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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第10章 オリンポス十二柱神
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勇美VSアテナ

 とにかく、赤羽陽美香(あかばねひみか)を取り戻さねば、話が進まない。

 大和(やまと)勇美(いさみ)風雅(ふうが)は三様に顔を見合わせる。

 三対四、楽な戦いではない。

 ましてや、世にも名高いオリンポス十二柱神の四神、軍神アレスと戦女神アテナ、太陽神アポロンと月女神アルテミス。

 後世にも名高いメジャー級の神々であり、数多の詩や創作物で取り上げられ、武勇を示す逸話も多い。


 金髪の少女の姿をした女神ヘスティアの目の前で、三人の少年少女は話し合う。

「本当に大丈夫なの、勇美ちゃん?」

「任せな」

 風雅の心配の疑問を、胸を張って払拭する勇美。

 その表情にはいささかの揺らぎもない。


「大和も、いいのそれで?」

「井上がやれるっていうなら、信じるまでだ。むしろ俺らがしくじれないだろう。本当に呼吸はできるのか?」

 大和は動じずに言う。

 大和と勇美は、どちらか一方に頼り切った関係ではない。

 ともに肩を並べて戦う関係だ。


「呼吸に関しては大丈夫。ここは神界だから、既存の物理法則は当てはまらない。

 そもそもの話、月や太陽から放つ攻撃なんて光速を越えてるよ。

 あくまで月や太陽であるかのように見せているだけで、近づけば本体があるはずだ。話を聞く限りはね」

 もし、月から光速で攻撃しても現実の世界であれば1・3秒かかってしまう。

 それほどの速さの攻撃をくらえば、大和はこの世から消滅していただろう。

 

 現に大和は生存している。

 ゆえに、見た目ほどの距離ではない可能性が高い。

 人類にとってまだ月も太陽も身近だった時代の形をとっているのならば、勝機はある。


「さあ、行くぞ」

 大和が声をかける。

 勇美と風雅は無言でうなずいた。

「ヘスティアさん。お願いします」

 少女の姿をした女神はコクリと頷いた。



 二本の槍を背中に背負った金髪碧眼の偉丈夫アレスは、黄金の重装鎧を身にまとい、その肢体も顔も隠したアテナに愚痴を零す。

「全く、伯母上にも困ったものだな」

 アレスの言葉にアテナは苦笑で返す。

「ええ、頑固なものです。ですが仕方がありません。あの方はヒサナと一番仲が良かったですから」

 アレスとアテナの胸に去来するのは、オリンポス十二柱神と赤羽緋沙奈の栄光の日々。

 時に反目しあいながら、時に協力しあいながら世界の危機を救ってきた。

 ある時は邪龍復活を目論む教団と、ある時は世界を滅ぼす悪魔と、ある時は共に魔界に赴き戦った。

 そうしていく中で確かな絆を育んだ。

 

 今、我々は友の娘を殺そうとしている。

 それが是か非かは言うまでもない。

「それでも父上を失う訳にはいかん。ルシファーが暗躍するなか、大災厄テュポーンまで復活すればどうなるか。

 下手をすれば、いくら神殺しがいるとしても、人類が滅んでしまう」

「……分かっていますが、哀しいですね」

 二人の軍神がともに消沈するなか、一人の神格が降り立つ。

 見た目は十代後半の年齢である。

 太陽のような見事な金髪を腰まで伸ばした美少年。

 その印象に反して燃えるような瞳を持つ神、アポロンである。


「アレス、アテナ。あと四十七秒後に奴らが来る」

 アポロンは太陽の神である以上に、預言と神託を得意とする神である。

 古代ギリシャ各地には多くのアポロンの神殿が作られていた。

 彼の力を授かった巫女は百発百中の預言を持つと言われる。

「お得意の預言か。信頼はしているが、無策で来るとも思えんな」

 アレスのまっとうな言葉にアポロンも頷く。

「おそらく、あのポセイドン伯父上を封じた少年が空を飛んで私とアルテミスを倒そうとするだろう」

「防ぐか?」

「いや、そのまま通せ。足止めに一人残るはずだ。そいつをアレスとアテナ、二人がかりで殺せ」

「わかった。ぬかるなよ」

 アポロンは無言で消えると、またしても夜空に太陽が昇る。

 そして呼応するように巨大な満月も浮かび上がる。

 

 輝く太陽と丸い月。 

 人界では並び立つことのないそれが、超常の世界では当たり前のように存在する。

「ふむ、まずは見定めるか」

 戦女神アテナはアレスの言葉の中にある喜びの感情を察して、不思議そうに見つめる。

 彼女が口を開こうとした瞬間、空間から何かがあらわれる。

 アテナはアレスを庇うように立ち、不滅の盾アイギスを構えた。


 その盾に、井上勇美の飛び踵落としが直撃する。

 衝撃が神界を揺らし、アテナの両足が地面に二十センチ以上めりこむ。

 さらに勇美は反動を利用して後ろ回し蹴りをし、アレスは槍で受け止め弾き飛ばされた。

「行け! 風雅! 釧灘!」

 彼女の声援を背に、火の鳥が上空へと飛び立っていった。


 

