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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第9章 軍神
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来る軍神

 甲斐弦由布人(かいげんゆふと)の振るうマチェーテによる、大上段からの自身を両断せんとする一撃。

 それを釧灘大和(くしなだやまと)は同じく大上段からの一撃で迎え撃とうとする。

 体ごとよけて躱したのは、甲斐弦の方であった。

 感心したように甲斐弦は大和に笑いかける。

「斬り落としとは、やるね」


 斬り落としとは剣術において、日本刀の持つ丸みを利用し、相手の刀を受け流す動きである。

 攻撃を左右にずらし、そのまま斬りつける攻防一体の技。

 だが、その狙いは甲斐弦由布人に看破され、回避された。


 さらに、マチェーテを振り上げるような攻撃が大和を襲う。

 速い。

 大和は飛びのいて躱したが、凄まじい斬撃がコンクリートの床をバターのように斬れているのがみて取れる。

 釧灘が壁際に追い詰められ、甲斐元のマチェーテが振るわれる。

 大和は間一髪横っ飛びで避けたが、背中にあった鉄筋コンクリートの壁が発泡スチールのようにたやすく細切れになった。

 陽美香と勇美はあんぐりと口を開ける。

「ちょっと! この結界一旦解いて釧灘を避難させられない!?」

「ムリだよ! 使い方わかんないもん!」

「安心しろ。井上、赤羽」

 勇美と陽美香を安心させるように片手で制する。

 

 五始(ごし)三行(さんぎょう)四終(しつい)は使えない。

 あれは水地流の最大奥義にして、最大の初見殺し。

 ゆえにもし大和が負けた場合、この男を相手どらなければならない師匠にまで負担を強いることになる。


 ならばこれしかない。水地流、天対(てんつい)の構え。

 刀を大上段どころか天に届かんまで高く上げる構え。

「相打ち狙いか。上等」

 即座に看破した甲斐弦はにやりと前傾姿勢を取る。

 その言葉に井上勇美が焦ったように叫ぶ。

「馬鹿釧灘! 何を考えている!」

 天対の構えは、ただ真っ向から攻撃するだけの技ではない。

 重力でもって加速した斬撃は必ず相手の頭蓋を叩き割る。

 例え操作の途中に使い手が死に至ろうとも。


 しばし、膠着状態となり、甲斐弦はじりじりと距離を取り。

 雇い主である桧山と同僚である比堂を掴んで背を向けて走った。

 まさかの出来事にさすがの大和も困惑する。

 

 甲斐弦がとった行動は、逃亡であった。

 十二分に時間を稼がれてしまった彼は、キルマスター水上龍誠(みながみたつまさ)を相手取る前に逃げることを選択した。

 大和は慌てて追いかけようとするが、近づいて来る気配に立ち止まってしまう。

 

 音を超える速度で何かが来る。

 悪魔。否神霊に属する、それこそアマテラスに等しい何かが来る。

 それは異界の階層まで降り実体化しながら、甲斐弦の前に立つ。

 立ち止まってしまった彼は、苦笑いをしながらまじまじと見つめてしまう。


 金髪碧眼の神が作ったような美貌に二本の槍を背負ったそれは、甲斐弦を見下ろす。

 ゆったりとした動作で男から桧山を引っぺがした。

「あ、どうもすいません」

 あっさりと許す甲斐弦。そのままこそこそと存在から後ずさりしつつ離れる。

 その存在は甲斐弦には興味なさそうで、苛立たし気に桧山を見つめる。

「役立たずが」


 たった一言の声を聞くだけで甲斐弦は発狂しそうになる。

 凄まじいほどに魅惑的で、危うい声だった。

 覚醒した桧山は目を見開き、呆然とその存在を確認する。

「何だ、何だてめえ」

「何だとは何だ。折角智慧と資金を与えてやったのにしくじりやがって、まあいい余興ではあったがなあ」

 乱雑な口調で言いながら、存在は桧山の頭を両手でつまむ。

 嫌な予感に大和は黒刀を具現化させる。

 

