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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第8章 殺人貴公子
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小太郎の本領

 小太郎達を送った男は逃げるように車で走り去った。

 直に警察を呼んでくれるだろう。

「さて、乗り込むか」

「しかし、まさか……大学とはな」

 男達は、福岡市内にある有名私大の学生だった。

「ああ、俺らが殺したのも大学生って訳だ。つうか、大学生が見た目小学生の女の子をさらうってぞっとしないな」

「おい、俺らって。お前だけしか殺してねえぞ」

 隆盛の反論を聞かなかったことにして、小太郎達は夜陰に紛れて乗り込む。

 見張りに巡回している男を後ろから襲い、黒ずくめの服をはぎ取ると、まずは小太郎が着た。

 さらに二人、同じ要領で服を奪っていく。

「おい、亜美の場所分からないか?」

 小太郎の問いに、二人は気配を探る。

「あの、一番デカい建物だな」

「ええ、その中に、弱弱しいけど気配がする」

 

「んじゃ、行くか。撃つなよ。キリがなくなっちまう」

 当然発砲音がすれば、周りにいる戦闘員全てが結集することになる。

 それだけは避けたい所だった。

 装備を奪われた男達を縛り上げ、茂みに隠し、小太郎達は突入する。

 中央出口の見張りを避け、裏手から中に入る。

 拘束につかったテープを窓ガラスに貼り付け、銃底で叩き割り、侵入する。


 三人は侵入し、亜美の位置を探る。

「どうだ」

「……地下だな。およそ3階だ」

「オーケー、任せな」

「いや、待て。魔術師らしい気配が、二人。そいつらは俺らで仕留める」

「了解」


 途中館内図を見てルートを覚えつつ、堂々と地下へと侵入していく。

 関係者立ち入り禁止と書かれた扉には見張りが二人いた。

 小太郎は自然体で近づく。

「おい、交代の時間だ」

「あ、まだ違うだろ」

 腕時計で確認しようとした男の隙をつき、無造作に鎌で首を貫く。

 間抜けな呼吸音をあげ、相棒が死んでいくのに怒り男が銃をつきつける。


 そこへ、隆盛が俊敏に男に近づく。

 男は戸惑い照準がずれ、瞬く間に小太郎に右腕関節を取られ、うずくまった。

「騒ぐな、優しく締め落としてやるから」

 小太郎はある種芸術的なほどの美しさを感じさせる締め技で男の首を絞め、失神させる。

 死体と気絶した男を階段脇のスペースに隠し、小太郎達は関係者立ち入り禁止の施設に入る。

 

 清潔な廊下を抜け、階段を降りていく。

 地下三階に到着したころには、その空気が重く息苦しくなっていくのを小太郎のみが感じた。

「……何かいやがるな」

「どうせ、魔術師だろう。ワンパンで終わりだ」

 そう呟き、隆盛と繚蘭が翠の炎を纏う。

 

 そして亜美の気配が濃い一室に近づき、静かに少しだけドアを開ける。

 それは地下にあるにはあまりに広大な施設で、流石に圧倒される。

 いたのは白衣の男と、魔術師らしき黒い貫頭衣を着た男が二人。

 昨日、蓮野宅の襲撃の際に見た機械をさらに大きくしたようなものを付けられ、ぐったりとしている菖蒲色の肌に赤い髪をした少女、亜美だった。

 目はどこか焦点が合わず、口元からは泡立った涎が足元まで垂れていた。


 瞬間、小太郎の中にフラッシュバックする記憶。

 2月頃、もうすぐお兄ちゃんになると期待に胸を弾ませたこと。

 亜美が多くの困難を越え、生まれて来てから、彼女が人間でないことは痛い程分かっていた。

 けれど。

「ケンカはダメだよ。いたいのはダメ。いたいのは悲しいことだから。いつもお母さんが言ってるもの」

 連続殺人鬼である小太郎にそんなことが言えるのは、亜美くらいのものだった。


 純粋な、ただの優しい女の子。

 少し変わっただけの、まだ生まれて一年たっていない女の子。

 その子に、何をしている。

 いや、興味もねえ、どうせここで殺すんだから。

 思考がそこまで飛んで行った所で、隆盛と繚蘭が肩を叩き、小太郎の意識が戻る。


「俺らも同じ気持ちだ」

「ぶっ飛ばそう。いいわね」

 少しだけ呆けた後、小太郎は力強く頷く。

 

