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魔王討伐の旅ーリオジアの行方ー

 ウェリオとアールクタスを結ぶ街道を進む。


「それにしても、どうやって探すの?」

「とりあえず、地道に当たってみるしかないでしょう」


 くじらが大きく伸びをする。クローノスが飛んでもよいのだが、この先何があるか分からないことを考え、歩くことになったのだ。


「やれやれ、こんなことになるとは思ってもいませんでした。魔王軍にさらわれたんでしょうか。無事だといいですが」


 クローノスが、ため息交じりにそうつぶやいた。妹のことと重ね合わせているのかもしれない。


「どう転んだとしても、魔王軍が一枚噛んでいるのは間違いなさそうです」


 ナウヌが言った。その通りだろう。一昨昨日といえば、魔王軍がアールクタスを占領したか、そうでなくともすぐそばにいた頃合いなのだ。疑わないのは無理がある。


 アールクタスは、エムアよりはまだ被害状況は軽かったものの、やはり、ところどころからどす黒い煙が立ち上り、かろうじて焼け残った建物には、助かった人々がたむろしている。火が収まっているのを見ると、住人の努力が手に取れるようだった。


 くじらが、そんな人々にたずねる。


「すいません、人を探しているのですが」


 振り返ったのは、大きな枝角のある鹿の獣人だった。


「ん〜? ここはそんな奴らばっかだよ。幸い勇者様のおかげで死者はいないが、家族も散らばって……って、もしかして勇者様じゃないですか?」


 ちらりとのぞく鋭い犬歯のせいか、彼は勇者だと判断した。と、たちまち周囲の人々から歓声が上がる。くじらは困ったように眉をひそめた。


「確かにそう呼ばれてはいます……とにかく、人を探しているんです。リオジアというねずみの獣人で、青い上着を羽織り、麻のシャツと黒いズボンを身につけているんです」

「悪いですが知りませんね」

「では、エターシアとクレムといううさぎを知らないでしょうか。八百屋を営んでいるというのですが」


 鹿の獣人は、申し訳なさそうに首を振った。


「分からんです……俺は職人なもんで、商人に聞いたほうがわかると思いまっせ。良かったら手伝わせてください。魔王を倒すためなら、何でもいたしますよ」


 くじらは、少し困惑したようすだったが、彼の申し出を受け入れた。人捜しをするなら、人数がいたほうが楽に決まっている。


「誰か一人がここに残って、報告を待って、残りは町を動いて探すっていうのはどう?」


 私の提案に、くじらがうなずく。


「それが一番妥当でしょうね。じゃあ、ご主人様がここに残ってください。えーと、鹿の獣人さんは、僕たちと一緒に人捜しを手伝ってくれますか」

「もちろんですよ、とりあえず、ここにいる奴らに聞いてみます。俺の名前はジュオ」

「俺たちも分担して、聞いて回ろう。太陽が真上に上ったら、情報がなくても一度集合だ」


 クローノスとナウヌ、くじらがそれぞれ分かれて町中を回り、ここでは鹿の獣人が聞いてくれることになった。


 焦げた建物の前で、手持ち無沙汰に立ちつくすのが、私の役目になってしまった。これほど暇な役目もない。頭では、足の速いナウヌやくじら、空を飛べるクローノスに、土地勘のあるジュオさんが聞いてくれるのが一番やりやすいのは分かっている。しかし、暇なのはどうしようもないのだ。


