私を置いて行かないで
なんと、この世界は羊系の魔王に支配されているらしい。肉食系の部族も昔はいたが、病気が蔓延して、もともと数が少なかったのもあり、絶滅してしまったようだ。そこで、異世界に生息する犬に、世界を救ってもらおうとしたのだという。
「私は、その要請を受けて、数年前から何度かここに来ています。まさか、散歩中に召喚されるとは思いませんでしたが」
くじらは仕方なさそうに肩をすくめる。
「お呼び出ししたばかりで申し訳ありませんが、早速向かっていただいてもよろしいですか?」
黒装束が、そっと口を挟む。
「もちろんです。本日はどちらへ?」
「タラートムです。どうも過激になっていまして。」
「さようですか。お任せください」
私は、未だにリードを握っていたことに気づき、慌てて外そうとする。くじらも、自分の首に手を伸ばした。ところが、肉球はあまり器用ではないようだ。困ったように私を見た。
「もう、仕方ないなぁ…。ほら」
寒さでかじかんだ手を温めつつ、リードを外す。くじらは、ぶるぶるっと体を震わせた。見た目が獣人なのに、やることが犬らしくて、少し笑ってしまった。
「では、勇者様、参りましょう。勇者様の任務が終了したら、共に戻って頂くことになります。それまでごゆるりとお過ごしください」
黒装束の言葉に、私は目をむいた。
「わ、私もくじらと一緒に行かせてください!」
思わず口をついて出る。部屋を出て行こうとしたくじらが振り返った。
「ご、ご主人様…なんて嬉しいお言葉。ならば、共に行きましょう」
あっさりとくじらはうなずいた。本人が了承すれば、周りには何も言えないのだろう。黒マントたちにも反対する気配はない。
くじらが歩き出す。私もそれに続いた。
拙い文章ですが、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。