 だが、遅かった。


 存在は人間を紙のように扱って千切った。

 桧山は頭から股間まで、真っ二つに裂けてしまった。

 無惨な遺体が無造作に投げ捨てられる。

 あまりの惨劇に甲高い悲鳴を上げる陽美香と勇美。

「あらー」

 甲斐弦は慣れているのか反応も薄い。

 苦笑いを浮かべながら何とか比堂を背負い逃げようとする。

「井上に汚いもん見せてんじゃねえよ」

 大和は黒い刀を突きだし、存在の腹を貫こうとする。

 一瞬、存在の体がブレた。

 そう思ったら、背中から二槍を抜き取り防いでいた。

 拮抗する両者。

 アレスは落胆するようにため息を吐く。


「こんなもんか、最初から俺が出ていれば良かったなあ」

 そう言うと、軽く力を込めた。

 大和はそれだけで壁際まで弾き飛ばされあわや転落という所で踏みとどまる。

 以前、神殺し序列第四位藤堂興元(とうどうおきもと)に教わった通り気炎を体にまとっていなければどこまでも吹き飛んでいただろう。


「何だ! 急にあのヤバイの見えなくなったし、一人でに吹き飛ばされたぞ! つうかあの嬢ちゃんたちの周りの青白いドームみたいなの何! 不思議なことばっか!」

 甲斐弦のまくし立てるような悲鳴が室内に響くが、大和に構ってるような余裕はなかった。

 こいつ、強い。

 大和は射殺すように睨みつける。

 だが、その存在はどこ吹く風で視線を受け切る。


「ふむ、なかなかつええな。訂正しようかガキんちょ。お前をいっぱしの敵としてみとめてやるよ」

 そう言って存在は二本の巨大な槍を振り回し叫ぶ。

「我が名は軍神アレス! 栄光あるオリンポス十二柱神(じゅうにちゅうしん)の一柱にして、誉れ高きゼウスの息子! 名乗って見せろ! 神殺しの少年よ!」


 口上に大和と勇美の顔に驚愕が宿る。

 今まで相手にしてきた悪魔とは訳が違う。

「オリンポス十二柱神。ギリシア神話において世界の全てをつかさどる神々か。

 成る程アマテラスクラスだな」

「ふざけんな! あんた神様でしょう!? 何中学生を殺そうとしてんのよ! 理由を言いなさい!」

「ふむ、神殺しの少女よ。てめえもつええな。安心しろ、同じくあの世に送ってやる」

 会話にならない。

 だが、大和にとって聞き過ごせぬ言葉に殺気を増幅させる。

「井上をどうするって? そうなる前にその首落としてやるよ」

「ほざいてろガキ」

 二人の名状しがたい気配に、アレスの姿が見えぬ筈の陽美香と甲斐弦すらゴクリとつばを飲む。


 軍神アレス。ギリシア神話の主神であるゼウスと神妃ヘラの間に生まれたオリンポス十二柱神の中でも随一のサラブレット。

 戦争の負の面をつかさどる神であり、その性質は先ほど見せたように残酷残忍。

 だが、勝機はある。

 その前にまずは情報を引き出す。


「オリンポス十二柱神が何故俺達を狙う。腹減ってるのか?」

「いや、神殺しは何人か喰らっているからそこまで欲しくもない。強いて言えば、邪魔だから?」

「目的は何だ? 内容次第では協力できるが」

「つまんねえこと言うなよ。とっとと俺に殺されれば話はすむんだ」

 どうやら向こうはやる気らしい。

 釧灘大和はため息をつく。

「最後にこれだけは教えてくれ、これはあんたの独断か? それともオリンポス十二柱神の総意か」

 大和の質問に、アレスは笑って答える。

「ああ、少なくとも親父の意向には沿ってるぜ。……そろそろいいか。うずうずすんだよ」

 その返答に少年と少女は気が遠くなるのを感じた。

 最悪は十二連戦も覚悟しなければならないということだからだ。

 オリンポスの山々に今も住んでいて、世界を見渡している神々と。


 だが、それは目の前の相手を倒してからだ。大和は意識をアレスに集中させる。

 アレスは二本の長槍を構えている。

 その大きさは二メートル前後。

 もちろん人間の膂力(りょりょく)ではそんな大きな槍を片手で振るうなど不可能。

 しかし相手は神、そんな理などやすやすと超えてくるだろう。


 アレスは元々待つ気性ではなかったのだろう。

 一瞬消えたと錯覚するようなスピードで大和の心臓を穿とうとする。

 大和は必死に黒刀で受け止め、受け流す。

(せめて風雅がいれば! ここが異界なら!)

 今の身体能力は人間準拠。ゆえに、あくまで人間の力で神と戦わなければならない。

 アレスの速さは人間の枷で動く大和を明らかに凌駕していた。


 一人ではとても無理だ。

 今は拮抗していてもいずれ綻ぶ。

 一人なら。


「チェスト!」

 横合いから顎に一撃もらいてんてんと転がるアレス。

 井上勇美が、結界から飛び出していた。

 前衛に防御力のある勇美。

 後衛にリーチと攻撃力に優れる大和。

 二人は連携により活路を見出そうとする。

 しかしアレスも()るもの、二本の槍を巧みに操り二人の攻撃をさばいていく。

 刀や素手と槍ではリーチが違う、ゆえに距離を取りつつ戦うアレス。

 対する二人は連撃によりアレスの二槍の弱点である取り回しの悪さを突いていく。


(((これでは決着がつかない!)))

 同じことを三人は思い、だが焦る二人に対しアレスはニヤリとする。

「おい! お前ら! 大したもんだマジで! これはヘラクレス並みかもしれねえなあ!」

「は? ありがとうございます」

 ギリシャ神話最強の英雄を例に出され、恐縮してしまう勇美とどうでもよさそうな大和。

「本当、俺一人なら何とかなったと思うぜ、だが、悪いな」


「戦に増援は付き物だ」

 そう言うと、黄金の巨大な拳が二人を貫いた。

 

 二階の窓から吹き飛ばされた二人は何とか足元から落ちて受け身を取り土の地面に着地する。

「くそ! 何なんだ!」

 勇美が頭を振り立ち上がると、呆然と上を向く。

 大和もまた上を見て、驚愕に目を見開く。

 そこにいたのは神々しく輝く、巨大な巨大な、二百メートルはある黄金色の鎧だった。


 否、それは重装歩兵である。

 まさに神話に名高いアイギスの盾を振り回し、女の声が辺りに響く。

「何を遊んでいるのです! アレス!」

「黙れ! だが、増援は感謝するぞアテナ!」

 その言葉にさらに気が遠くなるのを感じる大和と勇美。

 

 ギリシャ神話において戦争の良い面を司り、あらゆる地域で今なお愛され、数々の輝かしい逸話を残す戦女神。

 不滅のアイギスの盾を持つその女神の名はアテナ。

 オリンポス十二柱神の一角である。

 二神の連携に、だが二人は目を見合わせ頷き合う。


「やるか、井上」

「ああいくぞ、釧灘」

 死闘はさらに加速し、二人は黒と紫の炎を(まと)い立ち向かう。

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