 アテナは兜の下からじっと勇美を見据える

「貴女一人で我らを止めるというのですか? 無謀ですね」

 凛とした声が勇美を貫くが、神殺しの少女は動じない。

 意志の強い瞳で戦女神と軍神を見つめる。


「無謀だろうが無茶だろうが、構いやしないわ。陽美香が待ってるの。どいてくれる?」

「そうしたいのはやまやまですが、どけませんね。世界のためです」

 アテナの答えに、勇美は天地上下の構えをとる。

 これは手を上下に分け、自由自在に攻撃する攻めの構えである。

 彼女の爆発的な気炎の力を前にしても、戦女神は超然とした姿勢を崩さず歩みを進める。


「ヘスティア伯母上から話は聞いているでしょう? 

 このままあの娘を放置しては世界が滅びます。

 それにもしゼウスの力を彼女が受け継いだとしても、彼女の器が耐えきれるとは限らないのですよ」

「……わかってるよ。これが暴挙だってことぐらい。

 陽美香を助けることで、世界が滅びるかもしれないことも分かってる」

 勇美は言葉ではそう言いつつも、紫炎を一切揺らがせずに答える。

「それでも、私は陽美香の友達だ。

 可能性があるなら、最後の最後まであの子の味方側に立ちたい。

 そう思うことはそんなにおかしいかい、戦女神様」


 アテナはその盾を少し震わせた。

「……友の娘に、あなたのような友人がいたことを、嬉しく思います」

 勇美は意外そうに眉を上げる。

 戦女神アテナ。

 現代まで彼女を祀った神殿であるパルテノンが残るほどの、絶大な人気を誇る神である。

 そんな彼女も、陽美香の母親を友と呼ぶ。


 勇美が陽美香に出会う前に死んだ、友人の母親。

 今まで冷徹な敵だったオリンポス十二柱神が、人間と変わらなく見えた。

 だが、それも一瞬。

 膨大な神気を纏い、重厚な甲冑をその身にまとった女神は戦意を露わにする。

「ですが、あの子の愛した世界を守るため、我々はヒサナの娘を殺します。

 気炎を上げなさい神殺し!

 私を殺さねば娘は助けられぬとおもいなさい!」

 

 アテナは盾を振り上げ地面に突き立てる。

 それだけで地響きが起こり、大地が割れ、勇美を地中深くに落とそうとする。

 そんな女神の狙いを意に介さずに、勇美は紫炎を噴出させ飛び上がり空中から正拳突きを見舞う。

 アテナは絶対不滅であるアイギスの盾でもって勇美の拳を受け止めた。

 さらに大地が陥没し、アテナの足元で圧縮された大地が赤熱する。

 

 だが、盾は壊れるに至らない。

 盾を振り回すだけで大地がはじけ飛び、土石流のように勇美を襲う。

 土くれを拳による風圧で吹き飛ばそうとする勇美は、しかしその影に隠れながら近寄るアテナに一手対応が遅れる。

 瞬間膨大なエネルギーが弾けアテナの突撃が勇美の腹に突き刺さる。

 いわゆるぶちかまし、体当たりである。

 

 アテナの重武装でこれを行えば、相当の衝撃が襲ったはずだ。

 現に地面が水面のようになみうち、砂煙が起こった。

 だが、勇美は立っていた。

 地面を抉りながらもなおその両足で。

 騎馬立ち。

 文字通り馬に乗るようにまたを開いた立ち方。

 主にタックルを受け止めるために扱うもっとも重心が安定した立ち方である。


 拳がアテナの兜を襲う。

 いや、それはもはや空手でなく、ただの親が子に振るうような拳骨であった。

 鈍い音がして、辺りがシンと静まり返る。

 黄金の兜が甲高い音を立てて割れた。

 血のような赤い髪が零れる。

 額に真っ赤な血が一筋。


 神々の中でも随一を誇る美貌が露わになる。

 血にまみれてなお凄絶な美しさだった。

 ヘスティアが清純な、アフロディテが淫蕩ならば、アテナの美しさは勇ましさであった。

 

「……綺麗な顔を傷つけてすいませんでした」

 勇美は思わず謝る。

 だが、戦女神は気にすることなく滴る血を舐めとった。

「安心してください。あなたの顔もこうなりますから」

「そいつは、はは、ゴメンだな」

 二人はしばし、ほんの一瞬だけ笑いあうと、拳と盾をぶつけ合った。

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