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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第8章 殺人貴公子
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でも相手がくるんです

 おびただしい閃光と煙幕が庭先で弾けた。

「おいおいウチが古き良き庭付き平屋建てじゃなかったらヤバかったぞ」

「フラッシュボムだと!? どういう連中だ!?」

 小太郎(こたろう)の呑気な感想に苛立つように、隆盛(りゅうせい)は壁によりつきながら叫ぶ。

 繚蘭(りょうらん)は亜美を抱え机の下に伏せた。

 瞬間、黒ずくめの、映画の特殊部隊が包むような防弾チョッキと、フルフェイスのヘルメットに身を包んだ三人の男達が障子を突き破り、飛び込んできて銃を構える。

 

 小太郎は鎌で先頭の男の喉笛を鎌で切り裂き、分銅を投擲し銃を持っている手を弾く。

 弾丸を喉から鮮血を垂らす男の体で防ぎながら、小太郎は尋常ではない膂力で後ろの男達につめよる。

 隆盛は猫のように俊敏に飛び出し、ヘルメットごと男の頭を殴りぬく。

 構えられた銃を横に叩き軌道をそらす。

 閑静な住宅街に、甲高い発砲音が鳴り響く。

 

 銃声に甲高い悲鳴をあげる繚蘭と亜美。

 小太郎は息絶えた男が持っていた拳銃で男を撃つ。

 倒れ伏した男達に、ほっと息を吐く小太郎と隆盛。

 そして、亜美と繚蘭の方を見たとき、男が亜美を抱え、繚蘭に銃をつきつけていた。

「……ごめんなさい、二人とも」

「謝るな繚蘭、大丈夫だ」

 謝罪する繚蘭に、双子の兄は安心させるように言葉を吐く。

 それがあまりに気休めだとしても。

 小太郎も観念したように銃から弾丸を抜き取り、鎖鎌とともに地面に置く。


 隆盛は自身から翠色の炎を出すが、目の前の男には通用していない。

 やはり彼らは訓練された、ただの人間のようだった。

「仲間をポコポコ殺してくれやがって……。神殺しを殺すのはまずいが……。蓮野小太郎」

 小太郎は名前を呼ばれ、にやにやと笑う。

「俺も有名になったもんだぜ……。なんだい?」

 

 男は極めて自然な所作で、小太郎の頭に照準を合わせる。

「お前は危険だ」

 引き金に指を書けたとき、小太郎はすぐさま、弾丸を躱し鎖鎌を拾って投げつけようと身構える。


 その作戦が実行に移されることはなかったが。


「ダメ!!」

 亜美が叫び、男の腕を掴む。

 瞬間響き渡る、まるで熟れた果実がつぶれるような音。

 びっしゃりと鮮血が舞い、亜美の体にかかった。

 男の絹を裂くような甲高い叫びが古びた日本家屋に響く。


 男の腕が、潰れてちぎられていた。

 自身が成した破壊に茫然として、亜美は目を開く。

 そんな亜美を落ち着かせるように繚蘭は抱きしめる。

 

 小太郎は周りを確認し、安全を確保しようとする。

 そして、驚きに身を縮める。

 いつのまにか銃を構えた10人程の男達が、庭先に整列していた。

「やはり、下っ端では無理か。流石極道30人殺しの殺人鬼。蓮野小太郎だ」

 聞こえてきた年かさで白髪交じりの男が、場違いな白衣に身を包みたたずんでいた。

「……正確には27人だ。命の数を間違うなよ」

 小太郎が怒ったように言い、隆盛と繚蘭が「何だコイツ」という顔で見る。

「成程、殺した当の本人に言われると、中々ユーモアを感じさせるものだね。勉強になったよ」

 そう言うと、白衣の男が手で指図し、男達が亜美に近づく。

 男達は何か大掛かりな機械をもっていた。


 それは機械製のヘルメットのようなものだった。

 亜美の頭に、無理やり装着されるのを、双子と小太郎は見ることしかできない。

 つけられた途端、亜美は凄まじいうめき声を上げながら苦しみ、うずくまった。

「亜美!」

 繚蘭の悲鳴が響く。

「てめえら! 何しやがった!」

 小太郎の殺気交じりの怒号に、白衣の男が笑いながら返答する。

「なに、対悪魔用の装置だよ。まあ悪魔に限らず、異能の力を無理やり人界に留めておくものだが」

 男は笑って言い、男達に指図する。

「さあ、神殺しは連れていけ。私の本命とは違うが貴重なサンプルだ。小太郎君には死んでもらおう」

 小太郎は男達に膝立ちにされる。

 そのまま引き金が引かれるというのに、小太郎にも双子にもどうすることもできない。

 小太郎は、「まあ、今まで散々殺してきたからなあ」と口の中で呟いた。

 

