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屋敷での出来事

どうやらあの後またたらふく食べてそのまま寝てしまっていたらしい。

朝起きた時に感じたのは胃もたれのような腹の重たさ。

ルーが最初に造ったものはただの毒薬四方固めだったようで、昨晩の料理は普通に美味しかった。

メイドとしてここで働いているだけはある。

腹をさすろうと手を動かして気づき、合点がいく。

ルーが腹を枕にして小さな寝息をたてながらよだれを垂らして眠りこけている。

こういう時は隣で寝てて顔が疎外に近くにあって驚くという展開がお約束なんじゃないかと思うが……。

幸せそうなルーの寝顔はまるで子猫のようで、起こすのが躊躇われた。

しかし、このままでは身動き一つとれない。

仕方なく軽くその寝顔をぺしぺしと叩く。


「おーい。朝だぞ起きろ」


煩そうに顔をしかめた後、向こう側を向いた後に再び寝息が聞こえた。

ダメだこれは。全く起きる気配がない。

仕方なくルーの頭を持ち上げて枕を差し込んだ後にそっとベッドを降りた。

とりあえず昨日は何もせずに寝てしまったので風呂に入りたい。

大きく伸びをすると背骨が小気味いい音を立てると共に大欠伸が出た。

カーテンは閉めたまま、ルーを起こさないように部屋を出る。

大浴場への道を思い出しながら廊下を歩いていく。

まだ朝は早く、辺りのひんやりとした新鮮な空気が肺に入ってきて心地いい。

小鳥がさえずっているのは中庭の方か。

誰も起きだしていないのか、自分の足音の他にそのさえずりはとても澄んで聞こえた。

無駄に広い脱衣所に入り、着ていた服を脱ぐ。

いくつかタオルや石鹸が備え付けてあるので、それを片手に取って大浴場への扉を開けた。

湯気がもうもうと立ち込めていて、前が見づらいが、とりあえず体を流そうと噴水状のシャワーへと近寄った。

……なんで湯が沸いてるんだ?


「あ」


先客がいた。

白い髪を流していたミーナがほぼ同時にこちらに気づく。

あどけなさが残る控えめな胸に透き通る白い肌。まだ所々に泡がついたままの肢体を水滴がゆらりと伝う。

熱い湯のせいなのかミーナは顔がみるみる赤くなっていく。


「お、おはよう。今日もいい天気だな」


天井で遮られ見えるはずもない空を仰ぐ。

もちろん、そんな事で誤魔化せる事ではなかった。


「で……」


その細い腕で身体を隠そうとするが、勿論肌の大部分は露出したままで、あまり意味をなしていない。

胸を隠した右手からパチパチと何か電気のようなものが迸っている。


「出て行けー!!」


怒鳴り声と共に放たれた電撃は一直線に胴体を貫き、心臓は動くのをやめた。





やはり、ここに来てからどうも死に直面する事が多すぎる。

今のところ一日に一回ペースだ。

一時的なショックだったので、数秒で回復したものの、明らかに人を死に至らしめる程の物をいきなり放つとは。

正直言ってミーナはヤバいどころか怖い。

先程のことは弁解は出来ないが。それでも程度というものがあるんじゃないか。

今は正座をさせられて永遠に出てくる罵倒の言葉を一身に受けている最中。

大きなタオルを身に巻いたミーナの真っ直ぐな髪からはまだ水滴が垂れていて床を濡らしている。


「意味わかんない。普通途中で気づかない? 魔力の探知もできないの? できないか。このポンコツ。死ねば?」


こうミーナが言うのはまだわかる。


「ハゼム様、正直ドン引きでございます。私が少しばかり目を離した隙にお嬢様が入浴されている密室へと良からぬ思いで侵入されるとは……」


隣で一緒になってゲドラニスもこちらを貶しているのは納得がいかない。

それに誤解だ。

決してやましい思いがあった訳ではない。

確かに浴場でミーナの肌を直に見たことは認めよう。

早起きは三文の得とはよく言ったものだと思ったことも認めよう。

着痩せするタイプなのか意外と胸もあるんだなと思ったことまでも認める。


「お嬢様にはざまあみろとの思いで胸がいっぱいでございます」


そう言ってゲドラニスは親指をこちらに立ててくる。

そうか、お前の策略か。


「は? じいやも正座する? 見張っとけって言ったよね?」


ミーナはゲドラニスに冷ややかな視線を送った。


「お嬢様が見事にお割りあそばされた壺ですが、誰が掃除したと?」


思わぬ反撃にミーナは言葉を詰まらせ、視線を泳がせる。


「……帰って来たらやろうと思ってたんだけど」


とぼけるように瞼をぱちぱちと瞬かせている。


「これまでそう言ってやらなかった回数をお嬢様はご存知ですか? 私はその内容とその回数まで事細やかに羅列する事ができますが?」


そのトドメの一撃を受けてミーナは観念したかのようにうなだれた。


「わかったわかった。なんかもういいや」


「お礼の言葉が聞こえませんな?」


「そんなもんこの件でチャラよ」


「左様で」


ゲドラニスは一歩下がる。

明らかに勝ち誇った顔だった。

一方のミーナは勢いを削がれ、先程までの烈火の怒りがある程度収まってきている。


「まあ、今回のことは百歩譲って許すよ。殆どこのくそじじいのせいだし」


「頭が残念なお嬢様が全ての元凶ですが、ハゼム様、何卒ご容赦くださいませ」


お互いに醜く責任をなすり付け合っているが、不思議と険悪な感じはしない。

恐らく二人はこの様なやり取りを何度も繰り返しているのだろう。

多分これは一種の儀式なのだ。

本当に信頼しているからこういう意味のない会話でそれを確認しあっているという事。


「ほんとくたばれじじい」


「ほほーう? お嬢様こそ今日のそんな態度でよろしいので?」


……そんな事もないかもしれない。


「あー、いいよ。 で、どうなるの?」


またやり取りが再開されたので足が痺れてきたので崩そう。


「本日のお嬢様のおやつはギルメブラの佃煮になります」


「ギルメブラって何」


「早速用意させておきましょう」


ゲドラニスが手を二度打ち鳴らす。


「だからギルメブラって何よ」


「今日のおやつでございます」


こうして何だかよくわからない佃煮が今日のミーナのおやつに決定したのだった。



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