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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第10章 オリンポス十二柱神
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神々の王

 神々の王は神妃の顔面が陥没する様を無感情で見ていた。

 井上勇美の背中に汗が一滴たれる。

 全く隙がなく、何より自分の伴侶が倒されたというのに動じないその精神性ゆえに。

 彼女の胸中に渦巻くのは、怯えであった。

 かれこれ一分弱睨み合っているが、全く踏み込めない。


「どいてて、イサミン」

 勇美の肩に陽美香の手が置かれる。

「こいつは、私が倒さなきゃならないみたいだから」

「陽美香……」

 金髪のウェーブがかかった髪がいまでは乱れ、血まみれで凄絶な有様である。

 それでもその姿は、美しい。

 戦女神のような威風に勇美も思わずたじろぐ。


「ありがとう。来てくれて嬉しかった。

 風雅くんにも伝えておいて。ついでにクシヤマも」

「……自分で伝えなよ」

「あはは、そうするわ」

 陽美香はしばし勇美と笑い合い、落ち着いた様子でゼウスに向きなおる。


「どちらかが死ぬしか、本当に道はないのね」

「ああ、ない。どちらかが死に、テュポーンの封印を継がねばならない。

 互いに力を折半しあった今のままでは、いずれ封印は解かれるだろう」

 陽美香は射殺さんばかりに神々の王を睨む。

「正直良く分かってないけど、『はいそうですか』とは死ねないわよ」

「だろうな。当然の筋だ」

 そう言いつつ、ゼウスは古代ギリシャ風の装束を跳ねのける。

 白髪と髭に似合わぬ、屈強な肉体が露わになる。

 大理石をそのまま切り出したような筋肉に青白い雷が纏われる。


 陽美香は呼吸を整えた。

 独特な風の音が辺りに響き渡る。

 その身に、赤い雷が身に纏われる。

 

 雷というのは基本は青白く見えるものだが、積乱雲の上層ではレッドスプライトと言われる赤い放電現象が稀にみられる。

 ケラウノスVSケラウノス。

 神雷VS神雷。


「母を苦しめた報い、受けてもらう」

「受けさせてくれ、私を罰してみせろ! 緋沙那の娘よ!」

 十二分に威力を増大させた電圧が双方から放たれ、中心部分ではじけ飛ぶ。

 エネルギーは陽美香とゼウス双方を吹き飛ばし、石造りの神殿を突き抜けた。


 紫炎で攻撃を防いだ井上勇美は二人を見失った。

 だが、上空で何か二つの大きな力がぶつかり合っているのを感じ、外に飛び出す。

 そこにあったのは入道雲というにもあまりに大きい。

 世界の大地となった巨人のような大きさの雷雲であった。

 何層何十層になっているのか想像もつかないほど、それが二対。

 

 鼓膜を破壊し尽くさんばかりの轟音が世界全体を薙いでいくようだった。

 青い雷と赤い雷が互いに共鳴しあい、ぶつかり合う。

 その中を二つの人影が宙を自在に浮かび上がりながら激突する。


 雲が激突のたびに変形し、青空が見え隠れする。

 陽美香の叫びが、世界中に響き渡る。

「ヒサナヒサナって! 私はワケがわかんないのよ! 十年前に死んだお母さんのことで何で私がこんな目にあわなきゃならないわけ!」

 雷撃を後方で爆ぜさせ急加速、全体重を乗せた右こぶしがゼウスの頬にあたり、雷鳴が響き渡る。


「お前にはすまないと、思っている!」

 ゼウスの左拳が振り下ろされるが、陽美香の腕が横を叩き防ぐ。

「思うだけじゃ意味ないでしょ!」

 平手打ちがゼウスの右頬を打つ。

 肉を叩く音が雷鳴に負けぬ音量で響き渡る。

 

「私の過ちが犯したこととはいえ、世界のためだ。消えてもらう!」

 ゼウスは怯むことなく両腕を握りしめ陽美香に叩きつける。

 地面に隕石のように墜落する少女。

 だが、すぐさま高高度に飛び上がり両足で蹴りつける。

「そんな勝手な話があるか! アンタが消えなさい!」


「私を倒せねば! テュポーンは封じきれぬぞ!」

 吹き飛ばされたゼウスの雷が形を変える。

 それは、黄金色に輝く巨大な鎌であった。

「テュポーンって何なのよ!? それを私が受け継げばいいの!?」

「我らが共にあることはできない! ヤツは雷鳴神が全霊をかけて封印する嵐そのものだ! あの災厄が復活すればやがて神界だけでなく人界をも滅ぼすだろう!」


 ゼウスは叫び、鎌を振り下ろす。

 斬撃が地割れの様に大地を裂いた。

 陽美香は雷撃を纏い体を回転させることで防いで見せた。

応心如水(おうしんにょすい)

