風雅VSアポロン
煌びやかな空の中を不自然に浮かぶ太陽。
その太陽がまるで沸き立つように大きくなった。
空に近づきすぎたイカロスはこんな気持ちだったのかもしれない。
風雅は詩的な気持ちで火の塊を見た。
非常事態でなければノートを取り出し詩作に興じていただろう。
宇宙空間に出て太陽に近づいているというのは、想像力をかきたてるほどに奇妙な光景だった。
不思議と眩しさほどには、熱さを感じないのがありがたい。
もしこれが本当の宇宙空間なら風雅は死んでいたが。
神界のでたらめな法則がむしろありがたい。
風雅はギターを取り出し、弦をつま弾いた。
世界が塗り替えられる。
高天原の金色の世界が、星空を塗り替えていく。
「その動きは見えている」
若い少年の声なのに、何故か威厳のある声が響く。
その声は燃え盛る太陽の中から聞こえてきた。
太陽の中で確かに、一人の少年のシルエットが見えている。
次の瞬間降り注いだ、何条もの巨大な閃光が黄金の世界を燃やし尽くす。
「伯父貴に使った手が、何度も通じると思うな」
壊れた世界の破片が散らばり、たゆたうように空を浮かぶ。
風雅は苦笑いを浮かべつつも、諦めない。
声を張り上げ歌を歌う。
「果実のかわりに何を貪る この渇きを何で癒せばいい」
風雅のみことのりは世界に届き、歪んだ世界をたちまち動かす。
「まだ分からないか、ここは私の世界というだけではない。宇宙だ」
アポロンの声が響き、太陽から放たれる弧状の炎、プロミネンスが風雅の放った世界を焼き尽くす。
「オリンポスの神々が愛した世界そのもの。君が覆いつくすには余りにも大きすぎる力だ!
身の程をわきまえろ! 下郎が!」
ギリシャ神話とは星々の神話である。
ある時は英雄が、ある時は恋人が、ある時は神獣が、ある時は神そのものが。
星座として例えられ、崇められてきた。
星屑が輝く空はギリシャ神話そのものと言って過言ではない。
先ほどのポセイドンの時は、海神が単体で存続した世界。
それとは明らかに世界そのものの強度が違う。
風雅は愚直に歌を重ねる。
「乱れ叫ぶ生の奔流 堂々めぐる死の氾濫」
「そして俺に歌か、笑わせる!」
瞬間ハーブの音が星空の世界に響き渡った。
音に音が合わさり干渉され、風雅の力が削がれていく。
冷や汗がたらりと顎まで垂れた。
アポロンは神々の中でも随一と呼ばれた程の音楽の達人である。
それゆえか、風雅が歌声で世界を塗り替えようとしても、音波でかき消されてしまう。
ならば、四獣を使うか。
しかしこの星空には、風雅が操る五行の内の木も水も金も土もない。
朱雀のみでアポロンに対抗しなければならないらしい。
詰みか。
否。
岩倉風雅は諦めない。
「砕け散った声が響く 朝焼けの中にカラスとともに消える」
「無駄なこと」
瞬時にアポロンの放つハーブの音が、風雅の音をかき消そうとする。
だが、今度は響いた。
風雅の持つ霊力が瞬時に増強されていく。
先ほどまでとの違いにアポロンは瞬時に頭を回転させる。
そして答えに達した。
この少年は、自分自身に対して歌っている。
周囲の世界を塗り変えるほどの力を自分のためだけに。
太陽神は見た。
少年と朱雀が淡い光につつまれていく。
これが完遂したなら、目の前の少年はオリンポスから戻れなくなるだろう。
そこまでの覚悟かと、太陽神は戦慄する。
ヒサナの娘のためにそこまでするか。。
彼自身も、さまざまな人を愛した神ゆえに気持ちは分からなくもない。
だが、無謀だ。
少年の姿が変わる。
火の鳥と融合し、炎を纏ったその肉体。
燃え盛る四肢と巨大な羽を持ったその姿は、異能者であることを越えている。
当然である。
神にも匹敵する四獣と融合したのだから。
燃え盛る瞳はアポロンを射抜く。
