
すると、アヤメが俺を放って何かに向かって駆け出していく。
「とおるさん。私、アレがいいです!」
アヤメが指差し示すのは、アヤメの身の丈と変わらない長さのむき身の刀。
「これか?」
後からついてきた卜部は、掛けてあるむき身の刀を取ると、俺に渡してくる。ずしりとかなりの重量を感じさせる。
「これ、真剣か?」
「当然だ。竹光な訳がないだろう」
「とおるさん、コレ、コレにしましょうよ」
柄を掴んで持つと、ヒトを叩き斬る為に重心がかなり先端にあり持つのがやっと。気を抜くと刀の先端が地面についてしまう。
「何故、この刀なんだ、アヤメ?」
「だって……似合うと思ったから」
想像してみる。刀を構える俺の背後に銃を構える美少女JK。うむ、確かに絵面は格好いい。まるで、姫を守るナイトのようだ。
しかし、問題は……。
「四弐神くん。キミ、剣道の経験は?」
「ないよ、竹刀も持ったことない」
「なら、ちょっと難しいぞ、アヤメくん。確かにアヤメくんとの兼ね合いで近接が好ましいが、近すぎる。せめて中間の距離がいいな」
アヤメは残念そうにガックリと肩を落とす。
「ハハハハハ。やっぱりしにがみくんには、コレが似合うだろう!」
声高らかに笑い扉を開けて現れた松島。照明に反射する眼鏡を中指で上げて近寄ってくるその手には、この場にいる誰よりの身の丈より長い柄、全てを刈り取ることが出来そうな大きな刃を持った、まるで魂を刈り取る為に死神が使う大きな鎌が見えた。