 魔術師達を翠炎で吹き飛ばし、白衣の男に向き直る。

「へいへい教授。うちの女の子に何してんの?」

 小太郎は自身の怒りをなるべく抑え、白衣の男に向き直る。

「ああ、遅かったね。安心してくれ、もう終わったから」

 そう話し、男は抵抗の意志はないという風に両手を上げる。

 繚蘭は走って亜美に近づき、拘束を外す。

 だが、亜美は焦点の合わない目つきをし、異常な様子で固まるだけだ。

「これで、私達の世界は真理に近づく」

「……どういうことだ」

 小太郎はいつでもこの男を殺すことができた。

 けれど、駄目だ。

 ここで話を聞いておかなければ、亜美を助けることができないと直感した。

「この世界には人界(じんかい)異界(いかい)霊界(れいかい)神界(しんかい)がある。ここまでは分かるね」

「ああ、俺もいまいち信じられないが、あるものはあるんだろうさ」

「ふふ、君の思考は科学者に向いてるよ。それで、それとは別に魔界というものがある。

 フルフルやガープ、アミーなどが暮らす悪魔の本拠地。そこはどこに属すると思う?」

「神界じゃないのか?」

 小太郎はそのように思った。神の存在する次元と同じような作用を今まで見ていたがゆえに。

「実は異なる。魔界とは、文字通り地の底にあるのだ」

 その言葉に首を傾げる。


「地球が作り出した自浄作用なのか、それとも古の神がそう構築したのか、地底のマントルを覆うようにして地獄のような場所はある。人界からはアクセスできないが、異能の力であれば地面を掘り進めれば魔界に進む。

