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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第8章 殺人貴公子
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追いかけっこ

邪無猫(シャムネコ)!」

 風雅(ふうが)は式神猫を放ち、追跡させようとする。だが、飛んで来た翠色の炎に猫は消えてしまう。

 だが、雄大は小太郎を上回るスピードで近づく。それでも、小太郎の方が早かった。

 乗用車は加速し、小太郎が後部座席の窓がら乗り込む。

 雄大(たかひろ)は時速30キロ以上で走るが、流石に車には追い付けない。

 だが、車が表通りに出るため曲がろうと減速した時、井上雄大は横っ面に体全体をつかった痛烈な肘鉄を食らわせる。


 車が、宙を浮き、横に反転した。


「へ?」 

 間抜けな声を上げたのは誰だったか。

 だが、勢いが強かったのか、車はさらにもう半回転し、着地。心なしかよたよたと走り始めた。


「おい! ふざけんな! ケガないかお前ら!」

「シートベルトしてたから大丈夫だ! ヒグマか何だあいつ!」

「あれ勇美ちゃんのお兄ちゃん! もう追って来たのね」

 小太郎(こたろう)隆盛(りゅうせい)繚蘭(りょうらん)の叫びが車内にこだまする。

 騒ぎながらも、運転席の隆盛はアクセルを思いっきり踏み込む。



「ちっ! 逃げられたか、加減がむずいぜ」

「車って、転がるのか?」

「というか盗難車なのでは」

「ああ? 緊急事態だからいいだろ」

 大和(やまと)勇美(いさみ)の疑問に雄大はそう返しつつ。福岡県警に連絡する。

「勇美、追跡できるか?」

「……無理だね、気配を消してる。というかそんなことができるのか」

 勇美は勉強になったという風に頷く。

「邪無猫もないし、車で追いますか?」

「ああ、一応そうするか」


 車に乗り込み追うが、結局巻かれてしまう。散々走り回って見つけた横側が凹んだ乗用車は、結局川辺の下水道排水跡近くに乗り捨てられていた。

「下水道を使って移動しているのか?」

「いや、フェイクだな。一応県警には連絡するが」

 多分どこかの雑踏に紛れているはずだ。と、雄大は結論付ける。

「とにかく、相手を追わねえとな」

「ねえ、ちょっといいかな」

 風雅はハイっと手を上げる。

「あの、目的を整理したいんだけど。俺らは亜美ちゃんを救出するの? それとも華崎兄妹を確保するの? どっち?」

 風雅は問いかける。


「「華崎兄妹の確保」」

 と男性陣。

「「亜美ちゃんの救出」」

 と女性陣。

 え? という風に四人は顔を見合わせる。

「華崎兄妹は神殺しなんだぞ、なのに危険な組織と三人で戦おうってんだ。止めるのが筋だろう」

 と言うのは大和だ。

「それに蓮野小太郎にこれ以上殺しをさせるわけにはいかんからな、警官として」

 雄大もまた腕を組んで言う。

「いや、華崎兄妹の目的が亜美ちゃんをさらった組織なんだから、亜美ちゃんを救出すれば、華崎兄妹も逃げるのを止めるんじゃないの」

 勇美は指を手にやりながら考えを出す。

「それに、女の子をさらうなんて人道的に許せないよ。成敗しなきゃ」

 陽美香(ひみか)は腕をまくりながら振り回す。

 なるほど、と呟いて風雅は腕を組む。


「いや、俺としては、というか政府としては華崎兄妹の身柄の確保が最優先なんだよね」

 そもそも、今回彼らが福岡へ来たのは、政府の依頼があってのこと。

 指令としては、華崎兄妹の確保のみで、亜美と小太郎は言ってしまえば関係ない。

「蓮野亜美は危険だ。ガープとアミー二つの悪魔の力を持つ女の子。アマテラスの意向で現状維持にしているが、今回の件で、政府としては強硬な手段に出るかもしれない」

「強硬な手段?」

 陽美香が尋ねる。

「良くて軟禁、悪くて……処理だ」

 穏やかでない言葉に、五人の空気が沈む。

「それでも、亜美ちゃんを助けるかい?」

 

「当たり前だろ。まだ生まれて一か月だぞ」

 風雅の問いに、勇美が間髪入れずに答える。

 その瞳には、確かに義憤があった。

「あの娘には、自分の道を決める権利があるはずだ。例え悪魔の力を無理やり与えられたのだとしても」

 勇美のその言葉に、大和は思いをはせる。

 

