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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第11章 大災厄テュポーン
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戦争準備

 鍛冶を司る神の持つ黄金の神殿。

 その中央には赤々と燃える炉がくべられ、鉄仮面に屈強な肉体を持つ男神ヘファイストスが一心不乱に金属をうちつけていた。

 その様子を黒髪を黒目の少年釧灘大和(くしなだやまと)と金髪碧眼の美丈夫、軍神アレスがじっと見ていた。

 二人の間の空気は険悪というほどでもないが、よそよそしいものだった。

 無理もない、先ほどまで殺し合っていたのだから。


「あー、何か、大丈夫なんですかね。なぜかテュポーンと戦うことになってますけど」

 大和は敬語でアレスに話しかける。

「ふむ、まあ何とかなるであろう。アレは五千年前に比べてさらに強大になっているのだろうが、こちらとてそれは同じだ」

「……ぶっちゃけテュポーンの能力も分からないんですが、蛇の姿をして目から炎をだすんですよね」

「ヤツの能力は炎と風だ。ただしそれは地球全域を覆うほどだがな」

 スケールの大きさにううむと唸る大和。

「そんな相手にほぼほぼノープランで挑むわけですか。いやになりますね」

「それでも、お前は赤羽陽美香を生かす道を選んだ。違うのか」

「うーむ。俺はまあ」


 大和は少し考えて、言葉を紡ぐ。

「あの黒髪の女の子いるじゃないですか。貴方が腹を貫いた女の子。そのことについては別に許してはいないんですけど」

「戦時だ。許せ」

 アレスの謝罪にもなってない言葉を一蹴する。

「許しません。まあ、あの子が赤羽陽美香が生きて、父親殺しをしない結末を望んだからというのが正直なところですね」

 大和の黒曜石の瞳には、赤い炎が映っている。

「なら、俺は全力であの子の望む結末を引き寄せてみせますよ」


 アレスはふむと顎をなでる。

「君はあれだな。重たい男だな。男が女に対してそこまで情念を向けるのは、よほどの美形でなければ許されんぞ」

 発言に刺さった大和はうつむく。

「だが、まあ悪くはない。この時代のことを考えれば、あっちにこっちにいく男よりはよっぽどな」

 古代ギリシャの神々は浮気不倫多重婚、ありふれた世界だった。

 その神々から見て、大和の一途で純真な有様はとても不可思議で、だからこそ興味深かった。


「まあ、俺もヘファイストスも、あまり人のことは言えんがな。アフロディテのこともある」

 ヘファイストスとアフロディテはもともと夫婦であったが不仲であった。

 不仲なのは半ば成り行きで結婚したからというのもあるが、そんなアフロディテが夢中になったのがアレスだった。

 二人の情事の最中にヘファイストスは透明な網でしばりあげ、神々の衆目に晒したと言われる。


 そんなエピソードがあるにも関わらず、二神の仲はそんなに悪くなさそうだ。

「アレはまあそういう生き物だからな。真面目にかかわるのが阿呆なのだ。五千年経てばそれ位わかる」

「違いない。……できたぞ」

 アレスの結論に同意したように、ヘファイストスは大和に完成した作品を渡す。

 それは青銅のような素材でできた、一本の槍であった。

 全て金属でできた槍は長さ百五十センチほど。

 神がその全霊で作ったにしては、いやそれでなくてもあまりにも何も感じない槍であった。

 まるでそこだけぽっかりと世界に穴が開いたようにすら感じる。


「この槍に、気炎をこめてみろ」

 ヘファイストスの言葉に頷いた大和は柄を握る。

 彼の放つ黒い炎が瞬く間に槍に吸収されていく。

 力が吸い取られている、いや、引き出されているのだ。

 槍は闇に染まったように色を変え、光を全て吸い込むような真っ黒な色になり、(おぞ)ましい死の気配を放つ。


「名付けろ」

 ヘファイストスが大和に言う

「それは貴様が完成させた貴様の権能だ。ゆえに貴様が名付けるべきだ」

「そうだな。テュポーンを殺す槍が無銘(むめい)では格好がつくまい」

 二神に言われ、大和は直観的にこう名付けた。

「……閻魔(ヤマ)。この槍は閻魔」

 大和は魅入られたように槍の穂先を見つめる。

 さらにヘファイストスから革の装具を貰いみにつける。

 すると閻魔を背中に背負えるようになった。

「これで後は貴様がテュポーンの内部に侵入し心臓を貫くだけだ」


 アレスが言った何気ない言葉に、大和は首を傾げる。

「内部って、巨大ロボットか何かなんですか?」

「似たようなものだな。奴は巨大な外殻に覆われていて、中は複雑な迷宮のようになっている」

「我々が神体となり、奴を防ぐ。お前と井上勇美は内部に入りテュポーン本体を叩け」

「よくわかんないけど、了解しました」

 大和は首を捻りながらも、槍を構え、突く。

 

 風が神殿内を軋ませるほどの凄絶な一撃。

 ヘファイストスは頷くと、さらに作業を続けた。

 アレス、いやマルスもまた十二時間の間に、神気を充足させることを選んだ。

 生来寡黙な三人は黙々とできることを探す。



 オリンポス十二の神アテナとアルテミスは井上勇美を質問責めにしていた。

「で、あの少年とは付き合っているのですか?」

「どちらから告白したんだ?」

「……別に付き合ってるわけでは」

 百七十センチ強の長身、黒髪のウルフヘアの少女は頬をかく。

「何だ勿体ない、優良物件ではないか。強く美しく逞しい。何より一途だ」


 アルテミスは自身を打ち負かした少年を気に入っているようだった。

「そうですね。我々は処女神ですが、伴侶とするならああいう男がいいでしょう。ポセイドンやアポロンのようなのには引っ掛かってはいけませんよ」

「女をトロフィーか何かのように扱うようなのが多すぎるからな。アフロディテがあの性格になるのも頷ける」


「……そういうのいいから、作戦会議しましょうよ」

 勇美は憮然とそう言うが、女神のおしゃべりはまだまだ続きそうだ。

「何だ、恋仲というわけではないのか。奥手な男だな、俺はどうだ」

 十四歳の少女に言い寄る双子の兄をアルテミスは射かける。

 太陽神の額に矢が突き刺さった。

「……こういうことしてる場合なのかなあ」


 勇美は大和を思い、ため息をついた。

 コホンとアテナは咳払いする。

「冗談はさておき、陽美香様の親友である貴女には、話しておきたかったのです。

 我らが友、赤羽緋沙奈について」

 女神の真剣な様子に、耳を傾ける勇美。

「彼女と貴女は同型です。参考になるでしょう」

「同型?」

 勇美の問いにアテナは頷いた。



 テュポーン復活まで残り九時間。




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