 理論上、その魔界をさらに掘り進めれば、幽世(かくりよ)にまで到達できるといわれるが、そこはおそらく私では解き明かせないだろう」

 白衣の男は何ら隠し立てする気はなさそうだ。

 怒りを抑え、情報を引き出す。

「今、ガープの持つ瞬間移動の権能を応用した観測が終わった。

 瞬間移動とは世界の全ての位相を知らねば扱えぬ権能。

 それゆえ、瞬間移動の権能を無理やり増幅させれば、世界の全てを観測することに繋がる。

 今全てのデータを各国の研究機関、諜報機関、政府要人に送付した」

「……何故そんなことを」

「研究に理屈などない。まあ、私としては、これを秘密にしたところで、世界が滅びるのを止められないと思ったまでだが」

「滅びるって何よ! それとこの子がどういう関係があるの!」

 繚蘭は亜美を抱きしめながら怒っていた。

「世界はいずれルシファーによって、人界と魔界が繋がった状態になる。その前に魔界を観測し、人界の滅びを止める方法を見つけることがこの研究当初の目的だった」


「それで、亜美がこんな状況になるまで、ガープの力を無理やり引きずり出したわけだな。で、このまま帰っていいのか」

 隆盛は苛立った用に言う。

「そうだな、それにはまず外に出た方がいいだろう」

 言うと、白衣の男が歩き出す。小太郎は繚蘭から亜美を受け取り、姫抱きにして歩き始めた。


 空は赤かった。

 まるでオーロラかと思われるほどに美しい帯が、福岡の夜空を覆っている。

「あれは?」

「魔素だな。魔界の瘴気であり悪魔たちの力の源だ」

 隆盛が日々怪物に襲われる中で、何度かみたものゆえ、補足する。

「……観測することで、現実になったってヤツか」

「君達はウチの学生より優秀だね。深淵を覗くものは深淵にもまた覗かれている。良く言ったものだ」

 あまりに他人事な白衣の男に逆に苛々もせず、小太郎は尋ねる。


「このまま放っておくとどうなる」

「福岡と魔界が一つになる。そうすることで悪魔が街に解き放たれるだろう。まあ、精々何千人か死ぬくらいだろうね。

 第一段階はそれで済むだろう。

 そして第二段階は、各世界の人々が魔界の存在を信じることによる、さらなる魔界の現出。

 まあ、10年前と同じく神殺しなら止められるかもしれないが、その頃には私はいまい」


 やけっぱちな男の言動に苛立つが、三人は無理やり自身を抑える。 

「止めるには、どうすればいい」

 答えを予想しつつ、小太郎は尋ね、男は真摯に答えた。

「ああ、その娘を殺せばよい。そうすれば、当座は大丈夫だろう。あくまで当座だが」

 小太郎は亜美をギュッと抱きしめる。

「最後に、何でこんなことをしたんだ」

 白衣の男は、遠くを見て言葉を放つ。

「10年前、神殺し達とルシファーの決戦で、人類は幽世を開きかけた。私の目的は幽世の観測だ。最もその少女の権能を無理やり引き出してもだめだったが」

「さっきも出たな、あの世か?」

「いや、魔界のさらに下にある。日本神話において黄泉平坂(よもつひらさか)と呼ばれる場所。

 そこにはかつて神に反逆し、あるいは神に近づきすぎ、人でいられなくなったもの達が集う。

 神なる林檎の簒奪者、世界最初の冒険者、蛇の悪党と牝牛の英雄、裂かれた聖女、天に遣わされた暴力装置、宇宙の力を得た少女、地球史上最高の剣神。

 そして歴代最強の陰陽師に、歴代最強の神殺し。世界から廃絶された危険物が幽世にはある」

 気が遠くなるようなスケールの話に頭が痛くなる。

「そいつらを解き放ちたかったのか? 何故」

 小太郎の問いに、男はため息交じりに告げる。


「くだらない話だが、娘が一人、幽世にいるんだ。まあ幽世には現世で現れるものより遥かに強力な魔獣がいるようだから、生きてはいないだろうが」

 そう言うと、疲れたように白衣の男は座った。

 彼は自らの死を望んでいた。

「それ位だ、早く殺したまえ」

「甘ったれんな、まだ手はある。亜美が死なず、魔界の門も開かない方法があるはずだ!」

「ふむ、私には思いつかないが」

「大丈夫だよ」

 亜美の言葉に、四人の視線が動く。

 亜美は、抱きしめられた小太郎の腕から抜け出し、立っていた。

 その手には、拳銃がある。

 隆盛は慌ててポケットを探る。銃がない。

「おい、亜美。やめろ!」

 重厚はこめかみに向けられ、鋭く響く銃声が聞こえた。

 だが、ぺしゃんこになった弾丸が落ちるのみ。

 亜美は、ある程度予想してたように、目を伏せる。

「亜美! こんなおっさんの言うことなんか信じるな! 俺が何とかしてやる! だから!」

 悪魔の姿をした少女はそこで何かを見つけたようにあちらを見つめ。

「じゃあね、小太郎にいちゃん、繚蘭ちゃん、隆盛くん。ケンカしないでね」

 言い残して、亜美は次元を歪め、その場から転移した。



 井上勇美(いのうえいさみ)岩倉風雅(いわくらふうが)赤羽陽美香(あかばねひみか)でチームを組み、朱雀(すざく)をつかって移動。

 井上雄大(たかひろ)釧灘大和(くしなだやまと)は車で移動。

 互いに連絡を取り合いながら、しらみっ潰しに当たっていく。

「風雅! 神殺しの気配二つ! 多分華崎(かざき)兄妹だ!」

「お、勇美ちゃんやった!」

「あと、何か異能の気配が……へっ!?」

 急に知覚範囲から気配が消え、背後に浮かび上がった。

「井上勇美さんですよね」

 その娘と井上勇美は何度か話したことがあった。

 といってもネット通話で数回程度だが。

 菖蒲色の肌に赤い目、黒目がちの瞳をした少女。

 蓮野亜美がにこやかに立っていた。

 彼女は、ペコリと頭を下げる。


「あたしを殺してくれませんか?」

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