 井上勇美の、人間の可能性を信じる気持ち。

 何もかもを救おうとする気持ちは立派だ。

 だが、状況が悪くなれば、その時は自分が。

 それだけ心に決め、大和は口を開く。


「しかし、何で風雅はそんなこと聞くんだ?」

「ああいや、ただ目的意識は共有しときたいなって思っただけだ」

 そう言って風雅は雄大を見る。

「とりあえず蓮野小太郎達は後回しで、俺らはその組織を追うってことでいいですかね」

「……まあしゃあねえ。福岡県警でも捕らえられねえ奴らをたった五人で追うのは無理がある」

「それでは地図を広げます」

 風雅は福岡県全体が見える地図を地面に広げ、そこから解説を始める。


「まず、県外や国外に出たとは考えない」

「何で?」

 陽美香の問いに風雅は首を振る。

「キリがないから。たった五人で九州やら本州まで可能性考えてもしょうがない。

 それに、俺は今回の犯行を計画した主犯は福岡にいる可能性は高いと思う。

 今回の事件の犯人に相当土地勘がないと、こんなにスムーズに襲撃、逃走はできないからね」

「それは俺も思った。銃撃戦を福岡市内でしながら人一人攫って完璧に逃げおおせてるからな」

 風雅の仮説に雄大も同調する。


「それで、こっからはあんま言いたくないんだけど、福岡県警の上層部に、その組織に抱き込まれてる奴はいると思う」

 風雅が衝撃的なことを言うが、雄大は冷静に受け止める。

「小太郎達を探すことに躍起になっているが、銃撃事件に関しては扱いが悪すぎるからな。その可能性はある」

「でしょう? だから逆説的に福岡市の近くに組織の大元はあると思うんだ」

 確かに、大きな組織であればあるほど、地元の警察組織には便宜を図るだろう。

「もう海から海外に出た可能性は」

「それこそ考えても仕方がない。お手上げってヤツだよ。まあその辺は小太郎君たちも考えたと思うけどね」

 おそらく夜のうちに彼らも港は調べたはずだ。

 風雅はそう言って地図を見つめる。

 風雅の真剣な目つきに大和は続きを促すように質問する。


「……で、近くにいると仮定して、そっからは」

「……小太郎くんの最後の通話から、連中が使った異能を防ぐ装置ってのが気になるね。それだけの設備があるってことは、企業か大学クラスの研究設備が必要だ」

「福岡県にある工場が密接してる場所を片っ端から当たる。しかないか?」

 神殺しの知覚能力頼みになるが、悪魔の気配を探るしかあるまい。

 そう大和は言うも、風雅は苦い顔をする。

 福岡は日本有数の発展を遂げた街だ。工場の数もそれなり以上に多い。

 とりあえず目ぼしい工業地帯に赤の斜線で塗りつぶす。 


 悩みながら、勇美がふと気が付いたように言う。

「ところで、どういった目的で彼らは亜美ちゃん攫ったと思う?」

 陽美香がハイっと手を挙げる。

「何か、世界を異界ってヤツに近づけるためなんじゃない? イサミン達を狙う奴らってそれが目的なんでしょ?」

「うん、陽美香ちゃんの言う通りなんだけど、それなら神殺し二人の方を狙うはず。亜美ちゃんはかなり特殊なケースとはいえ所詮異能者なんだからね、霊能に位置する神殺しの方が利益になるはずだ」