 だが、そこに甲高い叫び声がする。

「だめええええええええええ!!」

 亜美の体から、どす黒い瘴気があふれ出すとともに、この場にいる全員に、まるで船に酔ったかのような感覚が襲う。

 そして、小太郎、隆盛、繚蘭の三人は、気づけば学校の校庭にいた。

 三人は顔を見合わせ、頷き走った。

「繚蘭は警察と義母さんを呼べ! 俺らは家に戻る!」

「分かった!」

 

 数分走ったが、当然のことだが、男達は去った後だった。

 荒れ果てたような家の惨状が、寂寥感(せきりょうかん)を漂わせる。

「どうする小太郎!」

 隆盛は焦ったように言う。

 小太郎は落ち着けという風に手で制し、地面を探す。

 見つけたのは、銃弾だった。


「日本でこんな性能のいい銃なんざ、そう簡単に手に入らねえ。数も揃いすぎてる」

 小太郎は冷静に、義妹を攫った相手を探る。

「言葉から日本人だったし、自衛隊や傭兵あがりってわけでもなかったしな。弱すぎた。

 にも拘わらず、あいつら戦闘訓練はされていた。相当量の弾丸を確保する必要があるだろう」

「……銃の仕入れ先を探す」

「それしかねえ、つっても、福岡のヤクザは俺が大分殺して回ったし警察のガサ入れもあって勢力を落としている。

 てなると考えられるのは」

 小太郎はそう言いながら、庭にある蔵の鍵を開ける。

 そこにあったのは、刀、鎖鎌、槍、弓矢、針、手斧、手裏剣といった武器の数々。

 さらに小太郎は棚から鎖帷子(くさりかたびら)を取り出し、隆盛に投げ渡した。


「チャイニーズマフィアだ」


 この時、午後9時。

 小太郎は政府からの監督官に亜美が攫われたことを報告した。

「うちの亜美が攫われた。敵は銃器で武装した戦闘員十名程と白衣の男。

 異能力を封じる機械を持っていることから相当な研究力を持つ組織だ。

 似顔絵を残すから追ってくれ。

 俺らは銃を横流しした奴らを追う」

 そこまで言い切り、反論しようとする監督官を無視し携帯を切る。


 ここから、三人がチャイニーズマフィアのアジトを襲撃するまでに3時間。

 アジト内で拷問された痕跡のある死体が発見されるまで、2時間

 殺人事件として福岡県警に捜査本部が設置されるまでさらに3時間。

 

 蓮野小太郎、華崎(かざき)隆盛、華崎繚蘭の足取りを、警察は掴むことなく、朝を迎えた。




 捜査関係者でごった返す雑居ビルの一角。

 一人の男が、四人の少年少女を連れて黄色の仕切りテープに近づいてくる。

 その男は195センチ程の身長に、100キロを上回るほどの肉体。

 腕も首回りも太くまるで(いわお)を思わせる。

 にも拘わらず、涼やかな顔を乗せた、優し気な大男だった。

 警邏(けいら)に立つ警官に和やかに挨拶し、その男、井上雄大(たかひろ)は警察手帳を見せる。


「愛知県警の井上雄大です。捜査協力に来ました。中に入れていただけますか」

「ああ、あなたが……。ってちょっと、子どもは流石に」

「大丈夫です。中には入れないんで。お前らはここでまってろ」

 そう言い残し、雄大は中へ入っていく。

 見送りながら、170センチ強の上背に、ウルフカットのショートヘアをしたボーイッシュな少女、井上勇美は呟く。


「繚蘭たちは、大丈夫かな」

 勇美と繚蘭は時たまインターネットで通話する程度の仲だが、それでも心配は心配だ。

「まあ、こうして出てくる死体がマフィアばかりってことは元気なんだろ」

 黒く短い髪を少しワックスで固めた、鍛え上げられた背中をした美少年、釧灘大和はさして心配していなさそうだ。

「それに、蓮野小太郎は経歴から言って簡単に死ぬような男じゃないだろう。きっと大丈夫だ」

「それより、亜美ちゃんってのを攫った奴らが気になるぜ。その娘、悪魔なんだろ?」

 明るい髪をかき上げながら、女顔のギターケースを背負った少年、岩倉風雅は問う。

「……ていうか、人さらいとか日本であるの?」

 金髪のウェーブがかかった髪を後ろに束ねた少女、赤羽陽美香は半信半疑といった様子で問う。


「よくあるだろ」

「よくあるわね」


 大和と勇美が揃えて言った言葉に、陽美香は頭が痛くなる。

「とにかく、三人を早く止めないとな」

 そう言って、大和達は雄大を待った。

「風雅くん、あの猫ちゃんで何とか探せないの?」

「あれはあくまで視認したやつを追うだけだから何とも。神殺しは互いの位置を確認できるでしょ?」

「いや、近くにはいない。当然だがな」

 言い合っていると、雄大が戻ってくる。

 その顔は神妙だ。

「雄兄。どうだった?」

「……あいつらイカレてやがるぜ。ひでえもんだった」


 言っていて気持ち悪くなったのか、こみ上げる胃液を押さえる。

「……聞きたくないけど、どんな感じ」

「あいつら、人間を北京ダックみてえにして、人に()()()()()()()()()()()()()()