 相手の動きが、次の思考が、鏡写しのように読める。

「だったら気軽に子ども生ませてんじゃないわよ!」

 肘撃ちがゼウスの鳩尾に叩き込まれる。

 娘から言われたその言葉に初めて王は動揺する。


「モノにしたかったんだ! あの女を! 例え許されなくても! 世界が滅びようとも!」

 ゼウスは泣きそうな顔で殴りかかる。

「この大馬鹿者が!!」

 陽美香の拳骨がゼウスに振り下ろされ、今度はゼウスが隕石の様に地面に叩きつけられる。


 被りを振り、起き上がるゼウス。

 だが、陽美香の追撃は止まらない。

 地面に降り立ち、喉元を手刀で貫こうとする。

 その手を掴むものがいる。


「イサミン! 何で!」

「殺すな、陽美香」

 勇美が落ち着かせるように言う。

「何でよ!? そうしないと、怪物が」

「それが本当にお前の望みか? 陽美香」

 勇美の紫炎を纏った瞳が金髪の少女を射抜く。


「今までアンタは戦っても殺しては来なかっただろ。本当に父親の死に耐えられるのか?」

「……こいつは、父親なんかじゃない」

 何かを振り切るように苦しげに陽美香は話す。

「そうだとしても、命だ。アンタは命を奪うのか」

 父殺しという(とが)を本当に背負えるか。勇美は陽美香に問う。


 勇美の問いに、陽美香の顔が思考に沈んでいく。

 ずっと、自分を見て頭を抱えていたゼウス。

 殺そうと思えば、いつでも殺せたはずだ。

 けれど自分は生きている。


「余計なことを言うな! 陽美香が戦わねば! 強くならなければ! 世界は!」

 ゼウスが黄金の鎌で勇美の首を狙う。

 陽美香が割って入ろうとするが、勇美は手で制する。

 鎌の刃は、勇美の喉元数センチほどで止まる。


「それはアンタの本当にしたいことか? 親子の初めてで最後が殺し合いなんて、私はゆるせない。

 神々の王、ゼウスよ。貴方が本当にしたいことはなんだ?」

 ゼウスが、勇美をまじまじと見つめる。

 誰かの姿が重なった。

「……母の面影を親友に求めたか。なるほどな」

 神王は何かに納得したように俯くと、黄金の鎌を捨てた。

 雷鳴が止み、ただの男として向き直る。


「テュポーンを倒すには、雷雲の力だけではない。大地を操る力が必要だ。そのために必要なのは神力だけではない。

 文字通り、全ての力が必要だ。その名の通り、全力(パンクラチオン)が」

 ゼウスは諭すように陽美香に教える。

 神々の王からその娘に、何かを伝えていく。

「力を知れ。筋はできている。相手の心を知るように、世界の心を知ろうとするのだ」

「世界の、心」

「人界、霊界、神界に分かたれようとも、全ては一つだった。

 肉体の力と術理が、精神の術理に作用する。

 人界の力こそが、神にも通じる力となる」

「人の力」


 まるで自転車の乗り方を教えるように一つ一つ、ゆっくりと教え込む。

 破壊し尽くされたオリンポスの大地からは考えられないほど、のどかな雰囲気だった。

「全てはもう、持っている。お前なら十分、この役目がつとまるだろう」

 そう言うと、最後にゼウスは距離を取り、構える。

「目を突くこと、股間を狙うこと、平手以外で殴ること、かみつくことは禁止だ。

 あとはもう、肉体で語らうのみ」

 ゼウスの体からは当初から考えれば極小の神聖しか感じない。

 だが、その佇まいに不安定な印象は一切ない。

「……結局最後はそれか。いいよ。電気バチバチって好みじゃないし」

 言って、陽美香は水地流の構えを取る。


 手が触れ合うような距離で攻防が始まる。

 速い。

 攻防のところどころで音速を越え、衝撃波が大地を吹き飛ばすが、勇美は立っていた。

 そして見届ける。

 

 どんどんゼウスの速度が劣り、陽美香の動きが速くなっている。

 違う、陽美香がどんどん吸収しているのだ。

 ゼウスの技を、権能をその身に刻んでいく。


 神々の王の掌底と少女の掌底が互いにぶつかり合う。

 ゼウスが弾かれ、膝をつく。

 誇らしげに陽美香を見上げ、少女は何かに気づいたように手を伸ばす。

 

 それより早く、力の奔流が陽美香を覆い尽くす。

「最後の警告だ。とどめをさせ」

「断るわ」

 ゼウスの問いに、陽美香は手を振る。

「私はテュポーンを倒す。そうすれば、貴方は死なないし、私も家に帰れる。違う?」

「それで世界が滅びることになってもか?」


 ()王の問いに、()()は返す。

「私の願いを聞いてくれるかしら? ()()()

「……とんでもない子どもを産んだものだ」

 そう言ってゼウスは、力の全てを失った。


 ヘルメスと風雅が最初に駆け付けた。

 続いて大和が。

 ヘスティアと捕まえられたはずのオリンポス十二柱神がぞくぞくと。

 神たちは膝をつき、少女にかしづく。

 その神たちの肩を一人一人叩く赤羽陽美香。


「テュポーンの対策を協議しましょう」

 少女の号令に、その場にいた全員が胸に手を当て敬礼した。


これにてオリンポス十二柱神編終了です。


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