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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第11章 大災厄テュポーン
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戦争会議

 オケアノスの海に取り残されたポセイドンは気づくと真オリンポスの神殿にいた。

 石造りの神殿は無限の距離を持つように続いている。

 麗しい少女の形をした女神、ヘスティアはポセイドンを手招きする。

 褐色の髪と髭をかきながら、男神は女神についていく。


「弟は負けたのか。やはり情は捨てきれなかったか」

「そうでもない。陽美香(ヒミカ)は強かった。それだけ」

「ふむ確かに、あの三人も強かった。まさか雁首揃えて負けるとはな」

「皆なまりすぎ。パンクラチオンを怠る。だから足元すくわれる」

「厳しいなあ姉上は」


 自身の臀部を触ろうとする手を軽く躱しつつ、ヘスティアは案内する。

 炉が赤く燃えている。

 あの黒い少年と紫の少女は肩身が狭そうにしている。

 先ほどとは様子の全く異なる、ある種神的な魅力を持つ少年がギターケースを背に茫洋と座っている。


 鉄仮面をつけ、黙して佇む鍛冶神ヘファイストス。

 刀傷を抑えながら黒い少年を睨む美丈夫アレス。

 そんなアレスにしなだれかかる金髪碧眼の麗しき女神アフロディテ。

 静謐な顔で真面目に姿勢正しく座りながらも、頬の打撲が痛々しいアテナ。

 

 太陽の如き輝く長髪を持ちながら、茫洋と座る少年を複雑な表情で見つめるのはアポロン。

 男のような短髪ながら、アポロンに似た顔立ちのアルテミスはきょろきょろと辺りを見回す。

 皆の様子をクスクスと笑いながら、輝く星の瞳を細めて笑うのはヘルメス。

 

