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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第10章 オリンポス十二柱神
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加山一水

『山はそびえ立つが、そこに一水(いっすい)を加えることもできる』

 水地(みずち)流の最終奥義であり極意。

 自身を流れる水に見立てる技が多い水地流の中でも、その口伝は異質であった。

 師匠は言った、この言葉を思い出せば自分は水地流の極意に至れると。

 ならば信じて戦うのみ。

 

 マルスの放つ斬撃に黒い太刀をぶつける。

 地力に劣る大和(やまと)は吹き飛ばされ、その体は地面に叩きつけられる。


『力の相手に力で戦うな』

  

 師匠の教えが耳をよぎる。


 アレスの凄まじい、銀河を貫くような突きが空間を裂き大和を穿とうとする。


『円を描くように相手の勢いを削ぐの』


 陽美香(ひみか)の言葉が思い出される。

 黒い刀を円を描いて振るい、刀を掠め取ろうとする。


 巻き上げ。


 マルスの重心を崩そうと試みる。

 だが、崩れない。


 大和は距離を取り息を吐く。

 今の攻防で看破した。

 マルスは剣を振り回しているのであって、剣技を使っていない。


 神の持つ神気と腕力で剣を振る。

 それだけで天変地異の如き現象を引き出すことができる。

 まさに荒々しき戦神のなせる業。

 無形、ゆえに無敵。

 そうかもしれない。

 しかし、だからこそつけ入るすきがある。


 速く速く連続で攻撃を続ける。

 マルスの剣が受け止める衝撃だけで、大和の皮膚に血が滲み流血が足元を濡らす。

 だが、止まらない。

 

 瞬間アレスが下がった。

 次の大和の一撃が、アレスの胴体を出血させる。

「貴様がどれだけ早く反応しようが、それを逆手に取って絶対躱せない攻撃をすればいいだけだ。詰め将棋みたいにな。

 井上勇美(いのうえいさみ)を傷つけた報いを与えてやる! マルス!」

 その叫びにマルスは興味深げに首を傾げる。

「ふむ、お前さんら恋仲か。

 そう言う仲だろうが容易く引き裂かれるのが戦争だってことを教えてやろう」

 マルスの言葉に大和は否定を忘れさらに怒りを燃え上がらせる。

「教えて見せろ! 俺は井上勇美を傷つける全てを地獄に送ってやる! そう自分に誓ってるんだよ!」

 気勢を上げ神殺しは黒炎を練り上げる。

 

 集中、集中。


 黒い炎を練り上げ、全身をくまなく覆う。

 そうせねば余波だけで体が吹き飛んでしまうだろう。

 マルスとの戦いではそうせねばぶつかり合いに耐えられない。

 まだ、気炎を刀に集中するのはリスクが高い。


 ゆえにまずは全身を強化する。

 そして敵を攻撃する。

 先ほどマルスに吐き捨てた言葉とは裏腹に、大和は冷静ではあった。


 こいつを殺してやるという殺意に伴う冷静さであったが。

 技の連続でマルスの行動を削いでいく。

 また一太刀、マルスの腹部に切り傷ができる。

 

 しかし、遠い。

 大和が直接切りつけるダメージよりも、マルスの攻撃による余波で生じた出血の方がひどく大きく見える。

 呼吸が浅くなり、むせ返る血の臭いにおかしくなりそうになる。

 汗で体がじっとりとにじみ、砂がまとわりついて動きづらい。

 こんなところは人界と変わらぬのが鬱陶しい。


 だが、絶対に負けない。

 負けたら今度はこの戦神が勇美と風雅を殺しにいくだろう。

 それだけは絶対に防がなければならない。

 ゆえに大和は死ぬ気で刀を振るう。


 敵はまるでそびえ立つ山のようだ。

 そこに一水を加える。

 一水。

 水は山をなぞるように流れる。

 攻撃をなぞる。


 マルスの腕が出血した。

 どくどくと止めどなく、流れるそれに大和自身が「その傷どうしたんだ?」と尋ねそうになる。

 自分があれを成した。

 一体どうして。


 マルスがその冷静沈着な顔の眉を少し上げ、興味深げに見つめてくる。

「今の技。何だ」

 大和としては自分が知りたい位だった。

 けれど、これが師匠の言う極意に近いものだということは分かった。

 ならば、あとは理解するだけだ。

 

 今、攻撃を防がなかった。

 斬り落としとはまた違う。

 あれは攻撃をそらして防ぐが、そうではない。


 マルスが、決着をつけようとしている。

 烈断する一撃が束となって大和に襲い掛かる。

 遠距離攻撃で圧殺しに来た。

 黒炎を噴射しながら移動し、攻撃を避ける。

 だが、その間合いは離れることなく一定である。

 逃げているわけではない。


 山のように硬い相手でも、水はそれをなぞるように流れていく。

 攻撃しようとせずとも、それが自然の流れだからだ。

 

 釧灘大和は居合の構えを取る。

 黒い炎で鞘を錬成し、仕舞う。

 居合であった。

 居合とは本来、納刀した状態からいかに効率的に臨戦態勢に入るかという技術である。

 居合をしたからといって、抜刀したときより攻撃が早くなるということはない。

 

 それでもいい。

 リラックスした状態で相手の攻撃を待てるからだ。

 マルスは後方に飛びのいた。

 それは戦神の防衛本能が選んだ安全策。

 一キロ以上の距離を取り、極大の一撃が放たれる。

 

 その斬撃は今までで最も強大で、まるで星を一撃で割ろうとするような。

 砂嵐が晴れ、星屑が空を覆い、大地は火星のように真っ赤になった。

 戦神は一瞬たりとも、釧灘大和から視線を外さない。


 否、外していなかった。


 大和の一撃が戦神の腹部を突き刺していた。

 マルスは驚愕に目を見開き、大和を見据える。

 大和はただ凪いだ瞳で刀に力をこめていた。


 水地流極意 加山一水(かざんいっすい) 

 それ自体はただ単純な行動哲学である。

 相手の攻撃の軌道に合わせて攻撃を行うというもの。

 相手が攻撃をしてくる距離こそが最も近い軌道なのだ。


 山を流れる水のように軌道し攻撃する。

 ゆえに攻撃の軌道をなぞるように移動し、肉薄し、斬撃する。

 言うが易いか行うが難いか。

 相手の攻撃を正確に見切る度胸と、即攻撃に移す殺意がなければ絶対に不可能な荒業である。


 ゆえに極意。

 

 マルスは血を吐き、笑いかける。

「貴様、一歩間違えば、両断されていたぞ」

 笑いかけられ、大和はキョトンとした顔でマルスを見る。

「そんときは、そん時だろ? 何を言ってるんだ」

 大和の茫洋とした言葉に、マルスは一瞬呆気にとられ、苦々しく笑う。

「第一印象のとおり……イカれたガキだ」

 大和は刀を抜き、鞘に納める。

「良く言われるよ」

 そう言った後、疲れてへたりと座り込んだ。



 釧灘大和VS戦神マルス

 勝者、水地流“皆伝”釧灘大和。

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