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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第10章 オリンポス十二柱神
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大地が割れるほどに

 砂浜から少し離れた丘陵地帯にて。


 井上勇美は日本で最も才能ある神殺しだと言われる。

 その原因は彼女の防御力にある。

 大悪魔の攻撃だろうが神殺しの一撃だろうが、大して致命傷にはならぬほどに「揺らがない炎」。

 

 その井上勇美が、追い詰められていた。

 戦女神アテナの放つ鎧の一撃によって。

(ひ、響く!)

 腹部に一撃をもらい、衝撃に嘔吐感が湧くのを堪える。

 何故戦女神の攻撃はこんなにも響くのか。


 戦時に纏う鎧はヨーロッパ史において、年を重ねるごとに変化していった。

 アテナの持つ全身を満遍なく覆う甲冑は、いわゆる板金鎧と呼ばれ、十四世紀頃に登場したものである。

 では何故古代ギリシャ神話の神アテナが、時代の合わない装備をしているのか。


 それは、アテナがいつの時代も信仰を集めていたからである。

 キリスト教が普及し、偶像崇拝が禁止されてなお戦う者の信仰を集めた結果、アテナの重甲冑は顕現し不滅の防御力を得たのだ。

 それだけの防御力を攻撃に転ずればどうなるか。

 

 勇美の二の腕とアテナの籠手に覆われた拳がぶつかり合う。

 金属同士が響くような音が神界に響き渡る。

 紫炎を纏った勇美の体に痛々しい青あざができる。

 

 守勢に回っては飲まれてしまう。


 井上勇美は肘撃ちをアテナのみぞおちに見舞おうとする。

 だが、アテナのアイギスの盾で受け止められ、そのまま足に力を入れて押し込まれる。

 当然吹き飛ばされる勇美。

 宙返りし受け身をとると眼前にはぶちかましを仕掛けようとするアテナが。

 

 下段蹴りでいなそうとする勇美。

 目論みはアテナの奇抜な行動によって覆される。


 アテナは飛んだのだ、彼女目掛けて。

 流星のような頭突きが勇美の腹に突き刺さる。

 吹き飛んだ彼女の体が山を一つ貫き倒壊させる。

 更地になった場所で、勇美はうめき越えをあげる。

 

 その上からアイギスの盾で貫かんと、アテナが構え降って来た。

 慌てて横へ飛びのく勇美。

 隕石のような衝撃が彼女をひらひらと吹き飛ばす。

 それでもふんばり体勢を立て直そうとする。


 振り回された盾の一撃を後ろに躱す。

 先ほどの頭突きが効いている。

 回復まで十秒、いや五秒欲しい。

 さばくさばくさばく。

 だが、アテナも攻勢を弱める気配はない。

 

 それでも、呼吸をする。

 息吹をする。

(たくさん呼吸をするの。そして動き続けるの。流れる水の様に動くのよ)

 そう言った少女の名は。

 

 ああ、陽美香だ。


 上段蹴りが戦女神の首筋に叩き込まれる。


 崩れ落ちる戦女神。

 勇美は息をつきそうになる自身を叱咤し、追撃しようとする。

 このままではマズい、このままでは。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 勇美は飛び上がり足刀を戦女神の首筋に叩きこもうとする。

 しかし、跳ねるように起き上がったアテナが勇美の体に組み付く。

 フロントスープレックス。

 衝撃に神界の地面が耐えられず掘り進むように侵食し、勇美とアテナの体を埋め込んでいく。

 

(これは、パンクラチオンか!)


 パンクラチオンは西洋格闘技においてもっとも古い歴史を持つ実践格闘技である。

 その技術体系は打撃のボクシングと組技のレスリングを主軸とし、禁止とされる技も少ない危険なものだ。

 古代ギリシャの英雄たちは皆パンクラチオンを極め、人間や魔獣に使用してきた。

 戦女神であるアテナが使用できない道理はない。

 首絞め、そして顔面への攻撃。

 攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃。

 勇美の顔が血にまみれる。

 地面がさらに陥没する。


 寝技への対処は、陽美香に教わった。


 勇美はブリッジをし相手の重心を崩す。

 締め上げる腕を両手で掴み、バランスを取れないようにする。

 隙をみて体を回転させ、上下を入れ替えた。

 

