屋敷での出来事④
流石は武器庫というだけあり、その貯蔵量に関しては素晴らしいの一言に尽きた。
……その中で自分が使えるものがあるかどうかは別として。
壁面にはあらゆる種類の武器が掛けられていた。
長剣、短剣、槍、斧、メイス、弓矢、盾。
こう見れば選び放題のように思えるが、実際手に持ってみるとどれもこれも重くて全く扱えそうになかった。
一振りするだけで息が切れてしまう。
それは至極当然といえばそうだろう。
なんの訓練もしていない一般人がいきなり武器なんていきなり扱えるものじゃない。
辛うじて何度か振れたのは、ナイフほどの大きさの短剣のみ。あとは小さな円形の盾があったので、それだけを有り難く使わせてもらう。ないよりかはマシだ。
一方防具に関しては非常に重たい甲冑ばかりで着ても歩くことだけで精一杯だった。
一度こければ自力で起き上がれないだろう……。
「えー、かっこ悪いよー。もっと大きい武器使おうよ! これとかさ!」
そう言ってルーは奥の壁に立て掛けてあったハルバートを担いでゆらゆらと危なっかしくこっちに近づいてくる。
「いや、無理だって。ロングソードですら重くて使えなかったのにそんな高難易度そうなもの」
ルーが脱ぎ散らかしたままの甲冑に躓く。
「あっ……!」
ルーが小さな悲鳴をあげ、ハルバートと共に倒れ込んでくる。
持っていた短剣を投げ捨て、倒れかけていたルーの体を受け止めた。
手から離れたハルバートは大きな金属音を立てて落ちる。
「まったく、だから言ったろ。重すぎるって」
体全体を使ってルーを受け止め、自分がクッションになる形で倒れ込んだので必然と顔が近くなる。
いたずらっぽくルーは微笑んで、お互いの唇が触れた。
「……は?」
俺のファーストキスが。え? こんなお子ちゃまに?
「いやいや、まて何してんだ」
「今のと昨日のお礼だけど!」
なんでだ。確かに昨日の晩飯はお礼とは言っていなかったが……。
「とりあえず降りてくれ重いから」
実際は重いなんて事は全く無く、むしろ軽いくらいだったが、押し倒されている状態のままは何かまずい気がしたので、そうルーに告げた。
「やだよ?」
「そういう我儘は今はいいから。ほら」
そう促すが、全く立ち上がってくれる気配は無い。
むしろ先程より更に身体が密着してきている気さえする。
「ずっと見られてたからねさっきまで」
そういえば、シエロがさっき監視役が交代とかどうたら言っていた。
しかし、それが今のこの状況となんの関係があるのか。
ルーが耳元で囁く。
「シエロが言ってたでしょ? 監視役が私になったって。今は誰からも見られてないよ?」
甘く、こそばゆい呼気が耳にかかる。心拍が跳ね上がり、顔が上気しているのが自分でもわかる。
ルーも頰を赤らめていて前屈みになっていて服の隙間から、その控えめな……。
いや、まて。この状況は非常にまずい。
とりあえずルーの脇を持ち上げてひょいとどかせた。
「あれー! なんでー?」
素っ頓狂な声が上がる。
「いきなりどうした!? 頭でも打ったか?」
ルーの突然の豹変ぶりに驚いてしまったが、今はいつも通りに戻っている。
「だってドーレがこうすればもっと仲良くなれるって言ってたよ!」
あの無愛想メイドの入れ知恵か。成る程、何かおかしいと思った。
「そのやり方は仲良くなるを通り越してしまうから……。ドーレに騙されてるぞ」
「えー。これはチャンスだと思ったんだけどなー」
ルーはまだ不服げに何か言っている。
正直言って危なかった。あのままだと流れるところまで流れてしまう所だ。
ドーレには後で話をしないといけない。
「と、とりあえず武器はこの短剣と盾でいいが、防具がないとな! 街に買いに行こうか!」
なんとか話題をそらそうと声を発する。
「うん! そうしよっか! ……でもハゼム死なないのに盾とか防具なんているの?」
「死なないでも痛いものは痛いって」
話題は逸れたのは逸れたが、さらりと酷いことを言われる。
「それにダメージ受けて行動不能にでもなったら助っ人さん達の足引っ張るだろ」
ルーは納得したのかしてないのか手をポンと叩く。
「そうならないようにわたしが敵を片っ端から殺せばいいんだ!」
「それじゃあ修行にならないだろ」
今回のダンジョン探索の目的を全く理解していないルーには頭が痛くなるばかりだった。