 風雅の答えに陽美香はうーんと頭を抱える。

「加賀の件は龍脈の中心だっただろ? 魔術的に有用な土地とかないか」

「なくはないけど……。魔術的な贄ならそれこそ神殺しの方がいいんだよねえ。そう考えると望み薄だなあ」

 そう言いつつ、風雅は今度は青で、魔術的な要所に点を付けていく。

「あとさあ、拳銃たくさん持ってる位だから、お金持ちだと思うんだよね。それこそ企業家とか資産家とか」

 陽美香のつぶやきに、福岡県内で有名な名家や企業を片っ端から探し、今度は黄色で丸をつける。


「この三色が重なる所へ行こう。あとは神殺しの異能感知力に頼るしかない」

「薄いなあ、線がよお」

 雄大はぼやきつつ車に乗り込む。

 だが、ここには二人の神殺しがいる。

 もし異能の力が使われているなら感知できるはずだ。


 それに賭けるしかない。

 確かに薄い線だった。









 福岡市内の一等地にある高層マンションの一室。

 小太郎、隆盛、繚蘭の三人は、ガスコンロを使い、えびのてんぷらを揚げていた。

 お湯の入ったインスタントのうどんを持ちながら。

 小太郎と隆盛はさらにおにぎりを頬張っている。

 じゅわじゅわと、食欲をそそる音と、うめき声が響く。


 痛めつけられて縛られているのは、50代前半といった男だった。

 隆盛はくるくると、男の部屋から見つけた大口径の拳銃を弄る。


「あんたは、俺らがどうやってあんたに辿り着いたか知っているか?」

 おたまで高温に熱せられた油を掬って見せると、男の肩がビクリと跳ねる。

 天ぷらがあがり、インスタントうどんに乗せると、表面のつゆがジュワリと蒸発する。


 あつあつだ。


「一応言っておくが、俺らだって別に鬼じゃない。奴ら女を犯してたもんでついやり過ぎちゃったんだ。

 平和的に解決するなら、それに越したことはない」

「な、何でも話す! 嘘はつかない! だから警察に連れてってくれ!」

 男が泣きそうな顔で命乞いをし、小太郎も安心したように胸をなでおろす。

「いいね。物分かりがいい。何なら蓮野法律事務所を頼りな。義母さんは犯罪者弁護のスペシャリストだから」

 そう言い、小太郎は天ぷらを人齧りする。

 サクリという歯ごたえに程よくつゆが染みて、最高の塩梅だ。


「じゃ、あんたが車出して連れてってくれ」

「お、俺が連れてくのか!」

 男は戸惑ったように叫ぶ。

「ああ、流石に無免許運転を繰り返すのも悪いんでな」

 ずるずるとうどんをすすりながら、男の商品を見つめる。

 ライフル、マシンガン、手りゅう弾。

 これから戦争でも始めそうな光景だった。

 

 腹ごしらえを済ませ、隆盛と繚蘭は銃器を物色する。

 小太郎もベルトを使って背中にサブマシンガンをつっこみ、男に尋ねる。

「で? 届け先は本当にそこなんだな」

「あ、ああ。だがそっから先は知らない! 本当だ! ウチに来るのは精々コレクション目的の客で、日本で傭兵部隊何てつくってるとは思わなかった!」

「どうだか。だったら同じ銃や弾薬を大量に仕入れるもんかね」

 隆盛が問い詰めると、男は言葉を濁す。


「と、とにかく連れて行くから、解放してくれ!」

 そう言うと、男は車の鍵を取り出す。

「ああ、頼むはおじさん。おい、ライフルはやめとけ、取り回しが悪い」

「……かっこいいのに」

 繚蘭はぶすっとしながらライフルを置いてサブマシンガンを、隆盛はオートマチックの拳銃を二本持っていく。

 そこで、マンションのチャイムが鳴る。

 双子は男を睨み、男はちぎれんばかりに首を振る。小太郎は双子の疑いを否定する。

「通報をしてる暇はなかった。まさか」

 インターホンを見るが、画面は黒いままだ。

「故障か?」

 男の疑問に小太郎は首を振る。


「いや、カメラのレンズがテープでふさがれてるな。おっさん運がいいな。死んでたぜ?」

 小太郎の台詞に男の顔面が蒼白になる。

 言外にこう言っているのだ。奴らが口封じに来たぞと。

「そんな! 頼む助けてくれ!」

「じゃあとりあえずライフルでも持ちな。変な気起こすんじゃねえぞ」

 言われ、男は銃を手にかける。


 瞬間、爆破音が響き、男達がドタドタと入ってくる。

 豪華なテーブルを倒し盾にする男と双子。

 それと比べて、小太郎が取った行動は信じがたい行動だった。

 小太郎は高さ3メートル以上はある天井に張り付いた。

 そのまま黒ずくめの男達は突撃し、ライフル銃を構える。

 その数、4人

 男達の後ろに、音もなく小太郎は降り立った。

 スパンと切り裂かれる喉首、振り返る男達。


「撃つなよお前ら!」

 叫びながら、一人を返す刃で斬りつける。一人を蹴り飛ばす。一人を銃を掴んで相手の足元に無理やり軌道を変えて撃ち抜く。

 足を撃たれ倒れる男をサブマシンガンで撃ち抜き、蹴り飛ばされた男に対して構える。

「戦力の逐次投入は下策だぜ?」

 そう吐き捨て、襲撃者に向き直る。

「化け物かアイツは……」

 この部屋の持ち主である男が茫然と呟き、双子はコクコクと頷く。


「おら、キリキリはけや。北京ダックになりたくなければなあ」

 小太郎が襲撃者を痛めつけ、情報に確信が持てた。

「んじゃ、おっさん、連れてってくれ」

「私か! 君らで行ってくれよ! 私は警察に自首したい!」

「ははは、だって、こいつもう戦闘不能だもん。残して警察に回収してもらうのが合理的じゃん」

 泣きそうになる男の肩を、隆盛が叩く。

 同情はしないが、哀れには思っていた。


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