 自身を上にした勇美がアテナを殴る。

 殴る殴る殴る殴る殴る。

 

 アテナが重心を入れ替える。

 攻撃攻撃攻撃攻撃攻撃。


 勇美が重心を入れ替える。

 殴る殴る殴る殴る殴る。


 互いの顔面が汗と血でぐしゃぐしゃになる。

 だが、二人は雄たけびも何もあげない。

 ただ目の前の敵を排除するのみ。


 どちらともなく離れ、地中深く睨みあう。

 勇美は空手で言う天地上下の構え。

 アテナはアイギスの盾を前に構える。

 

 最後の攻防がはじまった。


 アテナの突撃が勇美を押しつぶそうとする。

 アイギスの盾は、硬い。

 ならばすなわち、それが弱点。

 

 勇美が選んだ対処法は、手の平で思いっきり叩くことだ。

 瞬間アテナが吹き飛ばされる。

 訳が分からぬという風に勇美を見る。


 硬いとはすなわち、衝撃が分散しないことをさす。

 盾を揺らし、衝撃を盾を持つ手に通し、突き抜けた。


「馬鹿な……」

 

 自身が絶対に自信を持つ盾を破られ一瞬呆けた。

 その隙を逃がさない。


 鬼道流空手 擦窩爪(さっかそう)


 手刀で目を擦るようにして視力を奪う技がアテナに決まる。

 ほんのゼロコンマ何秒視界を奪われる戦女神。

 

 鬼道流空手 交顔(こうがん)


 右足によるハイキック。

 さらに飛び上がり左足によるハイキックにより頭蓋を左右に揺らす。

 アテナはそれでも盾を横に向け切り払おうとする。

 

 鬼道流空手 蠍突(かつとつ)


 頭を伏せ、背中から刺すようにつく一撃が板金鎧を突き刺す。

 さらに盾を持つ腕を取り、足を絡めて倒す。


 水地流柔術 灘落(なだお)とし。


 それは赤羽陽美香に習った技だった。

 衝撃は地面を揺らし岩盤の崩壊が始まる。

 だが、追撃は終わらない。


「イノウエイサミ!」

「チェスト!」 

 アテナの頬骨に突き刺さる攻撃が震度7強の地震を引き起こす。

 がたがたと崩壊する岩盤が二人を襲った。


 


 一分ほど後。

「チェスト!」

 崩落した岩盤から、気絶したアテナを抱えた勇美が飛び出す。

 ぱんぱんと泥を払い顔面に張り付いた血を拭い、勇美は地上に出た。

 アテナを地面に優しく下ろし、ズボンのポケットから黄金の鎖を取り出す。

 ひとりでに鎖が巻き付きアテナを拘束する。


 アテナは虫の息ながらも、生きていた。

 それでいいと思った。

 殺し合いをしに来たわけではない。

「援護射撃が来なかったってことは、釧灘と風雅はやったのか」

 空は月と太陽が輝くことなく、ただの満天の星空であった。

 勇美はホッとして一息つき。


 素早く地面に倒れこんだ。


 瞬間、世界が割れた。

 空間が裂け、遠くの山々が両断され、海が逆巻いた。

 衝撃に空を土埃が舞い、まるで砂嵐のように巻き起こった。

 勇美は呆けた顔で斬撃が飛んで来た方を見やる。


 金髪碧眼の偉丈夫アレスが立っていた。

 違う。

 あれはアレスではない。


「まさか、アポロンやアルテミスはともかくアテナが敗れるとは。

 俺も本気を出さねばいかんらしい」


 星空を混とんとした嵐に変えた神格は、先ほどまでの残忍さと粗暴さは成りを潜め、高潔な戦士の様相で勇美を見る。

 二本の槍は姿を隠し、一本の剣を持つ。

 刃渡りは五十センチ程で剣としては短い。

 だが、その剣の持つ力はポセイドンのトライデントと比べても遜色ない。

 否、それ以上の力を持っている。


 その剣はグラディウス。

 古代ローマで広く使われた剣である。

 そしてこれを持つ神は、一人。


 勇美は空手の構えを取る。

 だが、気づけばアレスの姿がない。

 勇美は嫌な予感がし、後ろを振り向く。

 アレスが目の前にいた。

 そして腹部に激痛。


 アレスの剣が、突き刺さっていた。

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