アポロンはその目を真っすぐに受け止める。
「何のためそこまでにする? あの娘を愛しているのか?」
「……いてもいいだろうが」
アポロンは少年の物言いに首を傾げる。
「あの娘のために全てを賭けるバカが一人位、いたっていいだろうが!」
そう叫ぶと、火の鳥と融合した少年の姿がかき消えた。
気づけば、アポロンは身にまとった太陽から吹き飛ばされ、星空に投げ出されていた。
「俺を足蹴にするとは! 不敬だぞ!」
太陽に近づけると豪語したイカロスをも越える傲慢さ。
少年の姿がさらに消え、気が付けばアポロンの目の前に踵が迫って来ていた。
アポロンは右手で防ぐものの、衝撃を殺しきれずにひらりひらりと星空を舞っていく
顔を紅潮させた太陽神は自身の神気を練り上げ一対の弓矢を創造する。
その矢に纏う死の気配に、風雅の動きが止まる。
「死の権能か。人間を虐殺する病の矢か」
「その通りだ。私は医療を司る神でもあり、疫病を司る神でもある」
アポロンは神々の代理戦争であるトロイア戦争において、敵軍を病にかけさせ夥しい死者を出した逸話を持つ。
普段は冷静であるが、ひとたび思い上がった態度をとればその残忍さが牙をむく。
しかし、岩倉風雅は動じない。
かつて音楽の腕比べで負かした相手を、生きたまま皮を剥いだエピソードを持つ太陽神を相手にしても。
「疫病だろうがなんだろうが、死ぬときは死ぬさ。皆そうだろ」
「人間の誇りか。神たる俺には分からんな」
不死身の神はあざ笑うように話す。
火の鳥と融合した少年は炎の輝きを、弓矢をつがえた太陽神は光の輝きを、それぞれ満天の星空に映し出す。
「あんたを倒して、俺達は陽美香ちゃんを助ける」
風雅の決意を、太陽神は興味なさげにこき下ろす。
「黙って死ね」
数秒制止、その後動く。
火の鳥と化した少年が音速を越えて放たれた弓矢を身をよじって躱すものの、体をかすめる。
ジェット機のように足裏から噴出させた炎により、二の矢をつがう前にアポロンに近づく。
蹴りを一閃、カポエラによるダイナミックな一撃がアポロンの鳩尾に突き刺さる。
さらにつま先蹴りを喉、踵を振り上げ股間、回し蹴りを首筋に。
炎を撒き散らかしながらの三連撃にアポロンは錐もみ回転しながら吹き飛び、ぐっだりと宙に浮く。
風雅は息を吐くと、体をまさぐり黄金の鎖を取り出す。
この炎は神殺しの炎と同じく熱を持たないため、服装も装備品も無事である。
アポロンに近づき、拘束する。
瞬間、顔にある七つの穴から真っ赤な血を噴き出した。
せき込み体を丸める風雅。
気絶していた筈のアポロンは耐え切れないというように肩を震わせて笑った。
「馬鹿め、かすっただけで貴様はもう死んでいる! わが弓矢は死の具現! 自分で言ったとおりその病でお前は死ぬ!」
そうあざ笑うアポロンに、風雅は何かを言うことなく、息絶えた。
その時、風雅の体が灰になり、崩れ落ちる。
灰は空中だと言うのにひとりでに浮き上がりひと塊になると、人間の体が形成される。
風雅の形を作り、復活する。
アポロンが茫然と風雅を見つめる。
「俺の朱雀は、フェニックスとも同一視される。最も本来は完全に違うものだがな。
古来より受け継がれた朱雀にイメージを付け加え、朱雀に死者を生き返らせる術式を付与したのが俺の母さんだ」
歴代最強の陰陽師と言われた風雅の母、岩倉玲陽。
母が友とした最強の霊獣、四獣。
彼女の愛、受け継いだものが完璧に風雅を活かした。
「俺達の勝ちだ。大人しくしてもらうぞ」
風雅はそうアポロンに言うと、淡く輝き朱雀と分離する。
アポロンはため息をつくと、おとなしく頷いた。
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