 そして、そんなヘルメスを苛立たし気に睨むのは、金髪のウェーブがかかった髪を一つにまとめた、古代ギリシャ風の装束に身を包む少女。

 赤羽陽美香。


 最後に、ポセイドンはその少年を見る。

 白磁の肌に白髪が肩口まで伸びた、世界の全てに愛されたような美貌を持つ少年を。

「随分可愛らしい姿になったな、弟よ」

「黙れ兄上」

 白い少年は不快そうに瞼をふせた。


 全員が鍋を囲い、ヘスティアの手により麦粥がふるまわれる。

 傷を癒し、とりあえず、空気を和ますために。

「ヘラは?」

「沐浴中です。いやあ、ヘスティアさまの粥を食えぬほどの消耗ぶりですので、致し方ありません」

「そうか、こっぴどくやったようだな。神王殿下」

「お話が早くて助かりますわ、伯父上」

 陽美香がにこりと笑いながら口を拭う。


「で、ゼウスがまだ生きているということは、我らはテュポーンと一戦構えるということでよろしいかな」

「いいえ、ポセイドン。私達はあれを殺す。禍根は未来に残すべきではない」

 ヘスティアが意志のしっかりした声で言う。

 陽美香もまた頷く。

「ゼウスを殺せば私が封印を引き継げるのは知ってるわ。でも一身上の都合でできないの。

 だから世界の命運を賭けることになるわけだけど、テュポーンを復活させて殺します」


 新しい神王の小気味のいい断言に、ポセイドンは上機嫌になる。

「なるほど異議はない。どのみち、あれの力は年々巨大になっている。いずれ復活するわけだしな」

「そうなんですか?」

 いち早く麦粥を平らげた黒髪の少年、釧灘大和は言葉を発する。

「ああ、ヤツの力は年々強大になり父上の封印を解かんばかりになっていた。

 実は15年前に復活させて殺すつもりだったのだがな」

 アレスは傷も癒えてうっぷんも収まったのか、それなりに友好的に大和に接する。

「人間達の、ほれ神殺しの協会だかがそれだけはやめろとぬかしおってな。まあ現状維持を望むやつはいつの世もいることだ」

「そして、ゼウスが緋沙那に手を出し、ご破算になった。人間達と我々神々の友好もなくなった」

 ポセイドンとヘスティアが言葉を繋ぐ。


 大和は横目で白い少年、ゼウスを見つめる。

 少年ゼウスは悪びれる様子もなく座っている。

「おい、アポロン。テュポーンの封印はいつ解ける」

「およそ十二時間後にシチリア島をひっくり返して現れる」

「それでひとまずシチリア島の人たちをこの神殿にアフロディテの力で誘導する。その後、現れたテュポーンをオリンポスに閉じ込める」

「私を崇めろお前らー」

 美神が肌を露わにするのを無視する一同。


「その場で戦えば、ヨーロッパの神殺しがやってくるんじゃないの?」

 勇美の問いに、首を振る神々。

「もしそうすると、テュポーンが消滅した時に発生する神気で世界中が異界になってしまう。オリンポスなら防げる」

「ついでに言うと、神殺しや神の数が多くてもダメだ。あまり戦闘の規模を大きくすると神界がもたない。

 今ここにいる全員が、オリンポスというフィールドの持つ限界だ」

「爆弾のぶつけ合いで地盤が陥没するようなものか」

 ヘスティアとポセイドンの説明を大和が咀嚼する。

「神殺しの援軍を頼む訳にはいかないのか」

「俺らだけで何とかするしかないと」

「まあ、神界の別の勢力に宛てが無いわけではないが、十二時間では厳しいな」

 少年少女の問いに、ポセイドンは答えると椀を置く。


「そもそも、テュポーンをどう殺すのですか。あれの不死性は折り紙つきですよ」

「そこは大丈夫だアテナ。そこの、大和だったか。死の権能を持っている。コントロールできれば問題あるまい」

 アレスの太鼓判に意外そうに眉を上げるアテナ。

「理知的なアレスもかっこいい~~」

 アフロディテが猫なで声をあげるも無視する一同。

 

「……この方針で、我々はウン千年と生きてる不良債権を処理しようというわけだけど、ご意見誹謗中傷ある人?」

 総員は特にないという風に沈黙で返す。

 結局のところ、オリンポス十二柱神は戦争してばかりの神だ。

 最終的には戦う結論に達する。


「さて、クシヤマ。あんたはヘファイストスとアレスと一緒に行って、戦力強化にあたって頂戴。

 何かあんたのためにできることがあるみたいよ?」

 大和は興味深そうに二人の神を見つめる。

「イサミンはアテナとアルテミスと一緒に戦地の下見に行ってくれる?」

「了解。神王殿下」

「いっけー大統領」

 勇美と陽美香が冗談を言い合いながらしばし笑い合う。


「で、他の神様に聞きたいんだけど」

 陽美香はそう言って、風雅を指さす。

「風雅くんどうしちゃったの」

 陽美香の問いにヘスティアが答える。

「この子は神に近づきすぎた。人格が壊れかかってる」

「まあ、僕が焚きつけすぎちゃったかな」

 ヘルメスはさして悪びれてなさそうだ。

 怒りを抑え、さらに問う。

「どうすればいいの?」


 ヘスティアとヘルメスが顔を見合わせる。

「まあ、簡単な方法が一つありますが」

「神気を吸い取ればいい。ゼウスから神気を抜いた要領で十分」

「あ、そうなの」

「ただ、あまり抜き取りすぎると神界に適応できなくなる。慎重に取り出して」

「わかった。了解です。ところで」


 ヘスティアを手招きし、ひそひそと話す。

「あのポセイドンって人とアポロンって人、何かすっごいゼウスのことジロジロみてるんだけど。何かあるの?

 私組織のそういうトラブルは何とかしたい新社長なんだけど」

 新神王の疑問に女神は納得したようだ。

「ああ、それは大丈夫。あの二人は美少年と美少女に劣情を覚えるのが仕事みたいな生物。

 私も狙われたし、きっと貴女も狙われる」

 陽美香は冷たい目でポセイドンとアポロンを見る。


「おいアポロン。今新神王の好感度が下がった」

「いえいえ、まだまだこっからですよ。マイナスから始まる何かもあります」

 ゼウスが青白い雷を放ち、二人の股間に収束する。

 転げまわる二神。

「おーい! ゼウス! 男としてそれはダメだろ!」

「何故です! 何故です父上ー!!」

「貴様らが先ほどから向ける、私と陽美香の尻への視線が不快だった」

「それは冤罪とも、言い難い」

「父上だって人のこと言えないじゃないですか!」

 焦げ臭いたにおいを無視しながら、神と神殺しは三々五々散っていった。

これより大災厄テュポーン編開幕です。


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