 はっきり言って正気じゃねえ」

 雄大の言葉に、大和以外の三人は顔色を悪くしながらも、吐き気を押さえる。

「ブチ切れてるな」

 大和はいっそ無感動に呟く。


「なら、とっとと止めないとね」

「ああ。で、手がかりは?」

 勇美の決意に、大和は頷きながらも問う。

「そこだ、とにかく福岡市内のチャイニーズマフィアは福岡県警が洗ってるから、俺らはオカルト方面から攻めよう」

 そちらは、当代随一の陰陽師である岩倉風雅の領分だろう。


「悪魔を攫ったっていうなら、確かにそっちだね。ここは、この街の神殺しに会いに行こう」

「へ? それって華崎兄妹さんじゃないの?」

 風雅の提案に対する陽美香の問いに、勇美は首を振る。

「いや、あいつらもともと静岡だ。福岡の神殺しってのは知らないな」

「福岡ってのは、海外との交易で発展した都市だ。そして伝統的に中央教会の勢力が根強い。海外の教会から街に派遣されているはずだ。その人達に会いに行こう」

 五人はレンタカーの8人乗りの乗用車に乗り込み、市内の教会に向かった。


 そこは、煌びやかなステンドグラスが美しい、荘厳な教会だった。

 見ると、グランドピアノを弾いている神父が一人いる。

 曲は大和にはよくわからなかったが、陽美香がポツリと呟く。

「モーツァルトのミサ曲よ、上手ねプロみたい」

 そういえば彼女はピアノを習っていたか。

 クラスの合唱曲も大概陽美香が伴奏を弾くのだ。

「おやおや神殺し(ディバインキルズ)が二人も、どういったご用向きでしょうか」

 流暢な日本語で話すのは、金髪碧眼の、これぞ正統派神父といった様子の青年だった。

 瞬間、5人は悟る。

 

 強いなこの人。


 ピアノを弾く手を止め、五人に向き直る。

「私は中央教会所属の神殺し(ディバインキルズ)。サムエル・フィオーレです。よろしく」

 五人はめいめい挨拶しながら握手をする。


「ちょっと神殺しの身内が一人、謎の団体に捕まっていて」

「聞いておりますよ。まだ一歳にも満たぬ赤子を攫うとは、まさに外道の仕業です」

「ええと、事情はどこまで」

「もちろん全てです。小太郎くんが最後に伝えた情報は私達の耳にも入っています。

 悪魔の力をその身宿した少女がさらわれたこと、その少女の能力を押さえる機械をつけられていること。

 犯人は銃火器で武装していること。それ位ですね」

 サムエルは悲しそうに眉を寄せる。

「この辺りで、悪魔崇拝をしているような団体って何がありますか」

 大和の問いに神父はふむと顎に手をやる

「いえ、定期的に教会の部隊がこの辺りを見回っているので、少なくとも福岡では聞いたことがないです。それだけに福岡の暴力団が人身売買をしていたとは驚きでした」


 フルフル騒ぎに端を発した悪魔騒動は、金星教団を倒しただけでは思わなかった。

 主に全国第三位の勢力を誇る回生会を中心に、関連した組織がやり玉に上がっている。

 

「しかし金星教団の壊滅により、信奉者達も勢いを無くしていますし、にも関わらず、これだけの組織。とても危険な相手ですね」

 信奉者とは、悪魔や神への崇拝や見返りのため、神殺しを狙う常人の総称である。

 サムエルは目を細めて真剣な表情をする。

「教会の方でも探してみます。あまり期待しないで欲しいですが」

「いえ、十分です。ありがとうございます」

 そう言って、五人は教会を後にした。



 車に乗って数分後、勇美をある感覚が襲う。

 神殺しのものだ。

 神殺しとしての知覚範囲は勇美の方が大和より優れている。

 勇美は雄大に地図アプリ片手に指示し、ハンドルを切ってもらう。

「中央区の方です!」

「まだ福岡市内にいたのか」

 そこは、5階建て位の雑居ビルが立ち並ぶ地域であった。

 まるで平穏といった様子で、ここに連続殺人鬼が潜伏しているとは夢にも思うまい。

「あの車だ」

 おそらく盗難車だろう車に、二人の神殺しの気配がする


 そこで、五人の耳朶をパリンという音が叩く。

 見上げると、人型の何かが二つほど落ちてきた。それは野太い悲鳴をあげており、それが成人男性だと気付く。

 グシャっと、路駐してあった車に男がつっこみけたたましい破壊音を奏でる。

 さらにその上に落下したのは長髪に長身、そして筋肉質の少年、蓮野小太郎。

 人と車をクッションにした少年は、井上勇美と釧灘大和の姿を見て、バツが悪そうにしたあと、車まで走った。

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