 太陽の動くのがやけに遅い。つまらない。かといって、ここを動くわけにもいかず、無為な時間が過ぎていく。


 と、そのときだった。


「見つかりました! 八百屋のエターシアとクレムです」


 ナウヌが二人のうさ耳をはやした男女を連れて顔を見せた。


「おー、よかった。じゃあもしくじらとかクローノスさんとかに会ったら、二人は見つかったって言っといて」


 ナウヌにそうお願いする。彼女はうなずくと、きびすを返した。


「あー、えっと、エターシアです」

「クレムです。何のご用ですか?」


 ナウヌは用向きを話していなかったらしい。二人にとっては、さぞいい迷惑だったに違いない。


「あのですね、リオジアというねずみの獣人男性を知りませんか。一昨昨日に、お二人の店にやってきたのかもしれない人なんですが」


 二人は顔を見合わせる。


「リオジアさんって、ああ、ウェリオで宿屋を経営している人ですよね?」

「仕入れに来る、と言っていて、こちらでも準備をしていたんですが、結局約束の時間になっても来ませんでしたよ」


 肩を落とす。でも、収穫には違いない。アールクタスに来る途中で、何かが起こったのは分かったのだから。


「すいません、ありがとうございます。お昼になったら、もう一度来てくれませんか」


 クローノスやくじらならば、有用な情報を持ち帰ってくれるかもしれない。場合によっては、この二人がまた必要になるかもしれない。


「分かりました。見つかるといいですね」

「また来ます」


 二人が去って行く。私はジュオに会って、エターシアとクレムが見つかったことを知らせないといけない。そう思っていたら、彼がこちらに顔を出してくれた。


「どうです? 何か分かりましたか」

「エターシアとクレムが見つかりました。アールクタスとウェリオを結ぶ街道で、リオジアの身に何かが起こった可能性が高いです。それを念頭に置いて、探してください」


 そう伝えると、ジュオは無言でうなずき、また建物の中に入っていった。


 昼になり、みんなが集まってくる。エターシアとクレムもその中にいた。


「ナウヌのおかげで、エターシアさんとクレムさんが見つかったの。そっちはどうだった?」


 くじらとクローノスにたずねる。


「やっぱり、街道で魔王軍に襲われたようです。目撃者がいました」


 くじらがそう言って、後ろにいた少年に発言を譲る。


「僕、朝に、よく似た感じの人が、魔王軍に連れ去られるのを見ました。アールクタスからウェリオに行こうとしていたら、反対側から魔王軍がやってきたんです。すれ違った大人の男の人が、僕に茂みに隠れるよう言って、自分は隠れずに魔王軍に立ち向かったんです。殺されはしなくて、そのまま捕虜として連れ去られたんだと思います。その男の人は、空の背負いかごを持っていて、青い上着を着ていました」


 かなり有用な情報だ。クローノスが、エターシアとクレムに確認する。


「リオジアは、店には来なかったんですね?」

「ええ、昼前に来るようお願いしていたんですが、日が暮れてもやってこなかったんです」

「なら、つじつまが合います。二人ともありがとうございました。お騒がせして申し訳ないです」

「勇者様のお役に立てて幸いです」

「同じくです。それでは失礼します。また何かあったら、僕たちのいた建物に来てください」


 そういって、二人は去って行った。続いて、目撃した少年も礼をして戻っていく。


「シレルオに行くべきだと思います。アールクタスには確かめた限りいなかったんですよね? 魔王軍の捕虜となったなら、それと一緒に行動していると考えるのが自然でしょう」


 ナウヌの言葉に、みんながうなずく。


「そうだな、それが一番だ。一旦ウェリオに戻って、結果を二人に告げて、シレルオに向かおう」


 くじらが賛同し、クローノスもうなずく。というわけで、ウェリオに戻ることとなった。



 宿に戻ると、待ちきれないと言った様子でアズとサミが結果をたずねる。得られた情報を教えると、涙を流し、私たちに繰り返し礼を述べてくれた。


「これから、魔王軍のいるシレルオに向かいます。アズさん、サミ、今回もお世話になりました」


 クローノスがそう言うと、二人は、


「とんでもないです。こちらこそお世話になりました」


 と恐縮する。名残を惜しみつつ、ウェリオを出た。二人に手を振り、街道を進む。シレルオへの道は遠い。結局、クローノスの力を借り、シレルオの近くまで飛んでもらうことになった。


「さあ、着きましたよ」


 驚くべきことに、シレルオには活気があり、人々が盛んに行き交っている様子が上空から見て取れた。


 首をかしげる。魔王軍が来ていないということはないはずなのに、これだけ被害がないなど、信じられない。


「待て、おまえらはここを通せない」


 羊の門番が、村へ入る道を閉ざした。


「えっ……?」


 他の旅人は、何も言われずに、シレルオへと入っている。私たちが止められるとは思わなかった。そっとくじらが耳元でささやく。


「どうやら、魔王はこの村の人心を掌握しているようです。それならば、私たちは悪者に仕立て上げられていることでしょう」


 しかし、私たちは、エムア、クレイラノ、アールクタスの被害をこの目で見てきた。魔王と対決しないわけにはいかない。思わぬ足止めをくらったが、くじらの決意は固かった。


「何としてでも、中に入ります。村人の目を覚まさなければ」


 門番から離れ、諦めたふりをする。忍び込む方法を考えなくてはならなかった。

読んでいただきありがとうございました。評価等、お待ちしております。

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