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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第10章 オリンポス十二柱神
80/90

ギリシャ神話より発展したもの

 腹部の激痛に勇美は顔をしかめる。

 彼女を見下ろした軍神は無表情で呟いた。

「主要な内臓は無意識で避けたか。ふむ器用なことをする。カラテというのはそんなこともできるのか」

「うる……せえ!」

 怯むことなく、勇美は頭突きをアレスの顔面目掛けて敢行する。

 

 剣を勇美の腹部から抜き放ち、神は彼女の視界から消えた。

 その瞳は感情をうかがわせず、無機質な瞳で勇美を見ている。


 勇美は不気味に思った。

 廃工場で会ったときは、どちらかといえば残忍で粗野といった雰囲気の神だった。

 確かに自分の腹を躊躇なく刺したが、遊びなく殺しにかかる様は歴戦の戦士を思わせる。

 先ほどまでと人格がまるで違う。

 

 アレスの体がまたも消える。

 気づけばかの神は真上にいた。

 受けれないと直感し、横っ飛びで避ける。

 瞬間大地が裂け、天が割れ、砂嵐が一層ひどくなる。


 剣を振る。剣を振る。剣を振る。

 後ろに逃げても意味がない。

 体ごとさけるように軌道から逃れなければ、破壊と斬撃の渦に巻き込まれてしまう。

 勇美は紫炎を巻き上げ、遠距離攻撃する。

 だがアレスは微動だにしない。

 

 牽制にもならないか。

 だが、それでも愚直に続けるしかない。

 アレスはまた消えるような動きをする。

 

 単純に速い。

 神殺しの動体視力を持ってしても追いきれない。

 勇美の喉元に剣が突き立てられようとし、必死に逃げる。

 剣の軌跡が嵐となって勇美は吹き飛ばされる。


 呼吸を、タイミングを合わせようとする。

 だが、勇美の首を両断せんとアレスの剣が襲いかかり。

 

 空から飛来した黒い炎に受け止められた。 


「釧灘!」


 今まで絶体絶命の状況にあった勇美の顔に希望が満ちる。

 釧灘大和は視線を勇美に移し、目をみはる。

「井上! 血が!」

 大和はしばし茫然とし、駆け寄ろうとする。


「危ない!」

 勇美が言うが早いか、それとも大和の気配察知か。

 脇を通すように背中越しに刀を突きさし、アレスの動きを制する。

 

 勇美に風雅が近寄り、回復の護符を張り付ける。

 淡い光とともに傷が癒えていく。

「勇美ちゃん! 乗って!」 

 朱雀を展開し、大和とアレスから離れようとする。

 アレスはそれをさせじと剣を振り回し斬撃の嵐を発生させる。

 それを黒い刀で防ぐ大和。

 少年の表情は昆虫のように削げ落ち、目は輝きを失っている。

 

 釧灘大和は怒っていた。

 目の前にいる井上勇美を傷つけるモノを排除する。

 その一心で大和は構える。


「大和! そいつはマルスだ! アレスじゃない!」

 風雅の叫びが聞こえているのかいないのか。

「アレスはギリシャ神話では負けっぱなしで粗暴なだけの神だが! ギリシャ神話から時代が経ってローマ神話に移ると評価が逆転する!

