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屋敷での出来事③



その後、ミーナはゲドラニスと話があると言って出て行ってしまったので、自室に戻る事にした。

ルーは既に起きていたが、特に何をするでもなく窓の縁に腰掛けて外をぼんやりと眺めていた。


「おはよう。起きてたのか」


今日も良く晴れていて空は高い。ここからだと街の全景がよく見える。

ルーは声に反応して振り返る。


「おはよーハゼム!」


元気の良い挨拶をし、窓の縁からひょいと降りてこちらに駆け寄ってくる。

その勢いのまま腹に突進するように抱きついてきた。というか頭が腹にめり込んだ。


「ふんヌぅ……!」


変な声が出る。

街に出てからというもの最初に思いっきり嫌われていた反動なのか、今度はやたらと懐かれている気がする。少し咳き込んだ。


「昨日の飯は本当に美味かったよ」


昨日の夜もルーは幻滅するどころか逆に心配までして料理まで振舞ってくれた。

……それにしてもあの料理は絶品だったと言わざるを得なかった。

あの毒々しい物体を調理場に持って行った時に中庭でシエロが首を傾げた理由が今なら分かる。


「実は結構料理には自信あるんだよ!見直した?」


抱きついた状態でさらに頭をぐりぐりと動かされる。


「ああ、見直したよ。またアレを出されたらどうしようかと思った」


ルーは照れるようにほっぺをかく。


「ちょっとあの時は取り乱してたよ、もうあんな事はしないから安心してね!」


「ホントっすよ。あたしがお嬢を呼びに行かなかったらどうなってた事やら」


いつのまにかシエロが部屋に入ってきていた。

相変わらずその金髪のひと束が跳ねている。大方こいつもさっきまで寝てたのだろう。

やれやれと肩をすぼめている。


「シエロだ! おはよー!」


ルーがシエロにも突進を食らわせようとする。

それをひらりとかわし、腕を支点にぐるりと方向転換させてルーを再びこちらに投げ返してきた。


「ふんヌぅ……!」


腹に再び重い衝撃が走る。

本日二発目の頭突きをくらってしまった。完全に油断してた。

何が楽しいのかルーはケラケラと笑っている。


「そうそう、お嬢から伝言で、とりあえず街のチンピラにすらやられるハゼムは弱すぎるから明日からは修行としてダンジョンに行ってきてー。って言ってたっす」


そしてなぜか昨日のことが筒抜けだ。

抱きついている状態のままのルーをちらりと見るが、「ちがうよー」と首を振っている。


「あ、昨日の一件はあたしが報告したっすよ」


一体どこで見ていたんだ。辺りには隠れるような場所は無かったのに。

その辺りを問い詰めても身にはならないので、話を戻す。


「ダンジョンって、ミーナが言ってた他のグリモアがあるって場所か?」


シエロは部屋に備え付けられている鏡を前に寝癖を手櫛で直そうと奮闘している。


「詳しい事は分かんないっすけど、とりあえず助っ人もいるからって言ってたっす」


流石に一人でダンジョンとやらにほっぽり出される事はないらしい。

一方、シエロの寝癖は全く直る気配はない。今は手で髪を押さえていた。


「私もついて行っていい?」


ルーが小首を傾げて聞いてきた。


「流石に危険だろ。俺は死なないからなんとかなるだろうけど。それに昨日も仕事をすっぽかして街に行ったのに、怒られるんじゃないか?」


そうなだめるように頭をポンポンと叩く。

ルーは少し残念そうな顔をした。


「それも聞いたけど別にいいみたいっすよ」


「いいそうだ」


割とすんなりと許可がおりていた。大丈夫なのかこの屋敷は。


「やった!」


ルーは抱きついた状態のまま小さく飛び跳ねた。


「まあ、なんというかルーと交代らしいんで、逃げ出さないように見張っとく監視役」


監視なんかしてたのか。

しかし、今のところ逃げ出す理由もないし、ここを逃げ出した所でどこにも行くあてもないので、それは杞憂だろうと思う。仰々しすぎる。


「そもそもそのダンジョンってどんな所なんだ? 敵とか出たりするのか?」


ミーナがちらりと話に出しただけなので、詳細は全くわからない。

創作の話ではモンスターがいたり、財宝があったりするものだが。


「もちろん魔物はいるっすけど、なんか詳しくは忙しいから明日助っ人さん達に聞いてって言ってたっすよ」


恐らくゲドラニスとギルメブラケーキの件で込み入った話をしているのだろう。


「とりあえず装備を整えるのが定石かな……」


敵が出るなら手ぶらで行くわけにもいかない。


「それだったら武器庫があるよ!」


ルーが声を上げて部屋の出入り口まで走っていく。

そういえばミーナがこの屋敷にある物は全て使っていいと言っていた。


「見に行ってみるか。何か俺でも扱える物もあるかもしれないし」


「それがいいっすね」


シエロは頭から手を離したが、寝癖はしっかりと付いたままだった。



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