 ローマ建国の神であり、戦に対し高潔な青年の理想像となるんだ!」

 大和の刀とマルスの剣がぶつかり合い、火花を散らす。

 その衝撃で天が割れ、大地はめくれ上がる。


 余波に吹き飛ばされながらも風雅は叫び続ける。

「そいつは神々の王ゼウスと神妃ヘラの息子! オリンポス十二柱神の正当後継者だ! 気をつけろ!」

「いいから行け! 時間が無いんだろ! 俺より神々の王と戦う二人が心配だよ!」

「そりゃもっともだ!」

 朱雀は飛び上がり、空を音の速さで駆けていく。


「時間が無いってどういうこと?」

「俺の結界が消えかけている! もともとオリンポス十二柱神相手に耐えられる性能ではなかったが、ヤツラとうとう本気になったらしい!」

「そう! なにかいいニュースないの!?」

「アルテミスとアポロン、アテナは倒した! デメテルは留守にしているらしいから、あと残ってるのはゼウスとヘラとヘルメスだけだ!」

「そういえばアテナはどうなった!」

「ヘスティアさまが回収しているはずだ! とっとと急ごう」

 斬撃の嵐を避けながら、朱雀は空を羽ばたいて彼方へ消えた。


 にらみ合う釧灘大和と軍神アレス、否マルス。

 動いたのはマルスであった。

 というよりも、彼は片手で剣を無造作に振り回しただけであった。

 それだけで、嵐が巻き起こり斬界(ざんかい)がオリンポスを覆い隠す。

 大和は黒刀を斬り放ち、その衝撃を弾こうとするも、防ぐことはできない。

 土が切り払われ足場がなくなっていく。

 

 ならば攻めきるのみ。

 大和は飛び込みマルスを横薙ぎに切り裂く。

 マルスはその剣をたやすく受け止める。


 光をも飲み込むような黒炎がふきあれマルスを襲う。

 だが、容易く弾かれる。

 弾かれた大和は一キロメートルほど吹き飛ばされ、受け身をとってマルスの方を向く。

 瞬間、赤熱した大地が視界に写る。

 マルスのあまりの速さに大地が、夜空に浮かぶ火星のように赤く輝いたのだ。


 絶望的なまでの、圧倒的な速度と力。

 それでも受けきれないなら攻めきるしかない。

 水地流の五始三行四終しかない。

 大和は黒刀でマルスの太ももを狙う。

 水地流(みずちりゅう)五始(ごし) 返り水

 刀を下段に構え近づき、太ももを斬り上げ相手の動きを封じる。


 だが、マルスは剣を下に構え防いでくる。

 そう、それでいい。

 水地流二行(にぎょう) 波紋

 横薙ぎの一撃が襲い掛かり、マルスは剣を構えて防ごうとする。

 ピタリと刀が止まり、マルスの眉が上がる。

 

 水地流一終(いっつい) 軌転(きてん)


 一回転した刀がマルスの首を刎ねんと襲いかかり。

 

 アレスの体当たりが大和の全身を痛打する。

 大和が血を噴きながら地面と平行に飛んでいった。


 黒炎を上げて踏ん張り地面が抉れ止まり、岩盤が隆起する。

 大和は鼻血や喀血を拭いマルスを見る。


 自分の最高の技が、見切られた。


「なるほど、連続攻撃か」

 神殺しの少年の肩が跳ねる。

「おそらく何個かの技の集合体だな。いくつかパターン化された組み合わせを作り最適化させている。

 そう少なくはあるまい、およそ50通りほどの連続攻撃。

 最適化された技により連続攻撃の精度を上げる。そんなところか」

 当たりだ。

 大和は戦慄する。

 まさか初見で看破されるとは。


 水地流五始三行四終は技単体で完成するものではない。

 重要なのはこれらの技が連携して相手に襲い掛かるものなのだ。

 技の継ぎ目はどの組み合わせを選んでも最小限になるように完成されており、状況に応じ五×三×四の六十通りの攻撃方法となるのだ。

 相手はただの連続攻撃ではなく、状況に最適化された三連撃を受けることとなり、必ず一太刀浴びせられる。

 だが。


「所詮それは人間の反応速度が前提にある話。

 軍神である俺の反射神経には敵わなかったようだな」

 マルスはいっそ気の毒そうに大和を見る。

「残念だったな。所詮は対人技。神たる俺には到底及ばん。せめて一太刀で殺してやろう」

 金髪碧眼の偉丈夫はそう言い放ち攻撃する。


 大和は上がった息でマルスを見る。


 強い。

 

 まるで大きな山のような強さだ。


(そのような所にも水は流れる)


 神界に乗り込む前に、師匠に言われた言葉が頭をよぎった。


 まだ終わっていない。

 大和は黒い刀を構え、マルスの喉元に向ける。


 ここで奥義をものにするしかない。

 神々の王に並ぶ最強の敵を相手に、力の限り戦う。

 井上勇美の願いを叶えるために。


 ものにしてやる。水地流奥義 加山一水(かざんいっすい)を。

 


 

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